第百七十二話 リーファ対漆黒の戦女(中編)
---主人公視点---
……。
私とマリーダの距離は約200メーレル(約200メートル)くらい離れているわ。
狭い封印結界の中だからこれ以上は距離を取れない。
だが狭いなら狭いで戦いようはあるわ。
まずは『魔力覚醒』、そして『速射』を発動させるわ。
「――魔力覚醒っ!!」
まずは職業能力「魔力覚醒」を発動させた。
これで私の魔法能力が倍になった。
「――『速射』っ!!」
私はそこから『速射』を発動させる。
この技の効果時間は約五分。
この五分間の戦いで勝負が大きく分かれそうね。
「マリーダちゃん、こちらも「魔力覚醒」と「速射」を使おうニャン」
「そうね、ガーラ、 そうするわ。 ――魔力覚醒っ!」
こちらに対抗すべく、マリーダも「魔力覚醒」を発動させたわ。
「速射」も使えるみたいだし、
戦乙女と漆黒の戦女はスキルや能力も被っているようね。
となれば必然的にレベルが高いこちらが有利になるわね。
「――「速射」っ!!」
マリーダも『速射』を発動させた。
これで条件は五分五分ね。
でもここは念の為に『戦乙女の祝福』も使うわ。
「女神サーラよ、我に祝福を与えたまえ!
――「戦乙女の祝福」っ!!」
私がそう言葉を紡ぐなり、
目映い光が私の身体に降り注がれた。
これによって私の力と耐久力、敏捷性の能力値も強化された。
更には『自動再生』の効果も発動した。
とりあえずこんなところね。
まずはこの状態で魔法戦を行い、
マリーダの魔法能力やスキル、能力を見極めるわ。
まずは初級光属性魔法で相手の出方を伺うわ。
この狭い封印結界の中で、
火炎属性の魔法の連発は控えるべきね。
さあて、マリーダ。 アナタの力を測らせてもらうわよ。
「ライトボール、ライトボール、ライトボールゥッ!!」
私は左手を前に突き出して、ひたすら初級光属性魔法を放つ。
私の左掌から放出された光の球が高速でマリーダに迫る。
「マリーダちゃん、シャドウ・ボルトでレジストするニャン」
「ガーラ、了解よ。 シャドウ・ボルト、
シャドウ・ボルト、シャドウ・ボルトォッ!!」
「!?」
次の瞬間、マリーダは左手から闇色の衝撃波が放出されて、
私が放った三つの光の球に綺麗に命中した。
「シュイィィィン」
光の球と闇色の衝撃波が綺麗に混ざり合い、
お互いにレジストされて、音を立てて綺麗に消え去った。
……成る程、マリーダは闇属性を使うのね。
そういう意味じゃ私の光属性と相性が良いわ。
「これがレジストですの?」
「マリーダちゃん、レジスト上手いニャン。
見て見て、戦乙女が驚いてるよ、クスクス」
わざとらしく笑う守護聖獣ガーラ。
性格はアレだけど、瞬時にレジストの指示を出す辺りは有能ね。
でもやっぱりこういうタイプは好きになれないわ。
それに戦いはまだ始まったばかり。
レジストされる覚悟でライト・ボールを連射するわよ。
「ライトボール超連射ッ!!」
私はそう叫んで、左手を前後に突き出す。
撃つ、撃つ、撃つ、ひたすら撃ちまくる。
だがマリーダもレジスト狙いで闇色の衝撃波を放つ。
「シャドウ・ボルト超連射ッ!!」
マリーダも凄まじい速度で闇色の衝撃波を生成、放射する。
そして光の球と闇色の衝撃波が衝突し、レジストされる。
……その動きに幾分の無駄もないわ。
どうやら私の知っているマリーダとは別人のようね。
まだ経験が浅いから、所々で不器用さを感じさせるけど、
全体的に見れば、こちらの動きにちゃんとついてきている。
これは才能やセンスではない。
恐らくマリーダにあるのは執念。
この私に勝ちたいという一心で戦い続けているのでしょう。
正直、このまま経験を積んだら、
私相手にも互角、あるいはそれ以上に渡り合える可能性は高い。
ならば早い段階で、危険な芽は摘んでおくべきね。
「ライトボール超連射ッ!!」
私は再び超高速で光の球を連続で放った。
だが何もしなければ、またレジストさせるでしょう。
ならば何かをすれば、戦いの流れは変わる筈。
「フン、ブレイクッ!」
私は左手を強く握りしめた。
するとマリーダに命中する前に光の球が綺麗に弾け飛んだ。
「えっ!? ま、眩しいっ!!」
弾け飛んだ光の球が強い光を放つ。
私は左腕で自分の視界をきっちり防御したけど、
マリーダはまともに強い光を至近距離で浴びた。
当然の如く、視界が奪われてみじろぐマリーダ。
「ひ、卑怯な真似を……あああぁっ!?」
そして第二、第三の光の球がマリーダに命中した。
それによってマリーダは、
苦悶の表情を浮かべて、「あう」と悲鳴を漏らした。
「くっ、マリーダちゃん! 頑張れるニャン!」
少々、小細工が過ぎるけど、結局は勝てばいいのよ。
負けたら全てが無になる。
だから私は勝つ為に、義妹に更なる苦痛を与えるわ。
「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! 『スターライト』ッ!!」
私は素早く呪文を紡いで、
左手から眩く輝いた光の波動をマリーダに向けて放射した。
光属性攻撃の上級魔法。
おまけに「ソウル・リンク」や能力の重ね掛けで強化された一発。
これが決まれば、この時点で勝負はつくわ。
「マリーダちゃん、危ないニャン!
フニャオオオンッ!! ――『吸魔』っ!!」
そう叫びながらガーラは口を開けて大きく息を吸った。
次の瞬間には、私が放った光の波動がガーラの口内に、
吸い込まれて、光の波動は綺麗に消え失せた。
「なっ!? 吸収能力があるのね!」
「ニャハハハ、見たか! これがボクちゃんの力だニャン。
これも全てキミがボクちゃんを守護聖獣にしなかったのが悪い。
精々、己のミスを悔やむが良いっ!」
「くっ、いちいち癇に障るわね」
「ニャハハハ、ねえ、ねえ、今どんな気分だニャン?」
嘲笑うガーラ。
「ガーラ、遊んでないできちんとサポートしてよ!」
「ゴメン、ゴメン、マリーダちゃん。
じゃあ吸収した魔力を渡すね! 『魔力解放』」
そしてガーラからマリーダに魔力が受け渡された。
こ、これはマズい流れね。
「立場逆転ね、お義姉様っ! 今度は私の番よ。
ハアアアァッ! ――ダークネス・スティンガー!」
マリーダが右腕を錐揉みさせると長剣の切っ先から、
うねりを生じた薄黒い衝撃波が、
矢のような形状になって放たれた。
鋭く横回転しながら、
地面を抉りながら、神速の速さで大気を切り裂く。
これは躱さないとヤバいわね。
「――フライ」
私は飛行魔法で回避を試みるが――
「はああぁ……あああぁっ! 曲がりなさい!」
マリーダがそう叫ぶなり、
薄黒い衝撃波は、浮上するような軌道を描き、
上空に逃げた私の後を追ってきた。
「くっ!?」
私は咄嗟に右側に飛んだが、
黒い衝撃波は暴力的に渦巻きながら、私の左脇腹を掠めた。
「あ、あああぁっ!?」
私の左脇腹が抉れて、下に着込んだ黒いインナスーツが破けた。
そして貫通した黒い衝撃波は、
その背後にあった透明の結界に命中。
耳をつんざくような音が周囲に響き渡り、
透明の結界に放射状の罅が入る。
そして硝子が割れるような音と共に
黒い衝撃波が透明の結界を打ち砕いた。
まさか封印結界を破壊するとは……。
直撃を喰らっていたら、間違いなく死んでいたわね。
私はそう思いながら、左手で自分の脇腹を押さえながら、
ゆっくりと地面に着地した。
……。
さあて、どうしたものかしら?
とりあえずはまずは自分の傷を癒やすべきね。
問題はそこから先よね。
マリーダがここまでやるとはね。
正直、計算外だったわ。
次回の更新は2024年1月14日(日)の予定です。
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