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第百七十話 姉妹喧嘩


---主人公視点---



 ……。

 目の前には漆黒の長剣をこちらに向けたマリーダが立っていた。

 その近くに屍と化したオルセニア将軍が地面に転がっている。


 まさか漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)がマリーダだったとは……。

 こんな事なら島流しではなく、

 あの時に確実に処刑しておくべきだった。

 とは今でも思えないのよね。


 良くも悪くもこの手でマリーダや実父と義母を処刑する、

 という業を背負う覚悟は私になかった。

 それは倫理観というより、自己防衛の為だった。


 どういう形であれ、

 あの時、マリーダ達を処刑していたら、

 その事実が私の精神を蝕んだでしょう。


 だけど今のこの状況は、私が招いた結果とも言える。

 マリーダがどうして漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)になり、

 帝国軍の一員になった理由は分からないけど、

 彼女の目的は分かる。


 言うまでも無いわ。

 それは自分の手で私を殺すという動機でしょう。

 恐らくそれが今の彼女の行動原理の全てだと思うわ。


 そして私としてもそれに対して、

 最大限の抵抗をして、逆にこの手でマリーダを倒す。

 という覚悟を決めて、戦いに挑む必要があるわ。


 私はそう思いながら、

 白馬から降りて、右手に持った聖剣を構える。


「どうやらやる気になってくれたようですね。

 そして貴方の中でようやく私という人間を認知してくれたのね」


「……どういう意味かしら?」


 とりあえずここはある程度会話を交わそう。

 少しでも多くの情報を引き出して、

 マリーダが何を考えているか、探り出すわ。


「かつての貴方は私の事など眼中になかったわ。

 いつも気高く、凜々しい侯爵令嬢として振る舞っていた」


「眼中にない訳ではなかったわ。

 ただ私と貴方は性格的にも生き方も合わなかったのよ。

 だから私は貴方を無視して、貴方は私を憎んだ」


「……それに関しては否定しないわ。

 むしろ私の方に非があったでしょう」


「……意外ね、それを認めるの?」


 するとマリーダはこくり、と小さく頷いた。


「当たり前でしょう、私は貴方の婚約者を奪って、

 実家から追放した。 その挙げ句に反乱に生じて

 王太子殿下と一緒に貴方を殺そうとした。

 だから敗れた私が流刑されたのも当然の事よ」


 ……。

 まさかこうも素直に自分の過ちを認めるとは……。

 どうやら今のマリーダは、

 昔のマリーダとは少し違うようね。


「……それを認めておきながらも、

 今になって私に復讐するというのは、

 どういった心境かしら?」


「厳密に言えば復讐をしたい訳じゃないわ。

 私はね、どういう形であれ貴方に勝ちたいのよ。

 だってそうじゃないと自分が惨めでしょ?

 最初から最後まで貴方に全く敵わず、

 流刑先の離島で死ぬまで貧しく生きる。

 なんて結末は哀れを超して、喜劇だわ」


「……そこまでして私に勝ちたいの?」


「勝ちたいわっ!!」


 ……。

 歪ね、前から思っていたけど、

 このマリーダという娘は非常にいびつな性格をしているわ。


 だけど今のマリーダは、それだけじゃないわ。

 私に勝ちたい、という異様な執念はひしひしと感じるわ。

 これは私も覚悟を決めて、戦うべきね。

 

「分かったわ、ならば貴方との勝負を受けるわ」


「お義理ねえ様、ありがとうございます」


「一騎打ちの邪魔をされたくないから、

 封印結界を張るけど良いかしら?」


「どうぞご自由に……」


「では遠慮無く……」


 そして私は封印結界の範囲を設定する。

 全長250メーレル(約250メートル)、幅十五メーレル(約十五メートル)。

 それに加えて高さは、十メーレル(約十メートル)に設定。

 この大きさなら、お互いに存分に戦えるでしょう。

 

「我は汝、汝は我。 嗚呼、母なる大地ハイルローガンよ! 

 我が願いを叶えたまえっ! 『封印結界』ッ!!」


 私がそう呪文を唱えると、

 私とマリーダの周囲がドーム状の透明な結界で覆われ始めた。

 それから私達を閉じ込めるように、ドーム状の結界が広がった。


 縦と横の広さも程良く、高さも問題ないわ。

 これならば結界内でも、正々堂々と全力に戦えるでしょう。


「……マリーダ、念の為に結界の強度を確認してみなさい」


「ええ……」


 マリーダは私の言葉に従い、

 周囲を覆う透明の結界に近づいて、左手で触れた。

 するとマリーダが僅かに顔をしかめて、左手を引っ込めた。


「……この強度なら問題ないですわね」


「ええ、これで条件は五分五分。

 では行くわよっ! 我が守護聖獣ランディよ。 

 我の元に顕現けんげんせよっ!!」


 私はそう叫ぶと、私の足下に小柄なジャガランディが現れた。

 今更言う必要もないわね。

 私の守護聖獣のランディよ。


「いざ尋常に勝負!!!

 行きますわよ! ――我が守護聖獣ガーラよ。 

 我の元に顕現せよっ!!」


 マリーダはそう叫びながら、左手を頭上にかざした。

 するとマリーダの頭上に守護聖獣らしき猫が現れたわ。

 体長六十セレチ(約六十センチ)のサバ虎の猫。


 円らな蒼い瞳。 ふさふさの毛。 

 そして肩下まで丈のある緑のケープマントという格好。

 ……妙ね、何故か既視感を感じるわ。

 私がそう思っていると、

 その守護聖獣らしき猫があざ笑うように叫んだ。


「ニャハハハッ! 久しぶりだニャン。

 アスカンテレスの戦乙女ヴァルキュリアよ!

 ボクはこの時を待っていたニャン!

 ご主人様とボクでキミをメタメタにしてやるニャン!!」


 ……。

 向こうもこっちを知っているようね。

 でもここはあえて知らないふりをしましょう。


「……誰かしら?」


「ニャオォンッ!」


 私の言葉に地面にずっこける眼前のサバ虎の猫。

 でもすぐに立ち上がって、右足で地団駄を踏んだ。


「そういう所だニャンッ!

 ボクはキミのそういうところが気にいらないニャン!」


「そう、私は別にアナタに好かれたくもないわ」


「ニャ、ニャオオオンッ!」


「ガーラ、相手の挑発に乗らないで!」


 マリーダが緩んだ空気を引き締めるべく、一喝する。


「わ、分かったニャン」


「ガーラ、行くわよ! 『ソウル・リンク』ッ!!」


「了解だニャン、リンク・スタートォッ!!」


 そしてマリーダが『ソウル・リンク』を発動させた。

 マリーダと猫の守護聖獣の魔力が混ざり合い、

 マリーダの能力値ステータスと魔力が急激に跳ね上がったわ。


 でも焦る事はないわ。

 こちらも同じ事をするまでよ!


「ランディ、こちらも『ソウル・リンク』するわよっ!!」


「了解、リンク・スタートォッ!!」


 そして私とランディの魔力も混ざり合い、

 私の能力値ステータスと魔力も急激に跳ね上がる。

 これで条件は五分五分よ。


 そして私は右手で戦乙女ヴァルキュリアの剣(・ソード)の柄を握りしめて、

 両足で地面を強く踏み込んで、重心を低くして構える。


 これから行われるのは、ある意味壮大な姉妹喧嘩。

 でも只の姉妹喧嘩ではないわ。

 己の存在意義と命を賭けた姉妹喧嘩。

 そしてその姉妹喧嘩に勝つのはこの私よ!



次回の更新は2024年1月10日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 マリーダ、人として随分と成長していますね。 これも、流刑になったからなのですが、これだけ精神力のある人物になれた可能性もあると少し悲しいですね。 そして、相変わらずの…
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