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第百六十九話 オルセニア将軍対マリーダ(後編)



---三人称視点---



 漆黒の装備に身を包んだ、銀髪碧眼の女性騎士。

 リーファはその女性騎士を見据えて、静かに言葉を漏らす。


「あなた、本当にマリーダなの?」


 リーファの言葉に対して、

 銀髪碧眼の女性騎士――マリーダは「ふん」と鼻を鳴らした。


「これはこれは、有名な戦乙女ヴァルキュリア様に

 私なんかの事を覚えて頂けて、非常に光栄ですわ」


「どうして貴方が漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)になっているの?

 そして帝国軍の一員になっているのよ!」


 唐突な展開にリーファもやや困惑していた。

 マリーダはそんな彼女に睨めるような視線を向けた。


「あらら、貴方の中じゃ私は一生ネルバ島暮らしとでも思っていたのかしら?

 でもね、人間なんていうものは、

 状況次第でいくらでも変わる事が出来るのよ」


「……貴方、一体どういうつもりなの?」


「お義姉ねえ様、私の本心を教えてあげましょうか?」


「……ええ、是非聞かせて頂戴」


 するとマリーダは挑発的な笑みを浮かべて、

 リーファを見つめる。


「私の本心は戦乙女ヴァルキュリア

 貴方をこの手で倒す事よ。

 私はその為に漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)になったのよ!」


「なっ!? 貴方、正気なの!?」


「正気も正気よ! その為に私は多くの物を犠牲にした。

 そしてその代償として、大きな力を手に入れた。

 それもすべてはお義姉ねえ様、貴方に勝つ為よ!」


「……」


 一見すれば馬鹿げた話である。

 最初にリーファの婚約者を奪って、

 婚約破棄させた上に実家から追放したのはマリーダ達だ。


 その後、内乱に生じて、

 ラミネス王太子とリーファを害そうとしたのもマリーダ達である。

 その結果、リーファ達が勝ち、マリーダ達が負けた。


 そしてマリーダとその母、そして実父をネルバ島送りにした。

 いくら酷い父親や義理の母、妹といえど、

 殺すという選択肢を選ばなかったのは、

 リーファの優しさでもあり、甘さでもあった。


 そして、今それが完全に裏目に出た形となった。

 何とも言えない感覚がリーファの全身に巡った。

 

「……焦ることはないわ。 戦乙女ヴァルキュリアリーファ!

 これから私が何度でも貴方の相手になってあげるから。

 それこそ貴方が嫌と言っても、つきまとうわ」


「……」


 リーファはそれがマリーダの本心であると理解した。

 二人はしばしの間、睨み合っていたが、

 オルセニア将軍が馬をゆっくり歩かせて、

 リーファの前へ出た。


「……何やら立て込んだ事情がありそうですが、

 今、あの女と戦っているのは、この私です。

 ですので戦乙女ヴァルキュリア殿、この場は私に任せて頂きたい」


「……そうですね」


 リーファはそう言葉を交わして、後ろに下がった。

 一方、マリーダは中距離を保ったまま、

 漆黒の魔剣を右手で構え、左手に魔力を篭めた。


「そう言えばまだ貴方との勝負がついてなかったですわね。

 良いでしょう、戦乙女ヴァルキュリアと戦う前の前哨戦として、

 貴方の相手をもう少ししてあげますわっ!」


「ふん、それが思い上がりという事を教えてくれよう」


「同じ言葉をそのまま返しますわ。 ――速射!」


 マリーダはそこでスキル・『速射そくしゃ』を発動させた。

 先程の戦いで武器を使った戦闘法にはある程度慣れた。

 実際、オルセニア将軍の職業ジョブは、

 レベル48の戦士せんしであった。


 これは一般的に見えてかなりの高レベルといえた。

 その高レベルの相手に互角以上に渡り合ったのだ。

 これに関しては、マリーダの戦闘技術が高いというよりかは、

 漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)になった恩恵であった。


 それぐらい戦乙女ヴァルキュリア漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)がもたらす能力値ステータススキル能力アビリティは、

 他の職業ジョブより数段優れていた。


「では行きますわよ! ――シャドウ・ボルトォッ!」


 マリーダはそう叫んで、左掌から闇色の衝撃波を放った。


「シャドウ・ボルト、シャドウ・ボルト、シャドウ・ボルトォッ!!」


 マリーダは左手を前に突き出して、ひたすら魔法攻撃を仕掛けた。

 初級闇属性魔法だが連射されると、

 馬に乗っているオルセニア将軍としては、

 こうも連射されると完全に回避するのは難しかった。


「くっ、しゃらくさいっ!」


 戦士せんしは近接攻撃や防御役タンクとしては、

 優れていた職業だが、魔法の類いは一切使えない。

 それ故にこのような魔法戦では、戦いようがなかった。


 結局、オルセニア将軍は回避を試みるも、

 何度も闇色の衝撃波を浴びて、

 鞍から落ちて、草の中に転落した。

 それでも即座に体勢を立て直す辺りは立派だが、

 既に戦意は低く、周囲の兵士や魔導師にちらりと視線を向けた。


 ――今すぐ加勢せよ!


 という言葉は自尊心プライドが邪魔して出てこなかったが、

 部下達の加勢を視線で促すが、

 多くの者は激しい戦闘に目を奪われていた。


「――これで条件は五分ね!

 ここからが本番よ! シャドウ・ボルト超連射フル・バーストっ!」


 マリーダはそう言うなり、

 左手を前後に突き出して、闇色の衝撃波を次々と放つ。

 対するオルセニア将軍も体捌きや足捌きを駆使して、

 何とか回避を試みるが、全てを回避するには至らない。


「ぐっ、ぐっ……」


 オルセニア将軍の銀色の鎧の至る所から、

 プスプスと焦げたような煙が上がっていた。

 これ以上の回避は厳しかった。

 それを察したマリーダは更なる攻勢に出た。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 食らえっ!! 『シャドウ・インパクト』」


 上級の闇属性魔法攻撃。

 マリーダの左掌から漆黒の波動が迸る。

 直撃したら即死する!


 オルセニア将軍は瞬時にそれを悟った。

 だからこの場を乗り切る為、

 彼も切り札の職業能力ジョブ・アビリティを発動させた。


「――パーフェクト・ガードッ!」


 オルセニア将軍がそう叫ぶなり、

 彼の周囲に透明色の結界が張られた。

 そしてマリーダの漆黒の波動が命中すると、

 その透明色の結界は、音も無く綺麗に消え去った。


 戦士せんし職業能力ジョブ・アビリティ『パーフェクト・ガード』。

 その名の通り一度だけだが、

 物理攻撃も魔法攻撃も無効にする最強の防御スキルの一つ。


 但し直積時間チャージ・タイムが六十分もあるので、

 この一騎打ちでこの防御スキルを使う事はもう出来ない。

 だがこれでオルセニア将軍はなんとか一命を取り留めた。

 しかし急な防御で態勢を崩してしまった。

 当然、マリーダはその隙を逃さなかった。


「貰ったぁ! ――グランド・クロスッ!」


 マリーダは勝負を決めるべく、

 聖王級せいおうきゅう剣技ソード・スキルを繰り出した。


 まずは薙ぎ払いを放ち、

 オルセニア将軍の腹部に一の文字を刻み込んだ。


 そこから漆黒の魔剣を振り上げて、

 オルセニア将軍の頭部に縦斬りを放った。


「ぎ、ぎ、ぎ、ぎゃあああ……あああぁぁぁっ!!」


 マリーダの漆黒の魔剣による縦斬りが見事に決まった。

 頭の天辺から股下まで一直線に切り裂かれて、

 十の文字が綺麗に刻まれたオルセニア将軍は、

 断末魔の悲鳴を上げて、背中から地面に崩れ落ちた。


 完全に急所を突かれたオルセニア将軍は、

 十五秒程、身体をピクピクと痙攣させたが、

 しばらくすると呼吸が途絶えて、動かなくなった。

 

 この予想外の幕切れに、周囲の者達もただ憮然としていた。

 だが当の本人であるマリーダは返り血を浴びながらも、

 リーファの方に視線を向けて、

 背筋が凍るような冷笑を浮かべた。


 そしてマリーダは、

 右手に持った漆黒の魔剣をリーファに向けて――


「次は貴方の番よ! アスカンテレスの戦乙女ヴァルキュリア!」


 こうしてリーファの意思を無視して、

 義理の姉妹による骨肉の争いが始まろうとしていた。



次回の更新は2024年1月7日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です♪ 41話の断罪で一旦区切りがついたマリーダが、ブラックヴァルキュリアになっている展開はめっちゃ好きです(*≧∀≦*) マリーダみたいな悪役でしぶといキャラがどうなるの…
[一言] 更新お疲れ様です。 オルセニア将軍は実力者でした。それなのに... ここでオルセニア将軍が───ってことは、マリーダに少なからず経験値を上げてしまうってこと。 実力者であるのならば、かな…
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