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第百六十七話 兵戈槍攘(後編)




---三人称視点---



「黒い軍馬に漆黒の鎧姿。

 アレが噂の漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)なのかしら?」


 リーファは前方を見据えながら、そう呟いた。

 だが不思議な事に妙な既視感があった。

 その理由は分からないが、

 リーファの心臓の鼓動が高まった。


「お嬢様、どうかなされましたか?」


「アストロス、何でもないわ」


「でも不思議とあの女性を見た気がします」


「貴方もそう思うの?」


「ええ、上手く説明出来ませんが、そういう気がします」


「そう……」


 どうやら自分の思い違いじゃないようだ。

 とはいえ自分の知り合いが帝国軍に加担してるとも思えない。

 となればあの漆黒の鎧姿の少女は誰なんであろうか?


「……余計な事を考えてはいけないわ」


 疑心暗鬼になる前に首を左右に振るリーファ。

 そして白馬を前へ進めて、

 漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)に近づこうとしたが――


戦乙女ヴァルキュリア殿、ちょって待ってもらいたい」


 そう呼び止めたのはオルセニア将軍だ。


「オルセニア将軍、どうかされましたか?」


「いきなり一騎打ちを挑むのは少々危険です。

 なのでまずは騎兵隊を何人か、

 あの漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)にぶつけようと思います」


「……そうですね。 まずは相手の力量を測るべきですね」


「ええ、おいっ! 腕に覚えるがあるもの者は、

 前方の漆黒の鎧姿の女を討ち取って来い。

 あの女の首を獲れば報酬は、思いのままだぞぉっ!」


「おおっ!」


「相手は女! 負けてたまるかぁっ!」


 分かりやすい餌に食いつく連合軍の傭兵及び冒険者部隊。

 彼等は馬を走らせて、マリーダ目掛けて突撃するが――


「ふんっ! 私も舐められたものね。

 良かろう、漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)の力を見せてくれよう!」


 マリーダはそう言いながら、

 黒い軍馬に跨がりながら、右手に持った漆黒の魔剣を縦横に振った。


 すると漆黒の魔剣の切っ先から、

 闇色の波動が放たれて、迫り来る敵兵に綺麗に命中した。


「ぐ、ぐ、ぐあああぁ……あああぁっ!?」


「な、何だ!? 何が起きた……あああぁっ!!」


 闇色の波動を浴びて、連合軍の騎兵が十人吹っ飛んだ。

 まともに直撃した者は即死。

 あるいは半死状態となり、

 それ以外の者達も激しい傷を負った。


「アレは戦乙女ヴァルキュリア殿と同じように剣から魔力を発しているぞ!」


「あんな飛び道具があったら、迂闊に飛び込めんぞ!」


「ああっ……」


 周囲の惨状を見て、兵士達も及び腰になった。

 その空気を察したオルセニア将軍が新たな指示を出す。


「……魔導師部隊、魔法攻撃を仕掛けろ!」


「了解ワン!」


「ニャニャニャ、イエッサー!」


 オルセニア将軍の指示に従うべく、

 大型犬やポニーに乗った犬族ワンマン猫族ニャーマンが果敢に前へ出た。

 そして両手で印を結んで、呪文を唱える。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『フレアバスター』!!」


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! ニャニャニャッ! 『プラズマバスター』!!」


 目映く輝いた光炎フレアや光の波動が

 前方に陣取るマリーダ目掛けて、放出された。

 しかしマリーダは慌てる事なく、

 背中から『常闇とこやみの盾』を取り出して、

 左手で構えながら、魔力を篭めた。


「なっ!?」


 マリーダが『常闇とこやみの盾』に魔力を篭めるなり、

 前方に放たれた光炎フレアや光の波動が綺麗に吸収された。

 予想外の展開に連合軍の動きが僅かに止まった。

 マリーダはそれを待ちかねていたように、

 右手の漆黒の魔剣を一度鞘に収めて、右手を頭上にかざした。


「我は汝、汝は我! 暗黒神アーディンよ。 

 我に力を与えたまえ! 食らえっ!! 『シャドウ・インパクト』」


 すかさずマリーダの右手の平から、

 漆黒の波動が放たれて、連合軍の騎兵達を襲った。


「ワオオオォォォンッ!」


「ニャー、誰か対魔結界を……ニャアアァァァンッ!」


「エイシル、対魔結界を!」


 咄嗟に叫ぶアストロス。

 だがその前にリーファが左手に持った「幻魔の盾」を前へ突き出す。

 そして眉間に力を篭めて、「幻魔の盾」に魔力を流し込んだ。

 すると「幻魔の盾」が目映く光り、

 迫り来る漆黒の波動を綺麗に呑み込んだ。


「流石はお嬢様です」


「リーファさん、流石です!」


「うん、お姉ちゃん、凄い!」


「今の動きは神がかっていたわね」


 アストロス、エイシル、ジェイン、ロミーナが揃って褒め称えた。

 だがリーファはその先を見ていた。


「オルセニア将軍! 危ないですっ!」


「えっ……? な、何っ!?」


 気が付けばマリーダが全力で黒い軍馬を走らせて、

 鹿毛の軍馬に乗るオルセニア将軍目掛けて突撃して来た。


「遅いわっ! ――ダブル・ストライクッ!!」


「ぬうっ! ――ハード・スマッシュッ!」


 不意を突いたマリーダの二連撃。

 だがオルセニア将軍も右手に持った鋼の大剣で応戦する。

 漆黒の魔剣と鋼の大剣が衝突して、周囲に火花が散る。


「舐めるなよ! こう見えても実戦経験は豊富なんだよ!」


「舐めてはいないわ。 貴方は丁度良い練習台になりそうなのよ」


 マリーダは「常闇とこやみの盾」を背負いながら、

 右手に漆黒の魔剣、左手を自由にした状態を保つ。


「良い練習台だと!? それが舐めているというのだ!」


 オルセニア将軍は右手で鋼の大剣。

 左手で手綱を握りながら、奥歯を噛みしめた。

 確かにオルセニア将軍は実戦経験が豊富だ。


 だが彼はもう四十二歳になる中年。

 ここ数年は前線で指揮を執ることも多いが、 

 敵と直接戦う事はかなり減っていた。


 なので漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)相手に一騎打ちを仕掛けるのは愚策と言えよう。

 彼自身、それが分かっていた為、

 視線をちらちらとリーファに向けた。


「……」


 しかしリーファも加勢する気配を見せなかった。

 彼女としてもまずは誰かが戦う姿を見て、

 漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)の力量を知りたかった。


「……」


 ――どうやらリーファ殿は加勢する気はなさそうだ。

 ――ならば俺も後退して様子見に徹するべきか。

 ――だがこの観衆の前で退く姿は見せたくない。


 ――とはいえ相手は漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)

 ――下手に戦えば、俺が死にかねん。

 ――ならば最初から守勢に回って、相手の様子を見るか。


 オルセニア将軍はそう思いながら、

 右手に持った鋼の大剣を強く握りしめた。

 するとマリーダが相手を小馬鹿にするような笑みを浮かべた。


「へえ、逃げないのね? 立派よ!」


「ふん、小娘が図に乗るなよ!」


「いつまでもお見合いしていても仕方ないわ。

 ……ところで貴方のお名前は?」


「オルセニアだ。 レイモンド・オルセニアだ!」


「そう、良い名ね。 でも残念だわ。

 数分後には貴方は死に、私も貴方の事をすぐ忘れるわ」


「だから舐めるなぁ! 貴様如き物の数じゃないわ!」


「舐めてないわ。 私は事実を述べているだけよ!」


「抜かせっ!」


「では死んでもらうわ!」


 そして二人は片手で手綱を握りながら軍馬を走らせた。


次回の更新は2024年1月3日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 まだ、リーファはマリーダの正体に気が付いていないようですね。 そして、マリーダはリーファがこの場にいることに自体気付いていなさそうですね。 オルセニア将軍、リーファに…
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