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第百六十六話 兵戈槍攘(中編)


---三人称視点---



 騎兵が草原を駆け抜け、魔法攻撃が大地を震わす。

 広大な草原を駆ける連合軍と帝国軍の騎兵達は、

 大小様々な戦いに明け暮れていた。


 しかし戦いの流れは帝国軍の騎兵隊が掴んでいた。

 帝国軍の騎兵隊『ネオ・ブラックフォース騎士団ナイツ』は、

 一度は解散命令が下されたが、

 この度、再結成された帝国軍でも名うての騎兵隊。


 全盛期に比べたら、騎兵隊の兵力や練度はやや劣るが、

 それでも騎兵としては、帝国軍でも一、二を争う存在。


 対するオルセニア将軍率いる連合軍の騎兵隊は、

 俄仕込みの即席部隊であった。

 それ故に帝国軍の騎兵隊が有利であったのも、

 当然の流れといえた。


「よし、ここで一気に決めてやる!」


 ハーン元帥は再び右手を肩の線まであげた。


「重騎兵隊、第一陣突撃せよッ!!」


 その言葉を待ちわびていたかのように、

 第一陣となる帝国軍の重騎兵隊は、

 混乱する連合軍騎兵隊に襲い掛かった。


 すれ違い様に鞍上の連合軍騎兵隊の腹部を武具で切り裂き、

 落馬した所を後続の騎兵隊が無遠慮に踏みつける。


「『ネオ・ブラックフォース騎士団ナイツ』の力を見せてやれ!」


「おおっ! ――イーグル・ストライクッ!!」


「喰らえっ! ――ヴォーパル・スラストォッ!!」


「ぎ、ぎゃあああ……あぁぁぁっ!?」


「続け、続けっ! 我等の手で勝利を掴むぞっ!」


「おおっ!」


 人も馬も鎧で固めた重騎兵が大剣や戦槍、棍棒を駆使して、

 連合軍の騎兵隊を次々と斬り捨てる。


 中衛、後衛の騎兵隊は基本的に弓で攻撃。

 そして前衛の重騎兵隊は、

 その類い希な身体能力と戦闘力で相手を圧倒する。


「くっ、想像以上に敵が強いっ!

 後退したくても後退する余裕がない。

 このままではジリ貧だ。 どうすれば――」


『オルセニア将軍、聞こえますか?

 私はシャーバット公子です』


 『耳錠の魔道具(イヤリング・デバイス)』越しにシャーバット公子の声が聞こえてきた。


『シャーバット公子殿下、聞こえております。

 公子殿下、何かご用でしょうか?』


『オルセニア将軍、敵の騎兵隊は想像以上に強い。

 単純な騎兵戦では、我が軍に勝ち目はないでしょう』


『そんな事は私も百も承知だ!』


 オルセニア将軍は、やや苛ついた感じでそう告げた。

 それに対してシャーバット公子は冷静な口調で用件を伝える。


『なのでここは我等、犬族ワンマン猫族ニャーマンの騎兵隊に

 魔導師を相乗りさせて、敵を魔法攻撃で攻めようと思います』


『……成る程、それは名案かもしれませんな』


『ええ、ですのでオルセニア将軍指揮下の騎兵隊の一部を

 我等、獣人の護衛部隊に回して頂けませんか?』


『了解致しました。 だが今は後退したくても、

 後退できない状況なので、まずは獣人部隊による

 魔法攻撃で敵の騎兵隊を後退させて頂きたい!』


『了解です、では早速行動に移ります!』


 それからシャーバット公子の迅速な指揮の下、

 犬族ワンマン猫族ニャーマンの騎兵隊が

 彼等が乗る大型犬やポニーに魔導師を相乗りさせて、

 前方の帝国軍の騎兵に目掛けて魔法攻撃を放った。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 行くだワンッ!! 『アークテンペスト』!!」


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 行くニャンッ!! 

 『ライトニングバスター』!!」


「ぐっ……ぐあああぁっ!?」


「敵の獣人部隊の魔導師達の攻撃だぁ!

 魔導師部隊に対魔結界や障壁バリアを張るように命じよ!」


 周囲の兵士が混乱する中、

 ハーン元帥が的確な指示を飛ばした。

 だが周囲の兵士が元帥に対して上申する。


「駄目です、騎兵隊が先行し続けた為、

 味方の魔導師部隊との距離が空きました」


「くっ、ならばどうしろと言うのだぁっ!」


「こうなれば一度後退して、

 陣形を立て直すべきでしょう」


「ちっ、少し功を焦ったようだな。

 仕方あるまい、全騎兵隊に後退するように命じよ!」


「はっ! しかし敵の魔法攻撃が想像以上に厳しいです!」


 ハーン元帥の失策か。

 シャーバット公子の判断が良かったのか。

 あるいはそのどちらの要因も絡んでいたかもしれない。


 結果的に流れが一度、連合軍に傾いた。

 そしてシャーバット公子がその流れを確実なものにするべく、

 「携帯石版」で戦乙女ヴァルキュリアと意思の疎通を図った。


『リーファ殿、聞こえているかっ!?』


 だが直ぐには返事は返ってこなかった。

 だが約十秒後、「携帯石版」にリーファの声が届いた。


『シャーバット公子殿下、聞こえていますわ!』


 どうやら僅かなタイムラグがあるようだ。

 ならばこの場は端的に用件を伝えるべきだ。


『リーファ殿、前線に出て聖剣を振って、

 魔力の波動攻撃で敵を撃破してもらえないか?』


『……分かりました。 やってみます!』


『うむ、頼むだワン!』


 無事に用件が伝わり、リーファも携帯石版を腰帯のポーチにしまう。

 そして周囲の盟友に対して、意見を述べた。


「今、シャーバット公子殿下から前線に出て、

 戦乙女ヴァルキュリアの剣(・ソード)で魔力を放出して、

 敵を各個撃破せよ、との命令が下されたわ。

 だから皆は私のサポートをして頂戴」


「了解しました」


「ウン、ボクとアストロス君は中衛でサポートするワン」


「ならボクは後衛で対魔結界か、

 障壁バリアを張る準備をしておきます」


 と、エイシル。


「あたしは後衛でリーファさんを狙う敵を矢で狙い撃つわ」


 と、ロミーナ。


「皆、頼んだわよ。

 じゃあ少し厳しい戦いになるけど、

 皆、踏ん張って頂戴っ!」


「「はい」」「はいだワン」「はいだわさ」


 そしてリーファは前方に向けて、全力で白馬を走らせた。

 周囲の味方と敵の騎兵隊が激しい攻防戦を繰り広げる中、

 リーファは巧みな手綱捌きで、

 颯爽と白馬で草原を駆け抜ける。


「よし、敵の姿が見えてきたわ!

 では今から聖剣で攻撃するからフォローをお願い!」


 リーファはそう叫んで、

 手にした聖剣を振り上げて力のある限り振った。

 すると聖剣から真空波が放出されて、

 空を裂いて帝国軍の騎兵隊に襲いかかった。


「うわっ! な、何だっ!?」


 驚き戸惑う敵の騎兵隊。

 そしてリーファは、敵の放つ矢をひらりと躱しながら、

 ひたすら聖剣を縦横に振るう。


 聖剣から放たれた真空波が風の刃となり、

 敵兵を次々と傷つけ、更なる混乱を呼び起こした。

 この絶好の機会を逃すまいと、

 連合軍の騎兵隊と魔導師部隊も後に続く。


「ひ、怯むなっ! 魔導師部隊が来るまで耐えるのだぁっ!」」


 中衛に陣取るハーン元帥は思わず、そう叫んだ。

 兵を鼓舞する為に怒号をあげたが、

 状況に理解が追いつかず、兵士達は混乱していた。


 リーファが手にした聖剣から放たれる真空波は、

 物理攻撃に加えて、

 敵の士気と戦意を著しく低下させた。


「クソッ、あの白馬に乗るのが噂の戦乙女ヴァルキュリアか!」


 ハーン元帥が舌打ちして、忌々しげにそう言った。

 すると次の瞬間、彼が装備する『耳錠の魔道具(イヤリング・デバイス)』に

 「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」マリーダの声が聞こえてきた。


『ハーン元帥、宜しいでしょうか?』


『マリーダ……殿か、何の用だ?』


『ここは私に任せてもらえませんか?

 私ならばあの戦乙女ヴァルキュリアと互角に戦えます』


『……そうだな、ここは貴公に戦ってもらう事にする』


『ありがとうございます!』


『とりあえず十五分程、時間を稼いでくれっ!』


『はいっ!』


 マリーダはそう言葉を交わして、

 右手に『戦女ヴァルキリーの剣(・ソード)』を構えて、

 前方の敵部隊目掛けて、黒い軍馬を走らせた。


「皆さん、今からこの私が戦乙女ヴァルキュリアと戦うので、

 サポートとフォローの方を宜しくお願いっします」


 すると周囲の者達も無言で頷いた。

 そしてマリーダはマスカレードマスクのような派手な黒い仮面を

 装着しながら、口の端を持ち上げた。


 ――覚悟をするがよい。

 ――アスカンテレスの戦乙女ヴァルキュリアよ!

 ――貴様を倒すのは、この「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」だぁっ!



次回の更新は2023年12月31日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 白馬で戦場を駆け抜けるリーファ。絵になりますね。 そして、遂に因縁の対決が。 リーファはどんな反応をするのでしょうか。
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