第百六十二話 緊急会議(前編)
---三人称視点---
聖歴1756年12月22日。
エストラーダ王国の王都エスラーム。
この王都エスラームは、樹齢一千年を軽く超えるであろう太くて、
高い木々が何本も生い茂っていた。
それらの木々の枝の上に梯子や階段、
また枝から枝へ橋のような道が至る所にあり、
所々に木造の家が何軒も建っていた。
そしてその奥にある大聖木を中心にして、
白く輝いた白い城が建っている。
城自体の造りは他国や他種族とほぼ同じであった。
だがその見事なまでの白く輝いた白い城と、
森に囲まれた周囲の風景が幻想的な雰囲気を醸し出している。
この光景に連合軍の首脳部もやや圧巻されながらも、
エルフ族の兵士達に案内されながら、
迷路のような森を越えて、
白い城――エストラーダ城に入城する。
城の中は一部木造りであったが、
所々には白大理石や無色の魔石、白水晶も使われていた。
庭園の手入れも行き届いており、
白薔薇や赤い薔薇が綺麗に咲いていた。
ちなみ今回の会議参加者は――
ホスト国であるエストラーダ王国からは、
国王グレアム三世、グレイス王女、エルネス団長。
アスカンテレス王国のラミネス王太子。
パルナ公国の第一公子シャーバット。
ニャルザ王国の軍司令官ニャールマン。
ジェルミア共和国のジュリアス将軍。
ペリゾンテ王国の宰相ヘッケル。
ヴィオラール王国の若き宰相シーク。
アームカレド教国のアルピエール枢機卿。
ガースノイド帝国の元宰相ファレイラス。
そして戦乙女のリーファを加えた総勢十二人である。
十分後。
エルフ族の兵士に案内されて、
二階の会議室に到着。
会議室内も白を基調としており、
置かれている机や椅子も木造であった。
そして上座に座っているのが、
エストラーダ王国の国王グレアム三世だ。
長身痩躯で見た目は三十前後に見えるが、
実年齢は八十歳を超える壮年のエルフ族だ。
身長は175前後、綺麗な緑髪、眉目秀麗、手足も長い。
そして輝くような黄緑色の衣装を綺麗に着こなしていた。
「ようこそ、エストラーダ王国へ!
立ち話もなんなんで、皆様適当に腰掛けて下さい」
国王は声も美声だ。
周囲の者も国王の言葉に従い椅子に腰掛けた。
座席は木造の長机の左側の席に――
ラミネス王太子、リーファ、司令官ニャールマン。
若き宰相シーク、ジュリアス将軍、ファレイラスが座っている。
右側の席には、
グレイス王女、エルネス団長、シャーバット公子。
アルピエール枢機卿、宰相ヘッケルが座っていた。
誰も彼もが各国の統治者、首脳部であった為、
リーファがこの場に居るのはやや場違いに見えた。
尤も当人は気にする事無く、
いつものようにポーカーフェイスを保っていた。
すると国王グレアム三世の蒼い瞳が冷然たる輝きの放ちながら、
周囲の者達の姿を直視した。
そして形の良い唇を動かしながら、高らかな声で宣言する。
「本日、皆様方に集まってもらった理由は言うまでもない。
我々は再び連合軍として結束力を固めて、
逆賊ナバール率いる賊軍を返り討ちにして、撃滅するっ!」
この言葉と共にまた会議室内がざわめいた。
顔を見合わせ小声で会話を交わす者、
黙って聞く者、一人神妙に考え込む者。
その反応の違いは程度の差はあるが、
皆が思うことは一つ、帝国軍の撃滅である。
「そうですな、我がアスカンテレス王国もそのつもりです」
「同じく我等、パルナ公国も同じ気持ちです」
「同じくニャン」
ラミネス王太子、シャーバット公子。
そして司令官ニャールマンも同意する。
「それは皆、同じ気持ちでしょう。
問題はどうやって帝国軍、賊軍を倒すかです」
宰相シークが冷然たる口調でそう言い放つ。
「一見すればナバールは、
不安定な王政につけ込んで皇帝に返り咲いた。
ように見えるが、実際の所、彼奴の力が
衰えたか、どうかが気になるところですな」
と、アルピエール枢機卿。
「それに関しては最大限に警戒すべきでしょう。
短期間であの神聖サーラ帝国を制圧及び解体した。
この事実を見る限り、奴と奴の軍勢の力は侮りがたい」
と、宰相ヘッケル。
「うむ、自分もそう同じ意見です。
噂ではナバールの下に、
物凄く強い女騎士がついたという噂もあります」
「……」
ジュリアス将軍の言葉にリーファが表情を強張らせた。
彼の指摘した問題は、他の者達も危惧していた。
「ああ、何でも黒づくめの女騎士らしいな。
その女騎士は、とてつもなく強いそうだ。
一部の者は戦乙女殿にも匹敵すると噂しているようだ」
グレアム三世はそう言って、リーファに視線を向ける。
すると他の者達の視線も自ずとリーファに向けられた。
「それは看過できん事態ですな」
「ラミネス王太子、その通り。
これが事実ならば由々しき問題です」
宰相シークはそう言って、眉間に皺を寄せた。
「……もしかしたら」
不意にファレイラスがそう口にした。
「ファレイラス殿、もしかしたら何でしょうか?」
「グレアム陛下、もしかしたらナバールは、
『常闇の儀式』を行って、
『漆黒の戦女』を誕生させたのかもしれません」
「な、何っ!? 漆黒の戦女を!?」
「アルピエール枢機卿、ご存じなのですか?」
「ええ、シャーバット公子殿下。
私も詳しい事は知りませんが、
伝承によれば戦乙女の対局に位置なす存在との事です」
「戦乙女の対局的な存在ですか。
もしそれが事実ならば、色々と厄介になりそうですな」
「うむ」「そうだニャン」
と、ラミネス王太子とニャールマン司令官。
「うむ、それが事実であるならば問題だが、
こちらには戦乙女殿が居る。
だから当面は漆黒の戦女の相手は、
戦乙女殿が務めればいいだろう」
「そうですな」
グレアム三世の言葉に宰相ヘッケルが頷く。
とりあえずは周囲の者もグレアム三世の考えに賛同する素振りを見せたが、
肝心のリーファは予想外の事態に困惑していた。
――漆黒の戦女漆黒の戦女ですって!
――こんな話は想定外だわ。
――そしてその漆黒の戦女漆黒の戦女の正体は誰なの!?
と、内心で呟くが、
彼女がその正体を知るのはもう少し先の事であった。
次回の更新は2023年12月23日(土)の予定です。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。




