第百五十八話 星旄電戟(前編)
---三人称視点---
聖歴1756年12月6日。
新生ガースノイド帝国軍は、
西部にレジス隊長の部隊、南部にエマーン将軍の部隊。
東部に皇帝ナバールと総参謀長ザイドの本軍を配置して。
本国の護りを固めた状態で、連合軍及び周辺国に宣戦布告をした。
その翌日の12月7日。
ハーン元帥、タファレル元帥、シュバルツ元帥の三元帥が
率いる帝国軍の第一軍は、
帝国と神聖サーラ帝国の国境線を越えて、
神聖サーラ帝国の南西部に攻め込んだ。
完全に不意を突かれた神聖サーラ帝国軍の動きは鈍く、
相手の間隙を突くべく、帝国軍の第一軍は
神聖サーラ帝国の帝都レーゲンブルグを目指し怒濤の進軍を開始。
第一軍はハーン元帥が1万5000の兵。
タファレル元帥が20000人の兵。
シュバルツ元帥が25000人。
合計60000人の兵力を持って、
各都市の警備隊や駐留軍を次々と撃破していった。
その中でも一際活躍したのが漆黒の戦女マリーダであった。
マリーダは闇属性と炎属性、風属性の攻撃魔法を駆使して、
次々と立ちはだかる神聖サーラ帝国軍の兵士達を死の世界へと追いやる。
また攻撃魔法だけでなく、
回復魔法、治療魔法、また移動魔法。
職業能力で自己の能力を強化させて、
十時間以上、最前線で戦い続けて、獅子奮迅の働きを見せた。
帝国軍第一軍は怒濤の進軍を続けて、
都市ラムール、ギークデン、レールバッシュを制圧。
この状況には神聖サーラ帝国の皇帝オスカー二世も激しく狼狽した。
帝都レーゲンブルグにある居城ゲイザーブルグの三階の玉座の間。
輝くような白い衣装を身に纏い、
赤い帽子を被った皇帝オスカー二世は、
顔を紅潮させながら、セットレル将軍と総参謀長ハーランドに
向かって、言葉を荒げて、わめき散らした。
「何故、ガースノイド帝国軍が我が国に攻めてきてるのだ!
彼の国はほんの少し前まで、
国王であるレイル十六世が統治していたではないかっ!」
「……あのナバールが反乱を起こして、
再び帝位に就いたのです。
そして奴はすぐさま兵を率いて、
我が国に攻め込んできたようです」
セットレル将軍は冷静に事実を述べた。
「ぬぬぬっ! ナバールめっ!
まさか流刑地から舞い戻ってくるとは!
やはり流刑などでは手緩かったのだ。
あんな戦争狂は死刑にすべきなのだ!」
「お、仰る通りです。
それで皇帝陛下、我が軍はどう動きますか?」
「そ、それは当然抗戦すべきだ。
セットレル将軍、貴公が兵を率いて――」
「た、大変でございます」
その時、突如、この玉座の間に、
中年男性の伝令の兵が飛び込んできた。
「な、何事だぁっ!?」
怒鳴り散らす皇帝オスカー二世。
すると伝令の兵が慌てた様子で報告をする。
「我が領土の南東部にデーモン族の軍勢が現れました!」
「な、な、何だとっ!?」
「そ、それは誠か!?」
驚くオスカー二世とセットレル将軍。
それはまさに青天の霹靂であった。
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神聖サーラ帝国の南東部のカラバル砦。
そのカラバル砦の前方に「四魔将」の炎のネストール、
風のメルクマイヤーが率いる五万を超えるデーモン族部隊が陣取っていた。
カラバル砦の責任者であるクオラール将軍は、
この予想外の事態に狼狽していた。
「くっ……まさかデーモン族が攻めて来るとは!
奴等、本気で我等、否、連合軍と戦うつもりか?」
「クオラール将軍、敵は軽く見ても数万を超える大軍です。
我々はどう動きますか?」
ヒューマンの中年男性の副官ブリタインがそう問うた。
「……そうだな、とりあえず戦闘態勢に入れ!
但し敵が攻撃してくるまでは、こちらから攻撃はするな!」
「はっ! 了解致しました」
クオラール将軍のこの判断は的確であった。
ここでいたずらにデーモン族と戦うのは、
色んな面でリスクが高かった。
そして対するデーモン族部隊は余裕を持って待機していた。
「ネストール、このままここで待機するのか?」
「メルクマイヤー、オレとしては戦争をおっぱじめてもいいんだが、
一応は口実が欲しいな、だから向こうさんが仕掛けて来るまでは、
オレ等はここで高見の見物といこうぜ!」
「まあお前がそう言うなら、俺もそれで構わない」
「そうかい、んじゃ酒でも飲んで様子見ようや!」
「おいっ! 一応、任務中だぞ?」
眉をしかめるメルクマイヤー。
するとネストールは両肩を竦めた。
「冗談だよ、冗談。 ムキになるなよ!」
こうしてデーモン族部隊は、
神聖サーラ帝国軍と睨み合いを続けながらも、
両軍、戦闘を開始するには至らなかった。
だがこの状況にオスカー二世は大いに動揺した。
「くっ、まさかデーモン族まで参戦するとは……」
「皇帝陛下、どちらの軍と応戦しますか?」
と、セットレル将軍。
「……とりあえずセットレル将軍!
貴公は五万の部隊を率いて、帝国軍と応戦せよ!
「はっ!」
「この帝都レーゲンブルグには、四万の防衛部隊を!
そして南東部のデーモン族部隊には、
各都市、各拠点の駐留部隊を集めて、迎撃にあたれ!」
こうして神聖サーラ帝国も皇帝の命令の下に
各部隊がそれぞれ動き始めた。
だが帝国軍は勢いに乗ったまま、進軍を続ける。
そして帝国軍は、帝都レーゲンブルグの最終防衛地点である
城塞都市フェルトベーグまで到達した。
「よし、帝都レーゲンブルグは目前だ。
あの城塞都市さえ陥落すれば、勝ったも同然だ!」
「おおっ!」
シュバルツ元帥の言葉に周囲の兵士も大いに沸いた。
そしてシュバルツ元帥は視線をマリーダに向ける。
「マリーダ殿、いや漆黒の戦女殿!」
「はい、シュバルツ元帥!」
「貴公の働きに期待します」
「そのご期待に必ずや応えてみせましょう」
「……良し、では今より城塞都市フェルトベーグの攻略を開始する!
大砲を前線に出して、魔導師部隊も前へ出よ!
大砲と魔導師部隊の攻撃魔法であの城壁を破壊するぞ!」
こうして城塞都市フェルトベーグの攻防戦が始まった。
次回の更新は2023年12月13日(水)の予定です。
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