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第百五十五話 虚虚実実(中編)



---三人称視点---



「ん、全員で十人ってとこか。

 それでお前等は何者だぁ?」


「我々はガースノイド帝国の使者である。

 そして私は帝国軍の元帥タファレルだ」


「ふうん、その証拠はあるのか?

 というかガースノイドって今は確か王国じゃなかったか?」


 ネストールは首を軽く捻って、

 疑る視線でタファレル達を凝視する。


 ――この男、強者つわもののオーラを発しているな。

 ――だが見た限り、好戦的かつ威圧的なタイプだ。

 ――こういう相手に交渉するのは骨が折れそうだな。


 と、思いながらもタファレル元帥は、

 腰帯のポーチから皇帝の書状を取り出す。


「これが皇帝ナバール陛下の書状であります」


「ふうん。 お前等、本当に帝国軍なのか?

 まあこの転移魔法陣の存在に気付いているから、

 そこら辺の馬の骨ではないだろうけどさ~。

 んで帝国軍の連中がオレ達デーモン族に何の用だ?」


 ――ここだ。

 ――ここで我等の心意を打ち明ける!


「我々は貴公等――デーモン族と同盟を結びたいという次第だ」


「何? オレ達と同盟を結びたいだぁ?

 お前、その意味を分かって言ってるのか?」


「……無論だ」


「ふうん、こりゃちょっとした一大事になりそうだな。

 でもお前等が本当に帝国軍か、分からないからなあ」


「ネストール様、数週間前にガースノイドの王都に

 ナバールが入城して、皇帝に返り咲いたのは事実です」


 と、ネストールの近くに立つ男の部下がそう告げる。


「成る程ね、でテメエ等は何を企んでいるんだ?」


「別に我々にやましいところはない」


「おい、おい、おい、マジで言ってんのか?

 それともこのオレと腹芸しようってのか?

 オリャ別にそれでもいいが、

 お前等も本気で同盟を望むなら誠意を見せろよ?」


「……」


 言葉使いこそ乱暴だが、

 この男の言う事は道理に叶っている。

 ならばここは無駄な腹芸などせず、

 正攻法で攻める、とタファレルも腹を括った。


「我々は貴公等と同盟を結びたいが、

 あくまで秘密裏の同盟を結びたいのだ」


「秘密裏? そりゃどういう意味だ?」


「我々とデーモン族が正式に同盟を結べば、

 連合軍も一枚岩となって帝国軍とデーモン族軍と戦うだろう。

 だがもし敗れたら、帝国軍もデーモン族軍も只では済まない」


「そりゃそうだろう、戦争とはそういうもんだ」


「ああ、だが貴公等もこの戦乱に生じて、

 自国の領土を拡大したいという思惑もあるであろう?

 とはいえ全面的に連合軍とは戦いたくない筈だ」


「まあオレはいいんだけど、

 あのロリばばあ、魔女帝陛下が五月蠅いんだよ。

 で要するに秘密裏に同盟を結んで、

 お互いに連合軍と戦いながら、

 戦乱のどさくさに紛れて、甘い汁を共に吸う。

 とでも言いたいのか?」


 ネストールの言葉にタファレルが無言で頷く。

 するとネストールは、右手で自分の頭の後ろを掻きながら――


「こりゃあ、オレの一存で決められるような話じゃねえな。

 しゃあねえ、お前等。 オレ達が今からお前等を

 バールナレスの首都ラブレスに連れて行く。

 そこで他の四魔将よんましょうを交えて、

 魔女帝……陛下の指示を仰ぐ。 

 それでいいのでならば、オレがお前等の身の安全を保証する!」


「それで構わない。

 只、捕虜扱いではなく、使者として扱って欲しい」


 と、タファレル。


「あい、あい、あい、んじゃとりあえずこの地下迷宮を出るか。

 可笑しな真似はするなよ? その途端にこの話はご破算すると思え!」


「分かっているさ」


「んじゃさっさと出るぞ」


 そしてネストールに案内されて、

 タファレル達は彼等の後について行った。


---------


 バールナレスの首都ラブレス。

 タファレル達は約六時間ほど馬車で揺られた末に、

 この街に辿り着いた。


 尚、馬車に乗せられている際には、

 タファレル達は目隠しされていた。

 デーモン族が支配するバールナレスの現状を

 周囲に知らせない為の配慮でもあった。


 澄んだ湖と、自然に恵まれたこの首都は、

 街中の到る所に水路が張り巡らせていた。

 近くのテレスタ山脈から、

 流れ出るマルセル川が、青く輝くグラール湖へと流れ込んでいる。


 グラール湖の中央には、

 銀色で彩られた統領府のマルギスト宮殿が威風堂々と建っている。 

 川沿いには、冒険者ギルドや職人ギルドなどの施設が並び立っていた。

 青と緑の調和。 そして綺麗に区分けされた規則正しい町並み。

 帝都ガルネスには及ばないが、

 このラブレスも十分栄えた都市だ。


 首都ラブレスは主に四つの地区に分けられる。

 北側にある行政区。 政府の関係者が多く働く区画だ。

 統領府であるマルギスト宮殿もこの区画にある。


 南側にある冒険者区には冒険者たちが集まる。

 冒険者ギルドを中心に、冒険者向けの店や宿屋などが揃っている。

 西側の商業区には職人ギルドの支部などもある。 

 そして東側に居住区といった具合である。


 ネストール達はタファレル達を引き連れて、

 冒険者区から町中へと入った。

 広場の時計台の針は十九時半を指しており、

 周囲は夜の帳に囲まれていた。


「これからどうするつもりなのか?」


 と、タファレル。


「今日はもう遅いからな。

 だからアンタ等には官舎かんしゃに泊まってもらうよ」


「官舎か、ならば文句は言いません」


「おう、それは助かるぜ」


 その後、タファレル達は、

 東側の居住区の官舎で一夜を過ごした。


 翌日の11月21日。

 タファレル達はデーモン族の兵士に連れられて、

 行政区の統領府であるマルギスト宮殿に到着。

 

 堂々とした外観や荘厳で華麗な内装はもちろんのこと、

 ドーム上部まで登ると、

 地上約90メーレル(約90メートル)の高さから、

 ラブレスの美しい街並みが一望出来るようになっている。


 そしてデーモン族の兵士に前後を挟まれながらも、

 タファレル達は臆する事無く、

 白大理石の床を踏みならして、宮殿内を歩く。


 十分後。

 タファレル達は宮殿内の二階の会議室に到着。

 すると会議室の扉の前に立つ門番の男性デーモン族が

 敬礼してから、扉を優しくノックした。


「ネストール様、客人が到着しました」


「おう! 中に入れろや!

 但し中に入れるのは、はげちゃピンのおっさんだけだ」


「は、はげちゃ……」


 あまりの言いように絶句するタファレル元帥。

 だがすぐに気持ちを切り替えて――


「では皆はここで待っていてくれ!

 大丈夫だ、必ず相手を説得してみせる」


「はい!」


 そしてタファレルは部屋の中に入った。

 会議室は特別華美ではなかったが、

 程よく調度品が置かれており、掃除も行き届いている。


 そして大きな長机が置かれており、

 上座に上品な礼服を着た竜人族の壮年男性。

 左側の椅子にネストール、全身水色のエレミーナ。

 黄緑のフーデットローブを着た白皙の男性デーモン族が座っていた。


 ――役者は揃ったな。

 ――ここが勝負所だ。


 と、思いながらタファレルは前へ一歩出た。


次回の更新は2023年12月6日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 はげちゃピンとは...酷い言われようですね。 まぁ、間違えてないんですけれど。 そして、遂に四魔将が勢ぞろいですね。 炎のネストールと水のエレミーナは、既に登場してい…
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