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第百五十一話 合従連衡(前編)



---三人称視点---



 翌日の11月18日の正午過ぎ。

 ガルネス城の御前会議に指定された会議室には、

 皇帝ナバールとその将帥と臣下達が既に席についていた。


 作戦会議室内の大理石の長テーブルに上座に皇帝が座り、

 左側にシュバルツ、タファレル、

 ハーンの三元帥と警務大臣フーベルクが椅子に腰かけ、

 右側に総参謀長ザイド、漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)マリーダ、

 バズレール元帥、更にエマーン将軍とレジス将軍が陣取っていた。


 だが皇帝の表情は少々硬かった。

 今の面子もそれなりの指揮能力や武力を有していたが、

 全盛期の帝国軍と比べたら、いささか見劣りするのも事実。


 更にシュバルツ元帥、タファレル元帥、エマーン将軍とマリーダを除いた

 五名はほんの少し前までは、新王朝に仕えていた身。

 それ故に皇帝としても彼等を全面的に信頼する気にはなれなかった。


 漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)という貴重な手駒を入手できたのは、

 嬉しい誤算だが、彼女一人でそれ以外の戦力、人材を補えるわけではない。


 とはいえ長年に及ぶ戦乱の為に、

 ガースノイドの働き盛りの若者や中年、壮年男性は

 ほぼ徴兵されていおり、これ以上の負担を国民に強いらせると

 この不安定な第二次帝政の土台が大きく揺らぐのは明白であった。


 自国の戦力では限界がある。

 とはいえ今状況でナバールと手を組みたがる国はそうはないであろう。、

 だがナバールはある一国、正確にはある種族なら、

 条件次第で同盟関係を築ける事に気付いた。


 その相手はデーモン族であった。

 だがこれはある種の諸刃の剣。

 ここでもしナバールがデーモン族と手を結び、

 このエレムダール大陸に更に血の雨を降らせたら、

 彼の死後も歴史と未来人は強く批判するであろう。


 だがこの時のナバールは焦っていた。

 正確に言えば、彼はかつての軍務にも政務にも長けた皇帝ではなくなっていた。


 彼は諸々な事情と幸運が重なって、

 再び帝位に就けたが、ナバール自身今後の方針を決めかねいた。


 皇太子ナバール二世を取り戻す為にペリゾンテ王国と戦う。

 だがそれを実行すれば、ペリゾンテ王国だけでなく、

 対ナバール軍事同盟を結ぶ国々と戦う事になる。


 だが仮に皇太子を取り戻せたとしても、

 エレムダール大陸中の国々と国民を敵に回してまで、、

 ガースノイド帝国は、存在する意義はあるのであろうか?


 しかし今のナバールには、

 そんな先の事を考える余裕はなかった。

 だから彼は覚悟を決めて、デーモン族と同盟を結ぶ道を選んだ。


「色々議論を交わしたが、

 やはり現状戦力ではペリゾンテ王国や連合軍と戦うのは厳しいであろう。

 だが今の帝国と同盟を結ぶ相手も限られてくる。

 だから私は覚悟を決めて、デーモン族と同盟関係を築こうと思う」


「!?」


 皇帝の言葉に多くの者が驚きの表情を見せた。

 だがマリーダだけは表情を変える事なく涼しい顔をしていた。

 そんな中、警務大臣フーベルグが皇帝に軽く反論する。


「陛下、ご正気ですか?

 この状況で我が軍とデーモン族が手を結ぶのは悪手ですよ。

 エレムダール大陸中、更には未来にわたって、

 陛下は誹謗中傷される事になるでしょう」


 だがナバールは自論をあくまで通す。


「そんな事は余も百も承知だ。

 だが今の余と帝国は贅沢が言える状況ではない。

 表向きは新王朝を倒して、第二次帝政時代を迎えたが、

 それを支える屋台骨は非常に脆い。

 だからまずは戦争に勝って、

 周囲に余と帝国の力を知らしめる必要があるのだ!」


「……しかしそれでデーモン族と手を結ぶのは、

 あまりにも場当たり的な判断かと思われます」


「……私は別に構わないと思いますわ」


「な、何っ!?」


 マリーダの横やりに語気を強めるフーベルク。

 だがマリーダは彼に視線すら合わせようとせず――


「どのみち帝国が生き残る為には、

 戦争で勝ち続けるしかありませんわ」


「……その結果、エレムダール大陸中に敵を作ってもか?」


 フーベルクがマリーダをめつける。


「それは仕方ないと思いますわ。

 ガースノイドは過去の革命時代、共和国時代。

 第一次帝政、そしてこの間までは新王朝と

 国も民も時代の波に乗って、変遷させられましたわ。

 そして今のガースノイド帝国の主軸は皇帝陛下。

 ならば臣下である私達は、皇帝陛下の御意志を尊重すべきよ」


「こ、この……成り上がりの小娘がぁっ!!」


「あらら、警務大臣殿は随分とお下品な言葉使いを

 なさるのね、それだと育ちを疑われますわよ?」


「……ふん、流石は元貴族令嬢。

 口だけは立派だな、口だけは……」


「どうも、ありがとうございます」


「……よさぬか、二人とも!」


 見るに見かねたナバールが二人を止めた。

 場の空気が少し悪くなる中、

 話題を変えるべくシュバルツ元帥が一言発した。


「陛下がお決めになった事ならば、

 私はデーモン族と手を結ぶ事にも賛成しましょう。

 しかしこの敵国に囲まれた状況で、

 どうやってデーモン族に使者を出すのでしょうか?」


「悪くない意見だ。

 だがそれに関しては手がある」


「成る程」と、シュバルツ元帥。


「しかしやはりデーモン族と手を組むのは、

 色々とリスクが多いと思われます。

 陛下はその辺をどのようにお考えですか?」


 タファレル元帥の言葉は正論であった。

 だがナバールとてそんな事は百も承知。

 そしてナバールは自分の考えの周囲の臣下に打ち明けた。


「無論、余とてデーモン族と手を結ぶ危険性は理解している。

 だから余はあくまで秘密裏に同盟を結ぶつもりだ」


「秘密裏? どういう事でしょうか?」


 と、エマーン将軍。


「ああ、裏では同盟関係を結ぶが、

 表面上は帝国もデーモン族も独自に動いている事にするのだ。

 デーモン族は今、バールナレス共和国を支配下に治めている。

 向こうからすれば、北西に神聖サーラ帝国。

 西にファーランド王国が控えている状態。

 そこを帝国とデーモン族が挟撃する形で攻めて、

 陥落させた都市を独自に占領する。

 こればらばデーモン族にも益があるだろう」


「成る程、確かにそれならばデーモン族も

 こちらの誘いに乗るかもしれないですね」


 皇帝の言葉を肯定するハーン元帥。

 フーベルクを除いた臣下達も納得した表情であった。


「連合軍とて本気でデーモン族と事を構えるには、

 それ相応の覚悟が居るであろう。

 それ故に自国に被害のない侵略なら、

 見て見ぬ振りをする可能性は十分考えられる」


「しかしそう上手く事が運びますかね?」


 フーベルグはあくまで否定的であったが、

 ナバールは自信に満ちた表情で答えた。


「必ず成功させて見せる。

 余の辞書に不可能という文字はない。

 ……少し疲れたな、紅茶でも飲んで小休止しよう」


 そして従卒の少年が紅茶セットを運んできて、

 各人に紅茶の入ったカップとソーサーを運んだ。

 そんな中、ナバールは上座で両腕を組みながら――

 

 ――この同盟を成功させずに帝国の勝利はない。

 ――しかし予想に反してフーベルグが反抗的だな。

 ――これは状況次第では、また余を裏切るかもしれん。


 ――だからまずは戦いに勝つ事。

 ――そうする事によって、帝国と軍の統制が取れる。

 ――その為には余は多少手を汚す事も辞さないつもりだ!


次回の更新は2023年11月26日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 最近の、マリーダの主人公ムーヴの影響もあり、かなり性格が悪かったのを忘れていました。 そして、デーモン族との同盟。 はたして、上手くいくのでしょうか。今のままだと四面…
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