第百四十九話 似た者同士
---マリーダ視点---
『マリーダよ、よく常闇の試練に耐えた。
その力で貴公の望みを叶えよ』
と、再び頭の中に暗黒神アーディンの声が響く。
「ええ、そうさせてもらうわ」
『だがまだ終わりじゃない。
最後に守護聖獣との契約が残っている』
守護聖獣?
確か一流の上級職のみに許される聖獣と契約よね?
まあ『漆黒の戦女ならば、
守護聖獣の一匹や二匹くらい契約するものでしょうね。
『正式に契約できるのは一匹のみだ』
「……そう」
確か守護聖獣と契約する事によって、
様々な恩恵を受ける事が出来るようね。
守護聖獣は云うならば、神の化身。
各種族の頂点に立つ神の化身の聖獣と契約する事によって、
契約者は新スキルや新しい魔法が与えられ、
ステータスや魔力、魔法力向上の恩恵の受ける事が可能との話。
そうね、こんな好条件を断る理由はないわ。
だけどどんな聖獣と契約しようかしら?
理想としては、可愛くて強い聖獣がいいわね。
『今から我が守護聖獣を二体召喚するから、
好きな方の守護聖獣と契約するが良い』
「分かったわ」
『では行くぞっ! 出でよ、ガーラ、出でよ、バインッ!!」
暗黒神アーディンがそう叫ぶなり、
目の前に突如、魔法陣が現れて、まばゆい光を放った。
白、青、赤、黄色、緑、紫といった色の光が魔法陣から溢れ出る。
「ニャオオオンッ!」
「バヒヒンッッ!!」
鳴き声をあげながら、
魔法陣の中から体長六十セレチ(約六十センチ)のサバ虎の猫、
ほっそりとした体形の茶色の猫らしき聖獣が現れた。
一匹は可愛らしいのサバ虎の猫。
只の猫じゃなそうわね。
愛くるしいまん丸の蒼いの瞳。 ふさふさの毛。
そして肩下まで丈のある緑のケープマントを羽織っている。
「やあ、こんにちはニャン。
ボクは猫妖精のガーラだニャン。
魔法に関するエキスパートだニャン、
後、ボクは今の戦乙女と少なからず因縁があるニャン。
だからボクと契約して、戦乙女を倒そうニャン」
成る程、猫妖精か。
可愛いし、愛想はいいわね。
そしてあの女――リーファとも因縁があるのね。
その辺のくだりの話を少し聞きたいわね。
もう一匹は二本角をした漆黒の馬。
これは二角獣と呼ばれるバイコーンじゃないかしら?
体長は80セレチ(約80センチ)くらいで、
全身がとても引き締まっている美しいボディラインだわ。
「……我はバイコーンのバインだ。
得意な能力は分析能力と探査能力だ。
我と契約すると、我の能力が貴公と共有されて、
貴公にも分析眼と探査眼が使えるようになる。
また個体としての戦闘力もかなりのものである。
少数なら上級クラスのモンスターを単体で狩る事も可能だ」
なんというか質実剛健って感じね。
でもこういうタイプも嫌いじゃないわ。
それに加えて分析能力と探査能力か。
これはどちらを選ぶか、少し考える必要があるわ。
「でどっちを選ぶニャン?
ボクは可愛いだけでなく、魔法のエキスパートだニャン。
魔力の保管も出来るし、保管した魔力をキミに与える事も出来る。
更には相手の魔力や魔王攻撃も綺麗に吸収できるよん。
攻撃、支援、回復魔法も使えるニャンッ!」
少し自己主張が激しいけど、
こういうハッキリしたタイプは嫌いじゃないわ。
でも能力以上に気になる点があるわ。
「なかなか魅力的な能力ね。
でもそれ以上に気になる事があるわ」
「ニャオンッ!
何が気になるのだニャン」
「貴方、あの女と――戦乙女と因縁があるとの話だけど、
具体的にどんな因縁があるか、聞きたいわ」
「ニャオン! よくぞ聞いてくれたニャン!
あの女はボクの事を――『自分は他人から愛されて当然と思ってるでしょ?
でもね、この世の全ての人間が猫好きと思わないで頂戴。
大体アナタ達は食う、寝る、遊ぶが基本でしょ?』とか
言ってボクとの契約を拒んだんだニャン。
アレにはボクも凄く腹立ったニャン!」
まああながち間違ってない気もするけど、
それにはあえて触れないわ。
でもあの女らしいといえば、あの女らしいね。
そしてこのガーラもリーファを憎む気持ちは同じ。
言うならば私達は似た者同士。
個人的には二角獣の方が好みだけど、
この猫妖精はリーファに恨みがある。
だから実力以上に力を発揮するかもしれないわね。
うん、ここはこの猫妖精を選びましょう!
「そう、その気持ちはよく分かるわ。
基本的にあの女は偉そうなのよね」
「そうだニャン、絶対に赦せないニャン。
だからお嬢さん、ボクちゃんと一緒にリベンジしようニャン!」
「分かったわ。 じゃあガーラ、私の守護聖獣になって頂戴」
「……うむ、ボクは守護聖獣ガーラ。『漆黒の戦女』よ。
汝はボクとの契約を望むかニャン?」
「ええ、だから私に力を貸して頂戴」
「うむ、良いニャン。 我はガーラ。 汝マリーダよ。
我と力を合わせて、共に戦おうニャン!」
そう告げると、ガーラの身体が目映く輝いた。
そしてその身体が私の胸部に触れて、その姿が消滅する。
すると私の全身に眩い光が包み込んだ。
「あああ……あああぁっ!!」
凄い、物凄い力が全身から漲ってくる!
これが守護聖獣の力なの!
『漆黒の戦女』の力に守護聖獣の力が加わり、
行ける、これなら行けるわ!
私の全身が今まで感じたことのない万能感に包まれた。
『――無事に守護聖獣と契約を果たしたな。
では今から貴公を現実世界に戻す。
『漆黒の戦女』よ。
その力を使って、己の突き進む道を切り開け!』
「ええ、ありがとう。 暗黒神アーディン!」
暗黒神アーディンがそう告げると、私の身体が眩い光に再び包まれた。
せっかく授かったこの力、精々利用させてもらうわ。
でも第一目標はあくまでリーファに勝つ事!
その事をけして忘れてはいけないわ。
だが後にして思えばここが分岐点。
この時を境に私は激動の人生を歩むことになるのであった。
でも後悔はないわ。
あの女に勝てるなら、何もいらない。
それが私が望む唯一の願いなのよ……。
そしてそこで私の意識が暗転した。
次回の更新は2023年11月22日(水)の予定です。
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