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第百四十五話 迅速果断



---三人称視点---



 漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)

 聞き慣れぬ単語を聞いて、

 皇帝だけでなく周囲の側近達も固唾を呑んだ。

 だがナバールは直ぐに我に返って、シュバルツ元帥に問い質した。


「シュバルツ元帥よ、漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)とは何だ!?

 余に分かるように簡潔に説明せよ!」


「はっ! 漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)戦乙女ヴァルキュリアの対極的存在です。

 戦乙女ヴァルキュリアは女神サーラと契約する事によって、

 様々な加護を受ける存在。 それに対して漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)は、

 己の生命力と魂を暗黒神アーディンに捧げる事によって闇の加護を受けます」


「暗黒神アーディンか。 デーモン族や一部の黒魔導師や異端者達が

 崇める破壊神だな。 このガースノイドにも地下に潜った信徒が居るらしいな」


「光あれば、闇もある。 そして神に信仰を尽すように、

 暗黒神を祭る信徒達も同様に居ます」


「うむ、それは余も分かる。

 で聞くが漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)は、暗黒神の眷属なのか?」


 皇帝の問いにシュバルツ元帥が小さく頷いた。

 そしてシュバルツ元帥は、更に言葉を紡いでいく。


戦乙女ヴァルキュリアは神の加護を得るのに対して、

 漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)は己の生命力と魂を

 暗黒神に捧げる事によって強大な力を得ますが、

 それ相応の代償を払う必要があります」


「……それはどんな代償だ?」


「まず申し上げたように、己の生命力と魂を捧げますが、

 これによって寿命がとても短くなります。

 闇の加護を受けて、己の肉体を維持出来るのは五年余りくらいとの話です」


「要するに契約した後は、たった五年しか生きれないという事か?」


「端的に云えばそうです」


「うむ、随分と短いな。 それでそれ以外にはどのような制約があるのだ?」


「一度もでも漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)になった者は、

 暗黒神から受けた加護によって、死後、最低でも三百年。

 長ければ一千年近く煉獄の世界に魂が囚われるとの伝説があります」

 

「……煉獄の世界か。 その数百年の間は転生する事も赦されないのだな?」


「当然です」


「ううむ」


 ナバールはシュバルツ元帥の説明をあらかた理解したが、

 その表情は何処か険しかった。

 しかしすぐに気持ちを切り替えて、疑問点を問うた。

 

「ちなみにその漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)の実力はどれ程のものなのだ?

 出来れば具体的な例を挙げて欲しい」


「まず三百年前の第一次エレムダール大戦の際には、

 今と同じくアスカンテレス王国が戦乙女ヴァルキュリアを誕生させました。

 その後は破竹の勢いでデーモン族やその同盟軍を蹴散らしましたが、

 デーモン族側も漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)を誕生させたようです。

 歴史上ではその時の戦乙女ヴァルキュリアは、

 味方から孤立して戦死したと言われてますが、

 デーモン族やその同盟軍の伝承では、

 漆黒漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)と相打ちの形で死んだと伝えられてます」


「ううむ、そんな話は今までに聞いた事もないな」


「……私もです」


「ええ」


「俄には信じがたい話ですな」


 皇帝に同調するように、

 タファレル、ハーン、バズレール等、三元帥がそう口にした。

 

「大体、シュバルツ元帥よ。

 卿はいつの間にそんな話や逸話を知ったのだ?」


 皇帝の疑問は尤もだ。

 だからシュバルツ元帥も皇帝の問いに対して、正直に答えた。


「第一次帝政時代に戦乙女ヴァルキュリアが我が軍の

 将軍を次々と倒した頃から、水面下で対抗策がないかと

 色々と調べた際に漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)の存在は知りました。

 そしてそれらに関する書物や文献を集めて、

 ネルバ島の流刑されて以降、それらの書物を読み漁っていました」


「ふむ、確かにあの島暮らしは暇であったからな」


「ええ、いつかは捲土重来を夢見て、

 皇帝陛下のお力になれるように、と思ってました」


「そうか、卿は余の忠臣だな」


「滅相もありません」


 シュバルツ元帥の話はまるっきりの出鱈目とは思えなかった。

 確かに戦乙女ヴァルキュリアなる者が存在するのだ。

 ならばその対極的な存在が居ても可笑しくはない。


 だが如何せん制約やリスクが大きすぎる。

 誰が好き好んでこんな役割ロールを引き受けるというのだ。


「だがこの漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)は、制約やリスクが大きすぎるな。

 これではなり手が居ないだろう……」


「いえ一人居るじゃないですか?」


「何だと……」


 シュバルツ元帥の言葉にナバールが眼を瞬かせる。

 そして半瞬後、その言葉の意味を理解した。


「まさかマリーダにやらせるつもりか?」


「……私は彼女こそ適任と思います。

 あの戦乙女ヴァルキュリアとも深い因縁があります。

 何より戦乙女ヴァルキュリアの事を深く憎んでいる。

 これ以上の条件を備えた者は居ないでしょう……」


「しかしなあ~。 このような役割を余の一存で押しつけるのも……」


「ならば本人を呼んで聞いてみましょう」


「……そうだな、聞くだけ聞いてみるか!

 良し、誰かマリーダをここに連れて来い!」


 

---------



「そのような大任を任せて頂くのは、

 とても光栄な事です。喜んでお引き受けしましょう」.


 周囲の予想に反して、マリーダは二つ返事で引き受けた。

 あまりにもあっさりとしていたので、

 ナバールだけでなく、周囲の元帥達も唖然としていた。

 するとマリーダはそんな彼等に、

 言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡いだ。


「今のわたくしには未来などありませぬ。

 皇帝陛下のご厚意によって、このガルネスまで同行を赦されました。

 だから私は何か皇帝陛下のお力になれないか。

 と、ネルバ島を発って以来、ずっと考えていました」


「そうか、だがこの漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)という役割は、

 貴公が考えている以上に厳しいぞ。 端的に云えば汚れ役に近い……」


 だがマリーダは皇帝の言葉に動じるどころか、

 意気揚々とした口調で応じる。


「汚れ役? それでも全然構いませんわ。

 元々、今の私は汚れきった存在。

 だからこれ以上、失うものなど何もありませんわ」


「しかし命や魂も失う危険性があるぞ……」


「ならば皇帝陛下、一つだけお尋ねします」


「何だ? 申してみよ」


「勝てますか?」


「何?」


「あの女――戦乙女ヴァルキュリアに勝てますか?

 私が望む事はその一点です」


 真剣に判断し、迅速果断に実行。

 マリーダの決意の固さは周囲の者達にも伝わった。

 すると彼女を後押しするようにシュバルツ元帥が叫んだ。


「勝てるさ! 貴公に勝とうする意思があれば必ず勝てる!」


「……ならば私も覚悟が決まりました。

 皇帝陛下の為、ガースノイド帝国の為!

 この身を捧げて、必ずアスカンテレスの戦乙女ヴァルキュリアに勝ってみせます」


 マリーダの表情は真剣そのものだ。

 彼女と会って以来、こんな表情を見たのは初めてだ。

 それだけ決意が固いのであろう。

 ならば君主として、その気持ちに受け答えてやるべきだ。

 ナバールはそこで覚悟を決めた。


「良し、ではマリーダよ!

 漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)となって、余の為に働いてくれ!」


「はっ! そのご期待に必ずお応えしてましょう!」


 こうしてマリーダは大きな決断を下した。

 もしナバールとマリーダがネルバ島で出会わなければ、

 このような状況にはならなかっただろう。


 だが幸か、不幸か、二人は出会ってしまった。

 そしてマリーダはかつての義姉と戦う事を決意した。


 戦乙女ヴァルキュリア漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)

 その対極的な存在が戦場で巡り会う事になるのであった。



次回の更新は2023年11月12日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言]  まさかリーファの妹であったマリーダが登場するとは。苦労したおかげか、姉に対する恨みよりも姉を超えたいという気持ちが芽生えている。  ナバールは悪役ですが、王国の惨状を見ると、必要悪にも思え…
[一言] 更新お疲れ様です。 姉妹対決が現実になりそうですね。 リーファvsマリーダ アストロスvsタファレル となるのはこれまでの発言と展開を考えてもほぼ確定と言えますが、シュバルツ元帥は誰にな…
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