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第百四十一話 皇帝の帰還(前編)


---三人称視点---



 聖歴せいれき1756年11月3日。

 ペリゾンテ王国の王都ウィーラーのホーランド宮殿。

 そこで宰相ヘッケルと戦勝国の首脳部を交えて、

 国際会議が開かれていた。


「ガースノイドの脅威は消え失せたが、

 デーモン族の軍勢は相変わらずバールナレスに駐屯したままだ。

 奴等が西進する可能性は充分考えられます。

 故に戦勝国の一部の兵をこのペリゾンテ王国、

 そしてファーランド王国に駐屯させるべきです」


 宰相ヘッケルは場の主導権を握るべく、

 やや芝居がかった口調で大声で叫んだ。


「いえいえ、現時点では大した脅威になりはせんでしょう。

 デーモン族もこの数百年は自国領に引き籠もってました。

 今回の件はどさくさに紛れての行動に過ぎないでしょう。


 外務大臣ファレイラスが淡々とそう返す。


「馬鹿を申されるな、数百年前とは事情が違う。

 貴公等の国はすぐに攻められる事はないだろうが、

 バールナレスとファーランドに近い我が国にとっては死活問題である!」


 と、宰相ヘッケル。


「しかし我がパルナ公国をはじめとした戦勝国の軍隊は、

 先のナバールとの戦いで疲弊した状態である。

 だが貴国――ペリゾンテ王国は戦争にも殆ど参加せず、

 貯め込んでいた食料や物資を他国に輸出して、

 経済状態も良好でしょう。

 なので自国の問題として処理して欲しいですワン」


「私もシャーバット公子殿下に賛成ニャン」


「私もです!!」


 ニャールマン司令官とジュリアス将軍も賛同する。

 これは場の流れが変わる、と思った矢先に

 会議室の扉が乱暴に開かれた。


「大変ですっ!!!

 ナバールが……ナバールがネルバ島を脱出して

 王都ガルネスへ向かっていますっ!!」


 その伝令を聞くなり、

 会議室がどよめいたのは言うまでもない話であった。


---------


 聖歴せいれき1756年11月3日。

 ナバールはガースノイドの最南部ルコフに上陸。

 王党派の多いプロヴェンス地方を避けて、

 アルパス山脈のふもとの山道を通るコースをとった。


「皇帝陛下万歳っ!!」


「帝国万歳っ!!!」


 ナバールに同行した一千人の兵士達が口々に叫ぶ。

 その姿を見ながら、軍服姿のナバールが凜とした声で叫ぶ。


「兵士諸君! 私は流刑の地にあって諸君等の声を聞いた。

 人民によって選ばれた帝位に就いた私は、

 今、諸君のもとに帰されたのだぁっ!!」


「皇帝陛下万歳っ!」


「帝国万歳っ!!」


「さあ! 私について来るが良いっ!

 そして帝国旗を掲げて、もう一度帝位を手に入れるぞ!

 私がネルバ島を脱出したという知らせは、

 すぐにガルネスへ届くであろう。

 それまで少しでも進軍しておくぞ!」


「ははっ!」


「険しい山道を進むため、

 大砲をいくらか犠牲にするのも仕方ない。

 国王軍の連中に体勢を立て直す暇を与えず、

 怒濤の進撃でガルネスを目指すぞぉっ!」


 そしてナバールとその兵士達は進軍を続けた。

 レンヌ、アラーン、ラステロン。

 ナバールとその兵士達は、疾風の速さで

 険しいアルパスのふもとの山道を通りぬけた。


 するとその道中で新たな者が次々とその進軍に加わり、

 ネルバ島を出た時は、一千人に過ぎなかった兵士の数は、

 八千人まで増えていた。


 だが当然、国王レイル十六世も黙ってはいなかった。


「は、反逆者ナバールをこのままガルネスに入れるな!

 奴はガルノーブルからレヨンを通ってガルネスへ入るつもりだ!

 何としても反逆者ともを捕らえよぉっ!!」


 興奮気味にそう叫ぶ国王レイル十六世。

 すると周囲の側近が近くの将軍達に命じた。


「バズレール将軍! 直ちにナバール討伐軍を率いて、

 ガルノーブルへ向かえっ!!」


「ははっ!」


「ハーン将軍は万一に備えてガルネソン方面に

 布陣して待機せよっ!」


「おまかせあれ! この私があの野蛮人の行く手を

 必ず阻んでみせましょう!!」


 こうしてナバール討伐軍が派遣された。

 一方その頃、王都ガルネスの市民は大いに湧いていた。


「聞いたか!!」


「ああ、聞いたぜ! ナバールがネルバ島を脱出したらしいな!」


「途中の村や町では続々とナバールに従軍する兵士が

 増えているとの話だそうだ!」


「皇帝の姿がもう一度このガルネスで見られそうだ。

 役立たずの王党派を追い出して、また帝位に就いて欲しいな!」


 こうしてナバールの帰還を望む空気が王都に流れ始めた。

 だがペリゾンテ王国の王都ウィーラーに陣取った

 外務大臣ファレイラスと戦勝国の首脳部は、

 渋面になって会議を行っていた。


「緊急事態ですな、こんな所で我々が暢気に

 会議をしている場合ではありませんぞ!」


「外務大臣殿の仰る通りですワン!」


 と、シャーバット公子。


「ひとまずこの場は領土問題の事は置いておき、

 もう一度各国が手を結び、反ナバール同盟を作るべきだ」


 と、宰相ヘッケルも同調する。

 すると周囲の者も「異議なし!」と賛成する。

 その最中、外務大臣ファレイラスが内心で愚痴っていた。


 ――くっ、まさかこうも早く帰還するとは!

 ――流刑では生温かったか!

 ――こんな事になるなら、息の根を止めておくべきだった!

 

 ――あの野蛮人は再びエレムダールに戦争の種をまき散らすだろう。

 ――これは私も身の振り方を考えねばならんな。



---------


 ガルネスに向けて進軍するナバールとその一行。

 しかしそんな彼等の前にバズレール将軍が立ちはだかった。


「申し上げます! ガルノーブル手前のレフラーにて、

 バズレール将軍率いる国王軍が待ち構えてます。

 その数およそ二万五千人です」


「……二万五千人か」


 この数には流石のナバールも驚いた。

 ナバールの軍勢は日に日に増していたが、

 その数は約八千人といったところ。

 対する敵軍は約三倍の戦力であった。


「陛下、いかがいたしましょう?

 もし戦闘となれば、こちらに勝ち目はありません」


 と、タファレル将軍。


「ガルノーブルを避けて迂回しますか?」


 と、エマーン将軍。

 だがナバールはあえて前進を選んだ。


「構わん、このまま前進するぞぉっ!

 帝位奪還か、このまま死ぬか。

 どのみち二つに一つだ、ならば前進あるのみ!」


「「「は、はいっ!!」」」


 そしてレフラーの草原で、

 ナバールと彼のかつての部下バズレール将軍率いる

 二万五千人の国王軍と遭遇を果たした。


 絶体絶命の窮地。

 だがここから信じられない出来事が起ころうとしていた。

 地に墜ちても巨星は巨星。


 その事を国王や国王軍、そして人民も思い知らされる事になるのであった。


次回の更新は2023年11月4日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 ナバール、かなりの速度の進軍ですね。 そして、バズレール将軍率いる兵との戦い、どっちに傾くでしょうか。 いや、まぁナバールがここでやられるはずがないのですが、逃げ惑い…
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