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第百四十話 捲土重来



---三人称視点---



 聖歴せいれき1756年10月30日。

 相も変わらず舞踏会や音楽会を繰り返すレイル十六世に対する不満が

 爆発寸前となりつつある王都ガルネス。


 その噂はネルバ島のナバールとその側近の耳にも入っていた。

 ネルバ島の小さいな宮殿の広間で、

 ナバールとその側近達は椅子に座りながら、議論を交わしていた。


「この間の8月30日の皇帝陛下の誕生日には、

 禁止されたにも関わらず『皇帝陛下、万歳』と

 叫ぶ市民が絶えなかったようです」

 

 と、シュバルツ元帥。


「その一方で戦勝国による国際会議は、

 空転するばかりで、まるで収拾がつかない状況です」


 と、タファレル将軍も発言する。


「……」


 二人の言葉を無言で聞くナバールであったが、

 その瞳にはかつてのような覇気が宿っていた。


「陛下、今こそ動き出す機会でしょう。

 国民の世論は陛下を求めております。

 このネルバ島から脱出してガルネスへ!!」


 シュバルツ元帥が熱を帯びた声でそう問う。

 周囲のタファレル将軍やエマーン将軍も熱い視線をナバールに向ける。


「……そうだな、このままこの小さき島の皇帝で

 終わるぐらいならば、一か八かの賭けに出るべきだな。

 シュバルツ元帥、タファレル将軍、エマーン将軍。

 この島に居る兵士及び男の島民をかき集められるだけ

 かき集めてくれ、余は動く、国民の為に動くぞっ!」」


「「「はい」」」


 こうして決意を固めたナバールとその一行。

 そしてナバールはいつも丘の下で、

 木剣ぼっけんを振る少女に会いに行った。

 その少女――マリーダはいつものように木剣ぼっけんを振っていた。


「――せいやぁっ!!」


「……相変わらず精が出ているな」


「あっ、皇帝陛下! ご機嫌麗しゅうございます」


 皇帝の存在に気付くなり、

 マリーダは淑女の礼(カーテシー)と共に丁寧な挨拶をした。

 するとナバールは右手を上げて、彼女の礼に応えた。


「うむ、マリーダよ。 相変わらず頑張っているようだな。

 だがここでいくら木剣ぼっけんを振ろうが、

 貴公の未来は変わらぬ、だから余と一緒に未来を掴みにいかぬか?」


「……それはどういう意味でしょうか?」


「貴公の事はある程度、調べさせてもらった。

 まさか貴公があのアスカンテレスの戦乙女ヴァルキュリアの妹だとはな」


「……義妹ぎまいです」


「うむ、両親共々この島に流刑されたが、

 母親は慣れない生活に身体と精神を疲弊させて、

 流行病にかかり病死、父親はそれ以来、酒に溺れる日々」


「……恥ずかしながら、全て事実でございますわ」


「……貴公の復讐の対象は、あの戦乙女ヴァルキュリアなんだな?」


「はい、ですが叶わぬ夢でございます」


「そうとも限らんぞ」


「えっ?」


「余はもう一度、皇帝の座に就くべく、

 今から船でガルネスへ向かう。

 マリーダよ、貴公も余と共に乗船せよ」


「陛下、本気でございますの?」


 マリーダの言葉にナバールは「ふっ」と小さく笑った。

 そしてその鳶色の瞳で眼前の少女を凝視する。

 両者の間に緊張感が走った。


「冗談でこんな事など云わぬ」


「陛下はどうしてこんな私に手を差し伸べるのですか?

 私のことを調べなさったのなら、

 私がどういう人間かはお分かりでしょうに……」


「嗚呼、何というか余の勘なのだ。

 「この女を連れて行け」と余の勘が言っている。

 それに私も今ではこの小さき島の覇者に過ぎぬ。

 そして貴公もまだ完全に人生を諦めた訳じゃなかろう?」


「そうですね、出来るものならあの戦乙女ヴァルキュリア

 この手で倒してみたい、と夢想はしております」


「やはりあの女が憎いか?」


「憎いと言えば憎いですが、

 只の逆恨みで言ってる訳ではありません。

 良くも悪くも私の人生は、あの女と出会った事で変わりました。

 だから私は自らの手によって、

 あの女という呪縛から解放されたいのです」


「成る程、その辺は複雑な心境のようだな……」


「ええ、とても複雑ですわ」


「良かろう、ならば余について来い。

 貴公の望みをきっと叶えてやる!」


「私も陛下に同行したいと思います。

 ただ私から陛下にお願いが……」


 言いにくそうにそう言うマリーダ。

 それを察したナバールは優しい口調で問うた。


「余に願い? どんな内容だ?」


「私の父親に低額でも良いので、

 年金の類いを与えてやってくれませんか?

 もうまともに働く事も出来ず、

 恐らく死ぬまでお酒を飲み続けるでしょうが、

 その酒代くらいは用意してあげたいのです」


「……良かろう、余の方から取り計らってやる」


「……ありがとうございます」


「但しこれから先は余もどうなるかは読めん。

 ガルネスについて、もう一度玉座に座るか。

 その前に反逆者として囚われて、死刑にされるか。

 それでも貴公は余について来るか?」


「ええ、私もこのままでは未来などありませんから。

 例え泥水をすすっても、陛下の為に働いてみせます」


「うむ、期待しているぞ。

 では余と共に来い、共に栄光を掴もうではないか!:


「はいっ!」


 こうしてナバールは、

 側近や近衛兵と共にフリゲート艦「アルスコン」に乗艦して、

 配流先のネルバ島を脱出した。


 これによってエレムダール大陸の歴史がまた変わろうとしていたが、

 多くの者はまだ平和の余韻に浸っていた。

 聖歴せいれき1756年11月1日。


 一度沈んだ太陽が再び昇ろうとしていた。

 それによって過酷な運命の荒波が、

 再びリーファとその盟友を飲み込んでいくのであった。


次回の更新は2023年11月1日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 ナバールの復活。怪物と呼ばれた彼の実力は計り知れませんね。 なんだか、リーファ達よりもこっちを応援したくなってしまいます。 もうすぐ、タファレルさんの戦闘が見れますね…
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