第百三十九話 華麗なる舞踏会(後編)
---主人公視点---
私と王太子殿下は周囲の人達と同じように、
音楽に合わせて、ダンスを踊った。
「リーファ嬢、その調子で!」
「はいっ!」
私と王太子殿下の呼吸はピッタリと合う。
王太子殿下、想像以上にダンスが上手いわね。
私と王太子殿下とでは、
十五セレチ以上(約十五センチ以上)の身長差があるけど、
王太子殿下はそれを技術でフォローしてくれる。
お互いの呼吸と動きにますます磨きがかかり、
二人の動きが更に合わさっていく。
視線と動作でお互いの意思と意図を読み取り、
私達の揃ったステップで華麗に舞った。
「あそこのペア、なかなか上手いじゃないか」
「あれはアスカンテレス王国の王太子殿下よ。
相手のパートナーは……かなりの美人ね」
「あの金髪の少女が噂に名高い戦乙女だ」
「え? 彼女が戦乙女なのっ!?
まだ十六か、十七くらいの少女でしょ?」
「間違いない、彼女がアスカンテレスの戦乙女だ!」
あらあら、色々噂されているわね。
でも悪口の類いじゃないから、悪くない気分だわ。
「リーファ嬢、なかなかお上手じゃなか?」
「いえ、王太子殿下もとってもお上手ですわ」
「だがこうして君と踊るのも今夜が最後となるであろう。
私は今年中には結婚する予定だからな」
「おめでとうございます」
「ふふふ、ありがとう。
君とは縁がなかったが、君は我が国の大事な戦乙女。
また何かあれば君の力を借りる事になるであろう」
「ええ、その際には殿下と国家の為に全力を尽します」
「ああ、期待しているよ」
「……」
そして一曲が終わると同時に、私達もダンスを終えた。
「じゃあ、リーファ嬢。 また何処かで会おう」
「はい、その機会を是非楽しみにしてます」
そして王太子殿下はこの場から去った。
ふう~。
とりあえず無難なく終えたわ。
私は周囲の視線が集中するなか、軽く一息をついた。
「お嬢様、お疲れのようですね」
「あっ、アストロス。 ええ、少し疲れたわ」
「何か飲み物をお持ちしましょうか?」
「そうね、じゃあオレンジジュースが欲しいわ」
「では私が取ってきますね」
「ええ、お願いするわ」
流石アストロスね。
やることに抜かりがないわ。
「あ、お姉ちゃん! 今度はオイラと踊ろうよ!」
「えっ?」
この声はジェインよね?
私は声の聞こえた方向に視線を向けると、
そこには礼服姿のジェインが尻尾を振りながら立っていた。
……いや流石にヒューマンと犬族では踊れないわよ。
身長差が一メーレル(約一メートル)以上あるのよ。
でもストレートにそう言うと、ジェインが落ち込みそうね。
「駄目よ、ヒューマンと犬族じゃ身長が釣り合ないだわさ。
だからアンタはあたしと踊るのよ!」
「えっ? あっ……ロミーナだワン」
あっ、本当だわ。
黄色のドレスを着た兎人のロミーナが
ジェインの近くに立っていた。
「リーファさん、ジェイン。 お久しぶり~」
「久しぶりね、ロミーナ。 元気にしてたかしら?」
「お陰様で元気だわさ」
「ロミーナ、お久しぶりだワン」
「うん、という訳で再会を祝してあたしと踊るだわさ」
「えっ? で、でもオイラはお姉ちゃんと……」
「駄目よ、レディの誘いを断ったら、
そういう訳でリーファさん、ジェインをお借りするよ」
「え、ええ……」
そしてロミーナはジェインをやや強引に引っ張っていった。
……正直少し助かったわ。
私は良いのだけど、周囲のヒューマン、エルフ族が居る中、
犬族と踊るのは少し勇気が必要だわ。
彼等は潜在的に獣人を下に見てるのよね。
まあ全員が全員そうというわけじゃないけど……。
「お嬢様、オレンジジュースをお持ちしました」
「あっ、ありがとう」
「いえいえ」
私はアストロスからオレンジジュースの入ったグラスを受け取り、
口をつけて、その中身を軽く飲み干した。
う~ん、喉の渇いた時はオレンジジュースに限る。
私はほとんどお酒を呑まないからね。
「リーファさんってダンスもお上手なのね」
「え?」
背後からかけられた声に思わず振り向いた。
するとそこに立っていたのは、
グレイス王女殿下、エルネス団長、エイシル等、エルフの一団だった。
「うむ、自分も感心したワン」
今度は黒い礼服姿のシャーバット公子殿下が現れた。
この面子が揃うのも随分久しぶりね。
「戦闘だけでなく、礼儀作法やダンスも得意なんてやるわね」
「いえいえ、王女殿下」
「でも随分と賑やかだけど、
レイル十六世陛下も長い亡命生活で浮世離れしているようね」
「は、はあ」
王女殿下は何が言いたいのかしら?
「うむ、国庫が破産の危機に瀕している現状で、
このような舞踏会を開いている場合じゃないだワン」
「ええ、何でもナバールから徴収した美術品や金銀財宝を
他国の王族や貴族に売りつけているらしいわよ。
既にこの王都ガルネスでは、レイル十六世に対する不満が
日に日に高まっている状況よ」
そうなの?
でもこんな豪華な舞踏会や音楽会を
週単位で開催していたら、そりゃお金もすぐなくなるわよね。
「これはしばらくすると、一波乱が起きそうワン」
「ええ、私もそう思うわ」
ここは下手に同調しない方がいいわね。
だからは私はここは曖昧な笑顔を浮かべた。
「次会うときはまた戦場かもしれないワン。
では私はこれで失礼する」
「んじゃ私も、リーファさん! またね~」
「はい、再会を楽しみにしております」
……。
どうやら新王国も先行きが不安なようね。
これは確かに何らかの波乱が起きそうね。
やれやれ、ようやく自由な日々を手に入れたのに……。
まあその時はその時ね。
とりあえず今は自由を謳歌しましょう。
そして私はアストロスとも一曲を踊り、
この表向きは華麗なる舞踏会を自分なりに楽しむ事にした。
だが数ヶ月後、またこのエレムダール大陸に激震が走る事になるのであった。
次回の更新は2023年10月29日(日)の予定です。
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