第百三十八話 華麗なる舞踏会(前編)
---主人公視点---
「じゃあそろそろ行くわよ」
「はい」「はいだワン」
私とアストロスとジェインは着飾って、
背筋を伸ばして、ベルティーヌ宮殿の大広間へ向かった。
私の格好は沢山のレースとフリルがついた両肩の出た水色のドレス。
靴は踵の高すぎない白い靴に髪型は、
緩めにお団子を作ったというスタイル。
念の為にニプレスをつけているわ、念の為にね。
アストロスとジェインは黒い燕尾服。
周囲の参加者と見比べても、見劣りはしないわ。
とりあえず私は両脇にアストロスとジェインを引き連れて、
周囲の視線を浴びながら、
こつこつと床を鳴らして歩を進めた。
大広間には既に多くの参加者が集結していた。
流石は噂に名高いベルティーヌ宮殿だわ。
金銀の光が太い柱や燭台に散らばっていて、眼が少し眩しいわ。
天井には豪奢な銀のシャンデリア。
沢山並びられた長卓の上には、
最高級の素材を使った豪華な料理が並べられていた。
「おおっ! す、凄い料理だワン!」
ジェインが勢いよく尻尾を左右に振りながら、そう叫ぶ。
「ジェイン、まだよ。 乾杯の合図がされるまでは、
料理に口をつけちゃ駄目よ」
「う、うん。 わかったワン」
「しかしお嬢様、凄い面子が集まっていますよ」
「そう、どれどれ……」
私は双眸を細めて、周囲を見渡した。
あ、あそこにはラミネス王太子とそのお供が居るわね。
パルナ公国のシャーバット公子と従者らしき犬族。
アームカレド教国のアルピエール枢機卿とその従者の姿も見えるわ。
……確かに凄い面子ね。
教会騎士団の騎士団長レイラは、赤いドレス姿で参加しているわ。
あそこに居るのはオルセニア将軍、黒い礼服姿だわ。
そしてエストラーダ王国のグレイス王女の姿も見えた。
グレイス王女はライトグリーンのドレス姿だった。
騎士団長エルネスは無難な黒い燕尾服。
あ、よく見ると薄いピンクのドレスを着たエイシルも居るわね。
ニャルザ王国の王族らしき猫族とニャールマン司令官。
兎人のジェルミア共和国のジュリアス将軍、ロミーナも居るわ。
そして奥の方に緋色のガウンを着た恰幅の良い初老の男性が立っていた。
その周囲に閣僚らしき中年及び初老の男性の一団も見えた。
あの緋色のガウンを着た男性がレイル十六世だわ。
でも正直言って国王の威厳みたいなものはないわね。
不健康そうなたっぷりと肉がついた顔。
遠目からで分かる大きな太鼓腹。
まあなんというかある意味王族らしいと言えばらしい。
「あ、リーファさん! お久しぶり!」
「グレイス王女殿下、お久しぶりです」
そう声を掛けてきたのはグレイス王女。
戦闘衣も似合っているけど、
グレイス王女のドレス姿も魅力的だわ。
「こうして舞踏会で会うのは珍しいわね。
どう? 元気にしていたのかしら?」
「はい、お陰様で!」
「あ、エイシル。 ちょっとこちらに来なさい」
「はい、王女殿下!」
グレイス王女に呼ばれて、エイシルがこちらにやってきた。
エイシルは両肩の出た薄いピンクのドレス姿だった。
こうして見ると彼女もかなり美形ね。
程よい幼さがまた独特の魅力を醸し出しているわ。
「リーファさん、お久しぶりです」
「エイシル、お久しぶり。
このような場所で会うのは妙な気がするわね」
「は、はい……」
「ふふふ、二人ともとてもドレス姿がお似合いよ」
と、グレイス王女。
「いえいえ、グレイス王女には叶いませんわ」
「うふふ、お世辞でも嬉しいわ。
それよりよく見るといいわ、今回の参加者の多くが
戦勝国の代表や貴族や将軍よ。
でもここだけの話だけど、戦勝国による国際会議は、
全然進展してないのよね。 レイル十六世も政務は、
外務大臣のファレラスに任せっきりなのよねえ」
「……そうなんですか?」
「ええ、でもこういう舞踏会や音楽会はほぼ毎週開いているわ。
財政難の状態で国民の生活はドンドン酷くなっているのよ。
これじゃナバールが統治していた時の方がマシね」
「……」
「街の国民達も日に日に不満を募らせているわ。
これは予想外の展開が始まるかもね」
「……予想外の展開とは?」
「さあ? 私もそこまでは分からないわ。
でもこのまま平穏無事に、という訳にはいきそうにないわね」
「……そういう自体はなるべくさけたいですわね」
「ええ、私もそう思う」
「……」
「あっ、そろそろ人が増えてきたわね。
私も少し挨拶回りするわ、エイシルも来なさい!」
「は、はい」
「じゃあリーファさん、また後で」
「はい!」
……グレイス王女はどういうつもりなのかしら?
とはいえ迂闊な事は言わない方がいいわね。
というか確かに周囲に人が増えてきたわ。
「――諸君、今夜はよく集まってくれた!」
と、高らかな声が響いた。
室内に居る者の視線が声の主に向けられる。
声の主は言うまでもない、レイル十六世よ。
「今宵も宴を楽しんでくれたまえ!
上質な酒も食べ物も用意した。
是非楽しんでいってくれ!」
その言葉と共に初老の国王は右手を上げた。
同調するように周囲の参加者達が小さく手を叩く。
どうやら宴の始まりのようね。
「お嬢様……どうなさいますか?」
「そうね、せっかく来たのだし、
パーディーを楽しみましょう。
ジェイン、もう料理に手をつけていいわよ!」
「わーいっ! じゃあ早速行ってくるワン!」
ジェインは元気いっぱいで料理の置かれた長卓へ向かう。
ああ、言うところは良くも悪くも犬と同じね。
と思っていたら知った顔がこちらにやって来た。
「リーファ殿!」
「……ラミネス王太子殿下!」
「こうして顔を合わすのも久しぶりだね」
「ええ」
まあ今年になってから何度か顔は合わせたけどね。
でも話らしい話はあまりしなかったわ。
ラミネス王太子も周囲の男性陣と同じように黒い燕尾服姿。
高身長に加えて、筋肉質な体系が彼をより一層輝かせていた。
「……実は私は少し前に婚約をしてね。
相手はアスカンテレスの公爵令嬢さ」
「噂はお聞きしております。
ご婚約おめでとうございます」
「ありがとう、まあ君に二度もフラれた時は
結構落ち込んだが、今となっては良い思い出さ」
「……嫌ですわ、からかわないでください」
「それでお願いがあるんだが……」
「何でしょうか?」
するとラミネス王太子は「コホン」と咳払いする。
そしてその蒼い眼でこちらをじっと見据えた。
「良かったらこの私と踊っていただけないか?」
「……はい」
そうね。
一曲ぐらいなら踊ってみてもいいわね。
私もラミネス王太子の事は嫌いじゃないわ。
「……」
「……」
やや距離を置いて、お互いに立ったまま、視線を交わし合う。
「ではダンスホールへ行こう」
「はい!」
私は自分の手をラサミス王太子にそっと重ねた。
すると王太子殿下がぎゅっと私の手を握った。
そして指を絡ませた私達は、
ダンスホールとなっている大広間の中心へ赴いた。
次回の更新は2023年10月28日(土)の予定です。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。