第百三十七話 不穏な空気
---主人公視点---
それから数週間ぐらいは、
国王陛下やラミネス王太子が主催する舞踏会や音楽会にも参加したわ。
どうやらラミネス王太子は、
アスカンテレス王国の公爵令嬢と婚約したとの話。
彼の求婚を二度も断っていたから、
私としても王太子殿下の対応に困っていたけど、
これで彼の私に対する執着心も弱まるでしょう。
直接顔を合わせた時も――
「リーファ嬢、ご機嫌いかがかな?」
「おかげさまで息災です、王太子殿下」
と、言葉を交わした以外は特に何もなかった。
私としてはこれで良かったのだけど、
ある程度は王太子殿下にも愛想良くする必要はあるね。
そんな感じで気が付けば数週間が過ぎた。
そして迎えた6月16日。
この日は私の誕生日。
今日で私も十七歳となったわ。
去年は追放騒動などで、
まともに誕生日を祝うことが出来なかったけど、
今年は招待客は殆ど呼ばず、身内だけで誕生日会を開いた。
「お嬢様、おめでとうございます!」
「お姉ちゃん、おめでとう!!」
「皆、ありがとう」
ほぼ身内だけでの誕生日会。
気楽な上に気心知れた相手に祝って貰えて、
私も思わず上機嫌になった。
とはいえ表面上は冷静を装ってたけどね。
それが私らしいと云えば、私らしい。
そしていざ待つ立場になると、
音楽会や舞踏会の招待状があまり届かなくなった。
まあそれならばそれはそれでいいわ。
その後も私はアストロスと一緒に図書館通い。
あるいはジェインも加えて、冒険者ギルドで討伐依頼を受けて、
実戦の勘を忘れない程度に魔物討伐や模擬戦をこなした。
何不自由ない平穏な日々。
でも不思議な事にそれが実現化すると退屈する気持ちも沸いてきた。
そうこうしているうちにいつの間にか九月となっていた。
そして9月1日。
ガースノイド王国の国王レイル十六世から、
私宛てに舞踏会の招待状が届いた。
舞踏会の開催日と開催場は9月10日の王都ガルネスのベルティーヌ宮殿。
どうやらこの舞踏会には、
戦勝国の王族や貴族、将軍、
騎士団長といった面子が集まる模様。
多分、グレイス王女も来るでしょうね。
これは是非とも参加すべきね。
となると何人か同伴者を連れていくべきね。
舞踏会にはアストロスとジェインを連れて行きましょう。
問題は執事とメイドね。
アスカンテレスからガースノイドは結構な距離があるからね。
だから王都の瞬間転移場から、
エストラーダ王国の要塞都市レミオンに瞬間転移したいけど、
一度行った事のある場所でないと転移出来ないからね。
だから連れて行く執事とメイドも限定されるわ。
そして調べた結果、要塞都市レミオンへ行った事があるのは、
メイドのミランダとミリア、そして執事のリックスだけという事が分かった。
私を合わせて合計六人。
この人数なら要塞都市レミオンから馬車で
ガースノイド王国の王都へ向かう事も可能ね。
舞踏会用のドレスなどは、
アスカンテレスのギルドハウスから、
レミオンのギルドハウスへ送ればいいわね。
よし、となれば善は急げね!
「アストロス、ジェイン、ミランダ。
それにリックスとミリア。
アナタ達五人は私と一緒にガースノイド王国の舞踏会に同行して頂戴」
「「「「はい」」」」「はいだワンッ!」
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そして瞬間転移と馬車を駆使して、
私達は9月7日にガースノイドの王都ガルネスに到着。
そこから王都のギルドハウスで荷物を受け取った。
招待客はベルティーヌ宮殿の客間で宿泊する事となっていた。
瞬間転移した事によって、
私だけでなく、アストロスやミランダ達もやや疲労気味であった為、
私は王都の商業区で馬車を捕まえて、
商業区からベルティーヌ宮殿へ向かった。
馬車の窓から王都の風景を眺めるが、
王都や住民の雰囲気はとても良いものとはいえなかった。
そして所々で王都の住民が不満を述べていた。
「国王陛下がガルネスに帰ってきて、
戦争は終わったが、我々の生活はまったく良くならないではないか!」
「その通りだ! レイル十六世の頭の中身は、
革命前の状態からまるで進歩していないっ!」
「俺達、平民は相変わらず虫ケラ扱いだぁっ!」
「我々、軍人なんかはナバールの下で働いたから、
王都から出て行け、とまで言われる始末さ。
おまけに戦争中の給料もろくに払いやしねえ!」
「……」
想像していた以上に空気が悪いわね。
なんだか不穏な空気が漂っている気がするわ。
私は更に王都の住民の言葉に更に注意深く耳を傾けた。
「なんて事だ、これではまだ皇帝が居た時の方がマシだ」
「ああ、今からでも皇帝陛下に戻ってきてもらえないか!」
「しいっ! 言葉に気をつけろよ!
憲兵隊に聞かれたら、どうするんだよ!」
「……あいよ、はあ~、もう一度革命でも起きないかな~」
「……」
王都の住民の不満は想像以上に大きいわね。
そこで私は一抹の不安を感じた。
今この状況ならば、王都の住民や王国の国民は、
ナバールが帰って来きたら、彼を受け入れるのでは?
……その可能性は零ではない。
とはいえ私の口からレイル十六世に何か言ったとしても、
疎まれるか、嫌われるだけ。
だから私はこの辺の問題に首を突っ込むつもりはないわ。
「思っていた以上に王都の雰囲気は良くないですね」
「アストロス、アナタもそう思う?」
「ええ、何というか覇気がありませんね。
とはいえ王政復古もまだ始まったばかり。
だから我々としては様子見に徹するべきですね」
「ええ、私もそう思うわ」
「お客さん、宮殿に着きましたぜ」
と、御者が声を掛けてきた。
あ、気が付けば宮殿に到着してたわ。
「ありがとう、これはほんの気持ちよ」
私はそう言って、数枚の銀貨を御者に手渡した。
すると御者は「またいつでも声をかけてください」と、頭を小さく下げた。
そして私達は馬車から降りた。
丁度良い具合にミランダ達を乗せた馬車も今到着したようね。
「じゃあとりあえず各自、舞踏会の当日までゆっくり休んで、
体調を整えておくように!」
「「「「はい」」」」「はいだワン」
そして私達は宮殿の入り口の前に立つ兵士に
招待状と冒険者の証を見せて、そのまま宮殿の中に入った。
次回の更新は2023年10月25日(水)の予定です。
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