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第百三十六話 戦乙女(ヴァルキュリア)の謎(後編)



---主人公視点---



「ではお嬢様、簡単に概要を説明します。

 まずは――」


 それから五分程、アストロスは自分が調べた事を簡潔に述べた。

 話を端的にまとめると以下のような内容となる。


 三百年前のデーモン族との戦いで疲弊していた

 対デーモン族同盟軍は、対デーモン用に数百年ぶりに

 戦乙女ヴァルキュリアの儀式を行い、

 一人の少女を戦乙女ヴァルキュリアとした。


 その少女はサーラ教会お抱えの聖女候補であったらしい。

 国を、種族を救う為という大義名分のもとに、

 その少女は戦乙女ヴァルキュリアとなった。


 正式な所属はアームカレド教国であったが、

 名目上はアスカンテレス王国の戦乙女ヴァルキュリアとして戦場で戦い続けたみたいね。

 まあこの辺は私と同じね。


 でもその戦乙女ヴァルキュリアの戦闘力は私以上であった。

 四大元素である火、水、風、土に加えて、光属性と重力、無属性の魔法も操り、

 何でも斬れる自己修復機能のある聖剣と聖鎧せいがいを纏い、

 強力な魔法を防ぎ、魔力を吸収する聖なる盾。

 この三種の神器を操り、彼女はデーモン族を次々と倒したとの話。


 この話を聞いただけで、

 この戦乙女ヴァルキュリアに課せられた誓約の重さが分かる。

 恐らくこの戦乙女ヴァルキュリアは、儀式の際にあたって、

 様々な力や神器などを望んだのであろう。


 それは多分自分の意思じゃない。

 サーラ教会や同盟軍の上層部に命じられて、

 与えられる恩恵ギフトを最大限まで要求したのでしょう。


 この時点でこの少女に課せられた戦乙女ヴァルキュリアの活動期限は、

 軽く見積もっても百年単位になるでしょうね。

 そう考えると色々辻褄が合うわ。


 でも良くも悪くもこの少女のおかげで、

 対デーモン族同盟軍はデーモン族に対して勝利を得る事が出来た。

 この辺の話は中等学校や高等学校の歴史の授業で習うわ。


 私は飛び級扱いで十五才の時点で、

 高等学校や大学の卒業資格を得たけどね。

 でも私が気にするのは、そんな歴史上の通説なんかじゃない。

 この戦乙女ヴァルキュリアがどんな結末を迎えたかだ。


「ねえ、アストロス。

 この戦乙女ヴァルキュリアがどんな結末を迎えたか、分かるかしら?」


「はい、デーモン族を完全絶滅すべく、

 同盟軍の大軍を持って東進し続けたらしいのですが、

 運悪く「冬将軍」が想像以上に早く現れて、

 補給や増援がままならない状況で最前線で戦い続けた結果、

 最後には非業の戦死を遂げた、との話です」


「そう……」


 恐らくサーラ教会や同盟軍の上層部がそうなるように仕向けたんでしょうね。

 利用するだけ利用して、邪魔になったら棄てる。

 それは今も昔も変わらないでしょう。


「お嬢様、どうかなされました?」


 アストロスが真剣な表情でこちらを見ている。

 そうね、自分一人の考えじゃ限界があるわね。

 仮にアストロスに裏切られるような事があったら、

 それは多分私自身にも問題があるのでしょう。


 でも彼はきっと最後まで私の味方だ。

 だからこの場で彼に私の心意を伝えてみるわ。


「実は――」


 私は話の要点を絞って、自分の心意をアストロスに伝えた。

 すると彼はより一層真剣な表情となり、何やら考え込んでいた。

 そして考えがまとまったアストロスは、

 細心の注意を払いながら、言葉を紡いだ。


「そんな事があったのですか。

 しかしお嬢様が出会った女神サーラが

 肖像画の戦乙女ヴァルキュリアと瓜二つとは……。

 とても偶然とは思えませんね」


「ええ、それに気になる事はまだあるわ」


「何でしょうか?」


「契約期間中の戦乙女ヴァルキュリアが戦死なり、

 死んだらどうなるかという点ね。

 そのまま何もなしに転生、なんて甘い話はないと思うわ」


「も、もしかして……」


 流石、アストロス。

 勘がいいわね。

 そして私は自分の考えを述べた。


「そう、戦死した戦乙女ヴァルキュリアは、

 現在の女神サーラの代わりに新たな女神サーラとなる。

 と考えたら話の辻褄が合うわ」


「……そう考えるとなかなか恐ろしい話ですね」


「ええ、私も今死んだら似たような状態になるかもね。

 ……そう考えると戦乙女ヴァルキュリアや女神サーラも

 人柱に近い存在なのかもしれないわね」


「人柱ですか、言えて妙ですね」


「……あまり楽しい未来図ではないわね」


「心配するのはそれだけじゃありませんよ。

 三百年前の戦乙女ヴァルキュリアは利用されるだけ利用されて、

 最後は味方の裏切りに合い、非業の戦死を遂げました。

 お嬢様も今は重宝されてますが、

 邪魔になれば同じように裏切り、粛正の対象になりかねません」


「そうね……」


 残念ながらあり得る話だわ。

 今は戦争が終わって間もないから、

 大丈夫かもしれないけど、

 もう少し時間が経てば、各国の代表や君主が

 私――戦乙女ヴァルキュリアの存在を危険視するかもしれない。


 皮肉なものね。

 私は自由を求めていたけど、

 いざ自由になったら、私自身の身に危険が迫る。


 そういう意味じゃ戦乙女ヴァルキュリアが重宝される状況が

 私自身や周囲の味方を救う事になるのね。

 でもこういう話はよくある事だわ。


 戦時には戦争の天才や英雄を必要としながらも、

 平和が訪れた途端、それらの存在を疎ましく思う。 

 考えてみればナバールもそういう存在だったかもしれないわね。


 でもそんな彼も今では流刑されて、辺境の島暮らし。

 人生なんてものは、ほんの少しの出来事で変わるものよね。

 だけど私は過去の戦乙女ヴァルキュリアやナバールのようにはなりたくない。


 ……。

 不本意だけど私も各国の上層部に取り入るべきかしら?

 少なくとも嫌われないようにはしないと……。


「アストロス、最近は舞踏会や音楽会の招待を断っていたけど、

 これからはある程度はそれらの誘いを受ける事にするわ」


「……そうですね、上層部にある程度すり寄るべきかもしれませんね。」


「ええ、だから悪いけどアナタも一緒に同行して頂戴」


「はい、勿論です」


「……」


 勘の良いアストロスだから、

 彼は私の云わんとする事を正確に理解してくれてるでしょう。

 こういう時は彼の存在の有り難さが痛いほど分かるわ。

 自分を絶対に裏切らない人の存在って、とても大事よね。


「今日はもう疲れたわ。

 調べ物はこれくらいにして、邸に戻りましょう」


「はい」


 そして私達は本を本棚に戻して、図書館を後にした。


次回の更新は2023年10月22日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 これだけの信用が無ければ、アストロスは農家になっていたでしょう。 話は変わって、半ば要望のようになりますが、アストロスの旧友とか出てきませんかね... 彼について語られ…
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