第百三十四話 自由な日々
---主人公視点---
帝国軍との戦いが終わって、
約半年が過ぎた聖歴1756年5月中旬。
私はフォルナイゼン邸の庭で白いガーデンチェアに
腰掛けながら、日光浴を楽しんでいた。
「お嬢様、あまり日焼けすると肌に悪いですよ。
お嬢様の白い肌は日焼けに弱いのですから」
そう声を掛けてきたのはメイド服姿のミランダ。
まあ彼女の言う事は間違ってない。
私の白い肌はよく他人に羨ましがられるが、
直射日光にはかなり弱いのは事実。
だから私もそう長い時間、日光浴するつもりはない。
「ミランダ、分かっているわ。
だから後、三十分後にもう一度声を掛けて頂戴」
「はい、それとお嬢様、何かお飲みになりますか?」
「そうね、それじゃオレンジジュースを一つ頂戴」
「畏まりました」
ミランダはそう言って踵を返す。
そして私は再びガーデンチェアに深くもたれ掛かりながら、
手にした王都アスカンブルグの新聞社が発行した今日付の新聞に目を通す。
……気になる記事は幾つかあるわね。
どうやらレイル十六世による新生ガースノイド王国の統治は上手くいってないみたいね。
新国王は革命前から時が止まっているのか。
戦勝国による国際会議の場にも顔を出さず、
代理人として外務大臣ファレライスを出席させていた。
そして自身は政務をほったらかせて、
連日連夜、舞踏会や音楽会に明け暮れる日々を送っている、との記事。
この現状に王都ガルネスの市民も日々不満を募らせているらしい。
「……想像以上に新国王の頭の中身は、
革命前から変わってないようね」
「ん? お姉ちゃん、どうしたの?」
近くで遊んでいた犬族ジェインが
尻尾をフリフリと振りながら、こちらに寄って来た。
「何でもガースノイドの統治はあまり上手くいってないみたいなのよ」
「ふうん、まあでもそれは当然だと思うよ」
「ん? どうしてそう思うのかしら?」
するとジェインが淡々とした口調で述べた。
「いきなり皇帝が島流しされて、新国王による王政復古。
でも新国王は国民の為に王政復古した訳じゃないワン。
あくまで自分がかつて持っていた特権を取り戻す為だけに、
新国王となったんだからね。
そりゃ国民と温度差が出るのも無理ないワン」
「そうね、確かにそうだわ」
普段のジェインは子犬のように無邪気な部分も多いが、
彼はこう見えて犬族の中でもエリート軍人だった。
それ故にこのように政治的な問題の本質を見抜く事にも長けていた。
「お嬢様、オレンジジュースをお持ちしました」
「ミランダ、ありがとう。 そこのテーブルに置いて頂戴」
「はい」
ミランダは近くの茶色のガーデンテーブルに、
オレンジジュースの入ったグラスを音も立てずに置いた。
まあこんな感じで最近は邸でお気楽な生活を送っているわ。
王都に戻った直後には、
各国の王族や貴族に舞踏会や音楽会、夜会に招待されて、
アストロスやジェインと一緒に参加していたけど、
彼等は露骨に私に取り入ろうとしていたので、
次第に煩わしくなって、それらの招待も丁寧にお断りする事にした。
今ではこうして屋敷内で日光浴。
時々はアストロスやジェイン相手に剣を片手に模擬戦。
そして刺激に飢えたら、アストロスとジェインと一緒に
冒険者ギルドへ行って、手頃な討伐依頼を果たすという日々が続いている。
まあ良くも悪くも緩やかで自由な日々を送っているわ。
私は元々戦いなどはあまり好きじゃない。
実父や義母、義妹の絡みで骨肉の争いや戦争に巻き込まれたけど、
私個人は基本的に平和主義者だ。
心の許せる友と従者やメイド達と何不自由ない暮らしが送れたら、
それ以上の物を求めるつもりはないわ。
「お嬢様、今日は王立図書館へ行かないのですか?」
そう言ったのは黒い執事服姿のアストロスだ。
最近では彼も執事としての役割を全うしている。
アストロスも基本的には平和主義者なのよね。
私の為に嫌々戦いに付き合ってくれてたから、
今ではこうして普通の執事として働いてもらっているわ。
「今日は行かないで明日にするわ。
その際にはアナタもついて来て頂戴」
「はい、分かりました」
最近では暇な時に王都の王立図書館へ行って調べ物をしているわ。
何について調べているかって?
決まっているでしょ、戦乙女についてよ。
ファーランドで観た女神サーラそっくりな戦乙女の肖像画。
あれはけして偶然なんかじゃないわ。
あの肖像画の戦乙女は、
私が出会った女神サーラと同じ人物よ。
私の第六感がそう言っている。
だから最近ではアストロスと一緒に、
王立図書館で戦乙女について色々調べまわっているわ。
それで幾つかの事が分かったけど、
まだまだ疑問や謎は残っている。
まあ今日はその話題は止めておきましょう。
その後、私は日光浴を終わらせて、
自室に戻り軽装になって、美容体操を三十分程行う。
最近では毎日が食べては寝ての生活だから、
このように運動しないとあっという間に太るわ。
自由は大切だけど、見た目を悪くしては元も子もない。
その後、アストロスやジェインと一緒に夕食を摂り、
小休止してから、入浴場の大きな浴槽で入浴。
戦争中はあまりちゃんとした形で身体を洗えなかったからね。
だから今は最低でも一時間ほど、
お湯の張った浴槽で入念に身体を洗っているわ。
入浴後は上下のピンクの下着をつけて白いガウンを羽織る。
そして自室に戻り、今日付の新聞に再び目を通す。
ジェインの言うように、ガースノイドの王政復古は、
上手く行きそうにはないわね。
でも私がそこまで心配する必要などない。
私の、戦乙女の役割は、
あくまで戦場で味方を勝利に導く事。
それが達成された今、後の事は各国のお偉いさんに任せるわ。
とりあえず明日はアストロスと一緒に王立図書館へ行くわ。
そう思っているうちに急に眠気が襲ってきて、
気が付けば私は眠りについていた。
次回の更新は2023年10月18日(水)の予定です。
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