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第百三十三話 巡り合い


---三人称視点---



 ナバールがネルバ島に流刑されて数週間が過ぎた。

 ネルバ島は地中海ちちゅうかいのエルニア海のアスカンテレス領の島であり、

 約二万人が暮らす小さな島である。


 島民も最初はナバールが来る事で波風が立たないか、

 と心配していたが、ナバールがこの島に来た事によって、

 大きな病院や学校、劇場が建つ事が決定。


 更には道路も整備され、

 漁以外の仕事しかなかった島民達に様々な仕事を与える事となった。

 これらの事柄によって、

 島民達も元皇帝とその側近達に一目を置くようになった。


「あそこの丘に学校を建てる予定です。

 島民達も漁以外の仕事が増えて、歓迎ムードであります。

 何もなかったこの島に陛下が来られてから、

 学校や病院、劇場が建つ事が決まりました」


 丘の上に皇帝と共に立つ禿頭とくとうのタファレル将軍がそう説明する。

 すると丘の下で土木作業をしていた島民達が会話を弾ませた。


「見ろよ、皇帝陛下が丘の上にいらっしゃるぞ」


「おお、本当だ」


「あの御方が来てから、この島も活気だってきたな。

 最初はどうかと思ったが、今となっては皇帝様々だな」


「ああ……」


 元皇帝ナバールは両脇にシュバルツ元帥とタファレル将軍を並び立たせながら、

 丘の上からこの小さき島を一望しながら、思案する。


 ――かつてガースノイドの皇帝であった私が

 ――今はこの220平方キール(約220平方キロ)にも満たない

 ――この小さなネルバ島の皇帝になったのか。


 ――だが私はこれぐらいではめげない。

 ――この小さき島を立派にして、私の色に染め上げてやる。


「陛下は何処に居てもご自身の国を作るんでしょうね」


「シュバルツ元帥、貴公の言うとおりだ。

 私が居る場所が私の帝国なのだ」


「ええ、後一年もそればこの島も小さな帝国となるでしょう」


「これでマリベルと皇太子がこの島に来てくれれば、

 ここは本当に小さいながらも我が帝国となる」


「そうですね」


「元帥、マリベルからの手紙は届いてないのか?」


「はい、生憎ながら……」


「そうか、恐らくミューラー三世が邪魔しているのであろう」


「……」


「ん?」


 ナバールの視線の先に一つの人影が見えた。

 見た感じその人影はドレスを着た若い女性のように見える。

 それだけならば別に気を止めなかったが、

 その人影が木剣ぼっけんらしき物を手に持って、

 一人で剣術の稽古に励んでいる姿が妙に気になった。


「何だ、アレは?」


「何か気になる事でもありますか?」


 と、タファレル将軍。


「ほら、あれを観てみろ!」


 ナバールはそういって、右手の指で丘の下の人影を指した。


「……あれは若い女性が剣術に励んでいる……のでしょうか?」


「いや余にも分からん」


「でも確かに奇妙な光景ですね」


 シュバルツ元帥もナバールに同調する。


「シュバルツ、タファレル。 余と共について来い」


「「はっ!!」」


 ナバールは二人を引き連れて、丘の下に降りた。

 そして胸を張りながら、木剣ぼっけんを振る女性に近づいた。

 遠目では分からなかったが、想像していた以上に若い女性だ。


 光沢感と艶のあるプラチナシルバーのセミロング。

 身長は160セレチ(約160センチ)前後、プロポーションも悪くない。

 恐らく十六、十七の少女と思われる。


「貴公はここで何をしているのだ?」


 すると眼前の少女は木剣ぼっけんを振る事を止めた。

 そしてナバールの方に視線を向けて、

 行儀良く淑女の礼(カーテシー)をする。


「皇帝陛下でございますね」


「嗚呼、尤も今はこの小さな島の皇帝に過ぎんがな。

 それはさておき、貴公は何故こんな所で木剣を振っているのだ?」


「大した意味などありませんんわ。

 強いて言うならば、自己鍛錬です。

 それと私の浅はかな復讐心の為ですわ」


「ほう、復讐心か。

 見たところ服装こそあれだが、

 行儀作法や言葉遣いも平民のそれではない。

 貴公は元はそれなり良家の出ではないのか?」


 皇帝の言葉に少女は微笑を浮かべた。

 それは何処か諦観したような表情でもあった。


「今となっては全て過去の話ですわ。

 でも私はまだ自分の人生を諦めるには、

 若すぎる年齢ですわ、ですから叶うことのない

 復讐心を持って、何とか自我を保っております」


「ふふふっ、貴公はなかなか面白い娘だな。

 もし良かったら、貴公の名を聞かせてくれないか?」


「……皇帝陛下、私の名はマリーダですわ。

 姓は忘れました。 もう意味がありませんので」


「マリーダか、良い名だな」


「ありがとうございます」


 そう言って少女は、

 マリーダはもう一度皇帝の前で膝を曲げて、淑女の礼(カーテシー)を取った。


 こうして元皇帝ナバールと元侯爵令嬢マリーダは、

 流刑先のネルバ島で巡り会った。

 

 これは運命の悪戯か。

 それとも両者の強運がもたらせたのか。

 それは誰にも分からない。


 だがこの二人がこの小さき島で出会った事によって、

 エレムダール大陸は再び戦乱の渦に巻き込まれるのであった。


次回の更新は2023年10月15日(日)の予定です。

ここまでお読み頂き、誠にありがとうございます。


ここまで読んで面白かったと思っていただけましたら、

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