第百三十二話 パーティ解散
---主人公視点---
新王都ガルネスに入城して、
気が付けば十日ほど過ぎていた。
日付は11月10日となっていたけど、
新国王レイル十六世は連日連夜、舞踏会や音楽会が開かれた。
最初の内は私とその仲間は蚊帳の外に置かれていたけど、
新国王側と上層部も話題がつきかけてたようで、
ここ三、四日くらいは私達も音楽会や夜会に参加していた。
しかし本音を云えば、あまり面白くなかったわ。
特に新国王レイル十六世を直に観ると色々と幻滅を覚えたわ。
新国王は非情に恰幅が良くて、
身体の居たるところに持病を抱えているそうだけど、
新国王になった喜びからか、連日連夜遊び呆けていた。
上層部側はガースノイド王国とその周辺国。
そして戦後処理について会議を行いたいと上申したが、
新国王はそれに応じる事なかった。
これにはラミネス王太子やシャーバット公子もすっかり呆れた様子。
……こう言っちゃなんだけど、
この新国王で今後ガースノイド王国は上手くやっていけるのかしら?
何というか新国王の頭の中身は、
革命前の前王朝時代と変わってない気がするわ。
そして私達はガルネス城の客間を二室与えられて、
昨日、今日と特に用事のないまま無為に時間を過ごしていたが――
「戦乙女殿とその盟友の方々。
二階の作戦会議室でラミネス王太子とシャーバット公子。
それとグレイス王女殿下とエルネス団長。
ジュリアス将軍がお待ちしてますので、至急お向かいください」
と、言われて私達は衛兵に案内されて二階の作戦会議室へ向かった。
そして歩くこと三分余り。
二階の作戦会議室に無事到着。
作戦会議室の前の衛兵が私達の軽い身体検査を行って、
その扉が開いて、私達は部屋の中に入った。
かつてはここで御前会議が行われてたのね。
でも今は戦勝国の上層部が居座っている。
ネルバ島に流刑されたナバールがこの光景を見たらどう思うのかしら?
と私が一人考え込んでいると、
部屋の中央で陣取っていたラミネス王太子達と視線が合った。
「リーファ殿とその盟友よ。 来てくれたか。
まあ立ち話もなんだ、その辺の椅子に座ってくれ」
「……はい」
私達はラミネス王太子に言われて、
近くの椅子にそれぞれ座った。
一方のラミネス王太子達は立ったまま会話を始めた。
「端的に云おう。 君達の活躍によって我が連合軍は、
帝国軍相手に勝てた。 それ故に君達一人一人報奨金を出そう。
一人あたり一千万ローム(約一千万円)を出そう。
冒険者ギルドの銀行口座に送金したいので、
お手数だが君達の冒険者の証を提出して貰いたい」
へえ、一人頭一千万ロームも貰えるのね。
これは嬉しい誤算だわ。
「はい」
私達はそれぞれの冒険者の証を提出。
するとラミネス王太子達がそれぞれの冒険者の証の登録番号を
手元の羊皮紙に羽根ペンで書き写した。
まあこの場で現金で貰ったら、持ち運びが面倒ですからね。
だからこんな感じで銀行振り込みしてくれる方が助かるわ。
「うむ、全員の登録番号はきちんと記入した。
それでは君達の冒険者の証を返却するよ」
「「「はい」」」「はいだワン」「はいだわさ」
そう言って私達はそれぞれ自分の冒険者の証を受け取る。
全員が受け取ると、ラミネス王太子が温和な口調で言葉を紡いだ。
「報奨金以外にも冒険者ランクや魔法ギルドの昇級も考慮している。
君達は本当によく戦ってくれた。
だがこの戦争も無事終結した。
だから君達のパーティも今日をもって解散とする」
「……解散ですか」
「嗚呼、不服かね?」
「……いえ」
そうね、冷静に考えたら解散は妥当な判断だわ。
アストロスは別として、エイシルもジェインもロミーナも
他国から派遣されたメンバーですからね。
でも正直言って少し寂しいわ。
「シャーバット公子殿下、本当に解散しないといけないですか?」
「ん? ジェイン……くんだったかな?
君はパーティを解散して欲しくないのかワン?」
そう言ったのはシャーバット公子。
「うん、というかお姉ちゃんと離れ離れになるのが嫌だワン」
目を潤ませて懇願するジェイン。
こう言われると私の胸にも疼くものがある。
だがシャーバット公子としては安易に肯定できない話題よね」
「しかし君達はあくまで対帝国戦用のパーティ。
帝国亡き今、いつまでも徒党を組む必要はないだワン。
君はともかくとして他の者は、基本は国家や各種族に
属している立場だからなあ。 だからこれは自然な流れワン。
というか他の者にも聞くけど、
君達も離れ離れになりたくないのか?」
「いえ、自分はパーティ解散後は自国へ戻るつもりです」
エイシルがきっぱりとそう言った。
「そうだね、エイシル君はエルフ族でも有数の魔導師。
我々としても今後は自国に戻って、魔法の研究などして貰いたい」
「私もエルネス団長と同じ意見よ。
確かに私もリーファさんやその盟友と別れるのは辛いわ。
でもこれから始まる戦後処理の事を考えたら、
各自、時刻に戻って国家や種族の為に働くべきよ」
エルネス団長とグレイス王女の主張は尤もだ。
そして私自身もエイシルの判断を尊重したいわ。
「あたしも自国に戻るだわさ。
あたしの故郷はやっぱりジェルミア共和国だしね」
「うむ、私としてもそうして貰えると助かる」
ロミーナの言葉にジュリアス将軍が相槌を打つ。
するとジェインが露骨にオロオロとした表情で周囲を見渡した。
「……そ、そんなオイラが間違ってるの?」
「……」
周囲の者もしばしの間、黙っていた。
これはジェインが悪い訳じゃないわ。
私としてもジェインの言葉は嬉しい。
でもジェインはパラナ公国の犬族。
それ故に国家や種族の頭目の命令には従う義務がある。
まあでもこういう反応さっると、正直胸に来るものはあるわ。
「うむ、君はそんなにリーファ殿の事が好きなのかね?」
「うん! じゃなくてハイだワン!!」
シャーバット公子の言葉に元気良く答えるジェイン。
するとシャーバット公子殿下が「う~ん」と唸って――
「そこまで君が望むなら、君だけでもリーファ殿についていくか!」
「えっ? いいんですか!?」
「君がリーファ殿に同行する事は認めていいだワン。
但し肝心のリーファ殿がどう判断するかは別だ。
それでリーファ殿、アナタの率直な意見を聞かせて欲しい。
「え、え~と……」
さて、どうしたものかしら?
幸いにも戦争中の月給や報奨金。
更には蓄えから言えば、
ジェイン一匹をフォルナイゼン家で養うのは問題ない。
とはいえ私の一存だけでは……。
そう思いながら、私はアストロスに目配せする。
するとアストロスが助け船を出してくれた。
「経済的な問題はありませんね。
ジェイン一匹ならば食費もたかがしれてますし、
ジェイン自体も報奨金やこれまでの蓄えもあるでしょう」
「あ、アストロスくん」
眼をウルウルさせてそう言うジェイン。
……こうなったら見捨てる訳にもいかないわね。
まあ私もジェインの事は好きといえば好きよ。
「私の方は問題ありません。
フォルナイゼン家の邸もそれなりの広さですし、
ジェイン一匹増えたところで問題ありません」
「そうか、ならば私としては同行及び同棲を許可しよう!」
「やったぁぁぁっ!!」
シャーバット公子殿下の言葉に大喜びするジェイン。
両手を頭上にあげて、何度も何度も万歳する。
こういう所はナチュラルに可愛いわね。
「お姉ちゃん、アストロスくん!
今後ともよろしくだワンッ!」
「ええ」「ああ」
「公子殿下、寛大な処置ありがとうだワン」
「いや気にするでない。
ではこの場を持って、戦乙女とその盟友に
パーティ解散を正式に命じる」
「「「はい」」」「はいだワン」「はいだわさ」
そして私達はそれぞれ近づいて、別れの握手を交わした。
「エイシル、アナタの魔法には随分助けられたわ」
「……いえ、ボクは自分の仕事をしたまでです」
「ロミーナ、アナタの弓術は獣人だけでなく、
ヒューマン、エルフ族、竜人族にも引けを取らなかったわ」
「そうね。あたしもそう思うだわさ。
でもこのパーティに入れて楽しかったよ」
「私もよ!」
そして私だけでなく、
アストロスやジェインもエイシルやロミーナと握手を交わす。
「それじゃリーファさん、アストロスさん、ジェインくん。
また何処かで会いましょう!」
そう言ってエイシルが踵を返した。
「それじゃあたしもそろそろ行くよ。
短い間だったけど、有意義な時間が送れたわ。
さようならは言わないわ、また縁があれば再会出来るだわさ」
ロミーナもそう言ってこの場から去った。
そして残された私とアストロス、ジェインが顔を見合わせた。
「リーファ殿、母国に戻っても達者で暮らしたまえ」
「はい、ラミネス王太子殿下」
「リーファ殿、君には本当に助けられたワン」
と、シャーバット公子殿下。
「いえいえ」
「エストラーダ王国に来る事があれば、
遠慮なく私を頼りなさい!」
「グレイス王女殿下、機会があればそうさせて頂きます」
「うん、アナタと一緒に戦えて楽しかったわ。
今度は戦場でなく舞踏会や音楽会で会いましょう!」
「はい!」
私達は上層部の面々に別れの挨拶を済ませて、
ガイラス城を後にした。
こうして五ヶ月に及んだ帝国との戦いに終止符が打たれた。
長かったようで、終わってみれば短いような五ヶ月。
でもこの五ヶ月があったから、
私達は自由と安泰した生活が保障される事となった。
ここから先は自由に優雅に暮らして行こう。
それはアストロスもジェインも同じ気持ちであったでしょう。
「じゃあ皆、アスカンテレスまでは転移魔法陣を使いつつ、
安全圏に入ったら、優雅に馬車で凱旋しましょう」
「はい」「はいだワン」
ここから先は不自由なく優雅に平和に暮らす。
この時の私は本気でそう思っていたが、
後々になって思い知らされる事になる。
戦乙女という存在は、
戦争とは無縁でいられないという事実に。
だがこの時の私は色んな呪縛から解放されて、
仲間と共に意気揚々と母国に帰国する事で頭が一杯であった。
次回の更新は2023年10月14日(土)の予定です。
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