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第百三十一話 権謀術数(けんぼうじゅっすう)



---三人称視点---



 ガースノイドの王政復古で周囲の国々が密かに動き出していた。

 戦勝国である連合軍の各国の首脳部及び為政者は、

 新国王レイル十六世が主催する舞踏会や音楽会、夜会に参加する日々が続いた。


 アスカンテレス王国のラミネス王太子。

 エストラーダ王国の第二王女グレイス。

 パルナ公国の第一公子シャーバット。

 ニャルザ王国の軍司令官ニャールマン。

 そしてニャルザ王国の国王ニャーザレ一世。

 ジェルミア共和国のジュリアス将軍と第一統領レーガー。


 ガースノイドからは新国王や新閣僚。

 そしてハーン将軍やバズレール将軍、

 元親衛隊長ザイドといったそうそうたる顔ぶれが一堂に会したが、

 連日連夜、舞踏会や音楽会、夜会が行われて、

 肝心の会議自体は思うように進まなかった。



 一方その頃。

 ガイラスから地下迷宮の転移魔法陣を駆使して、

 皇妃マリベルと皇太子ナバール二世。

 それと皇妃の従者数名と護衛数名がペリゾンテ王国の王都ウィーラーに到着。


 マリベルとナバール二世は、

 国王ミューラー三世に保護されて、

 ホーランド宮殿の一室で待機状態となっていた。


 だがマリベルは自分の安否が保証されると、

 夫であるナバール一世の身を案じ始めた。

 そんな彼女を宰相ヘッケルが言葉巧みに宥めた。


「ヘッケル宰相、ネルバ島のあの人から

 お手紙や伝言は本当に届いてないの?」


「はい、マリベル様。 一切届いておりません」


 これは嘘である。

 ナバールはネルバ島へ流刑される前から、

 もしもの時に備えて、ペリゾンテ王国の国王宛に

 何通もの手紙を書いたが、監視者の手によって

 手紙は正しい宛先に送られる事はなかった。


「筆まめな方でしたのに……。

 私の手紙をご覧になったら、

 すぐにでもお返事を頂けると思っていたのに……」


 物憂げな表情でそう言うマリベル。

 それに対して宰相ヘッケルが頷いて答えた。


「ナバール殿から手紙や伝言が届けば、

 すぐにでもお持ちします。

 マリベル様も慣れない逃避行を終えたばかり。

 今はまずご自身のお体を大切にしてください」


「そうね、でもお返事が来たらすぐに届けてね」


「……勿論でございます」


 そして十五分後。

 宰相ヘッケルは宮殿の三階にある玉座の間に到着。

 すると玉座に腰掛けた国王ミューラー三世が問いかけた。


「ヘッケル、マリベルはどんな様子だ?」


「どうやらまだあの男の事を気にかけているようです」


「そうか、まああの娘は生真面目で心優しいからな。

 でも余としては、今すぐにでもあんな男の事は忘れて欲しい」


「陛下、ならば私から一つご提案があります」


「……何だ、申してみよ?」


「いえ至極簡単な方法ですよ。

 マリベル様と釣り合うそれなりの身分の若い美男子を

 マリベル様づきの侍従武官じじゅうぶかんとしてお側にお仕えさせるのです」


「成る程、悪くない手だ」


「既に何人かリストアップしてますので、

 国王陛下がお好きに選び下さい」


 宰相ヘッケルの言葉にミューラー三世は苦笑を浮かべた。

 この男のやる事は一々無駄がない。

 それ故に宰相として重宝しているのだが、

 これではどちらが国王か分からんな。

 と思いつつも国王もそれは言葉にしなかった。


「その辺の人選は貴公に任せるよ」


「御意!」


「まあこれであのナバールの事など、

 綺麗さっぱりと忘れてくれるといいのじゃがな……」


「ところで国王陛下、皇太子……ナバール二世の処遇はどうしますか?」


「そうだな、このままマリベルと引き離して、

 ナバールの間者かんじゃが誘拐せぬように、

 何処かに幽閉しておくべきじゃろうな」


「私もそれが良いと思います。

 ですが宜しいのですか?」


「……何がじゃ?」


「元皇太子は仮にも陛下のお孫様。

 陛下はその辺の所をどう思ってらっしゃるのですか?」


 するとミューラー三世は、「ふん」と鼻で笑った。

 そして眼前の宰相を一瞥すると、冷めた口調で自身の本心を打ち明けた・


「確かにアレは血縁上的には余の孫だ。

 だがそれと同時にあの男の忌まわしき血を引いている。

 故に余はアレ――ナバール二世に対して、情など持たぬ!」


「そうでしたか、それならば私としても今後動きやすいです。

 マリベル様と同様、ナバール二世にも

 あの男の家族であった事など、

 すっかりと忘れて頂きましょう」


「うむ、そうじゃな……」


「しかしあの男も最後は意外に呆気なかったな。

 だが流刑という処置には余は不服だ。

 あのナバールの才覚と強運は侮らない方が良い。

 ガースノイドにレイル十六世が戻ったとしても、

 あの男では国民の期待に応える事は出来ないだろう。

 彼は――レイル十六世は国王の権力を保持、ひけらかす事しか

 頭にないだろう、だから王政復古したとしても、

 その屋台骨は非常に脆いだろう」」


「確かに、ですがそれ故につけいる隙は多いでしょう。

 食料や物資、そして軍事物資の輸出のチャンスでもあります。

 陛下のご英断によって、我が国は戦争の被害が殆どない状態です」


「嗚呼、こうも上手く物事が運ぶとはな。

 だが油断は出来ん、余はやはりナバールの事が気がかりだ」


 これはミューラー三世の杞憂ではないのか。

 と宰相ヘッケルも思ったが、あえて口にはしなかった。

 ヘッケルとてナバールの事が気がかりといえば気がかりであった。


「ならばいっそネルバ島に刺客を差し向けますか?」


「余もそれは考えたが止めた方が良い。

 それに連合国の何処かの首脳部が実行する可能性もある。

 彼等もナバールの動向には細心の注意を払うだろうからな」


「……まあナバールの事はこれ以上、言葉を交わしても無意味でしょう。

 それよりレイル十六世から、陛下宛てに舞踏会や音楽会の

 招待状が届いておりますが、いかがなさいますか?」


「まあ一応は参加しておくか。

 ヘッケル、貴公も余と共に同行せよ!」


「御意!」


「いずれにせよ、しばらくすれば何処かの国で

 各国の君主や大使等が集まって、

 戦後処理の為の大会議が開かれるであろう。

 その時に向けて、今から色々と準備を整えておくぞ」


「御意、勿論でございます」


 こうして元皇妃マリベルと元皇太子は、

 ペリゾンテ王国の国王と宰相の手によってナバールから引き離された。

 この時点でナバールはもう終わった。


 殆どの者がそう思っていたが、

 「怪物ナバール」は人々の予想を超えて、

 再び表舞台に立つのだが、現時点でそれを予想する者は殆ど居なかった。



次回の更新は2023年10月11日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 帝国前半戦が終わり、色々なものが蠢いていますね。 ヘッケルさんのノリノリの「御意!」が好きです。 偏見ですが、仕事だから真面目にやっていますが、プライベートではかなり…
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