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第百三十話 王政復古



---三人称視点---


 聖歴せいれき1755年10月28日。

 ナバール・ボルティネスがネルバ島に追放された二日後。

 レイル十六世はヴィオラール王国と元帝国宰相ファレイラスの支持を得て母国に帰国を果たした。

 

 そして翌日の10月29日に旧帝都ガルネスに入城。

 すると新たな国王をこの目で観たい。

 とガルネスやその周辺の住民がガイラスに集結する中、

 レイル十六世を乗せた豪奢な馬車が幾人かの将軍を引き連れて、

 ガルネスの大通りを突き進んだ。


「レイル十六世万歳っ!!」


「ガースノイド王国万歳っ!!」


 レイル十六世は周囲の大歓声と拍手を浴びながら、

 馬車の窓から愛想良く市民達に手を振った。

 すると周囲の市民達が再び大きな歓声を上げる。

 その光景を見てレイル十六世は微笑を浮かべた。


 だが市民達も全ての事柄を歓迎している訳ではなかった。

 新たな国王と共に馬で、

 大通りを歩む旧帝国のハーン将軍やバズレール将軍の姿が

 視界に入ると、市民達は眉を顰めて彼等を批判した。


「観るがいい、あの元帝国将軍の姿を!」


「ナバールのおかげで将軍になれたのに、

 今度は国王にすり寄るとは、ああいうのを恥知らずと言うんだ」


「全くよ、本来ならば全員、ナバールについて

 ネルバ島へ行くべきなのに……」


 この見物客の中にリーファとその盟友の姿もあった。

 先の帝国の戦いでは大活躍した彼女等だが、

 戦勝国が行う会議の参加は赦されず、

 処遇が決まらないまま放置されていたので、

 冷やかし半分でこのレイル十六世の入城の見物にやってきた。


「想像以上に盛り上がってるわね」


「ええ、とても少し前まで戦争してたとは思えないです」


 リーファの言葉にエイシルが同調する。


「でもアレを見だわさ。

 帝国の元将軍が一緒に連れ立ってるわよ。

 あの変わりのみの早さは大したものね」


 ロミーナがそう言って、将軍達に蔑んだ視線を向ける。


「でも全員が全員寝返った訳じゃなそうだワン」


「そうね、あの男――シュバルツ元帥の姿が見えないわね」


「お嬢様、噂ではシュバルツ元帥は皇帝に同行して、

 ネルバ島へ向かったとの話です」


 アストロスがそう補足説明する。


「成る程、彼は最後まで主君に仕えるつもりなのね。

 それは立派だと思うけど、少し心配ね」


「何が心配なんですか?」


「エイシル、あのシュバルツ元帥はかなりの使い手よ。

 そんな男が元皇帝と同行するのは少々危険じゃなくて?

 この王政復古もまだまだどうなるか分からないし、

 そういう意味じゃ不安要素は少ない方がいいわ」


「……確かにそうですね」と、エイシル。


「でももう少しで皆とお別れなんだワン」


 ジェインが少し寂しそうにそう言う。

 するとリーファはジェインに視線を向けて微笑を浮かべた。


「確かにそうね、私も寂しいといえば寂しいわ。

 でも私達は元々対帝国用の編成チーム。

 その帝国が亡くなれば、その役目も終わりだわ」


「まあそうだけど、オイラはやっぱり寂しいワン。

 オイラはまだまだお姉ちゃんや皆と一緒に居たいワン」


「そうね、あたしも少し寂しいだわさ」


 ロミーナもそう同調する。

 リーファはそんな盟友を優しい口調で諭した。


「そうね、ならあなた達さえ望むのであれば、

 私と一緒にアスカンテレスに同行出来るように、

 ラミネス王太子やグレイス王女、シャーバット公子に掛け合ってみるわ」


「本当? それは嬉しいワン」


 その場で万歳するジェイン。

 するとリーファやその盟友も自然と笑顔になる。

 だがそんな中でもリーファは、漠然とした不安を抱いていた。


 本当にこれで全てが終わったのか。

 これでガースノイドだけでなく、

 エレムダール大陸に平和が訪れるのか。


 何より元皇帝――あのナバールを生かしたままで良かったのか。

 皆、このお祭り騒ぎで気が緩んでるのでは?

 とはいえ現時点ではこの状況を受け入れるしかない。


 だが幸か不幸か、リーファのその不安は的中する事となるのであった。



---------


 11月3日。

 レイル十六世がガルネスに入城して、五日が過ぎた。

 レイル十六世とその臣下達は、

 ガルネス城を拠点として、政治活動を行った。


 レイル十六世は10月31日に、

 まず立憲君主制を約束する宣言を行い、

 その二日後の11月2日に立憲君主制、二院制議会、

 信教の自由、そして全ての人民の憲法で規定される権利を公的に保証した。


 これによって彼は人民の支持を得る事に成功。

 そして翌日の11月3日、彼は正式に国王となり、

 ガースノイドは再び王国として再出発する事となった。


 そして新たな閣僚の発表。

 その閣僚の中に旧帝国の宰相ファレイラスが外務大臣。

 また元総参謀長のフーベルグが警務大臣という要職に就く事となった。


 この人事には不満を唱える者も多く、

 新国王の取り巻き連中が――


「国王陛下、外務大臣のファレイラスもですが、

 元総参謀長のフーベルグが警務大臣という人事に私は不満です」


「そうですよ、陛下。 あのような日和見主義者を

 国家の要職に就けるべきではありません!」


「そうですとも!」


 だが新国王は彼等の反対を押し切って、二人を要職に就けた。

 無論、新国王とてファレイラスやフーベルグなど信用していない。

 しかし人格はどうであれ、彼等は優秀な人材である事は事実。


 故に新国王は彼等二人や閣僚に内務、外務と軍務を任せて、

 自分は美食、舞踏会、音楽会、夜会。

 そして夜の営みに精を出すつもりであった。


 要するに新国王は国王の権力には興味があったが、

 政務や軍務は部下に任せて、自身は遊びほうけるつもりであった。

 ある意味、国王、貴族らしい発想であったが、

 残念ながら新王都ガルネスにはまだまだナバールの支持者シンパが居た。


 結果的にそれが自身の首を絞める事となるのだが、

 厳しい亡命生活をようやく終えた新国王は、

 そんな政治の出来事や人民の感情を理解する器量を持ち合わせてなかった。


次回の更新は2023年10月8日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 不穏な空気が蔓延していますね。 文の所々から、帝国復活の未来しか見えない... そして、シュバルツ元帥のことだけでリーファ達は、あの禿頭を忘れている... それがリー…
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