第百二十六話 生か、死か?(後編)
---三人称視点---
「んじゃ行くだわさ! 『ホークアイ』ッ!!」
ロミーナそう叫んでは左眼を瞑り、魔力を解放した。
すると残された右目が緋色になり、前方の聖龍の姿を明確に映し出した。
弓兵や銃士、魔法銃士といった
遠距離攻撃を得意とする職業の職業能力『ホークアイ』だ。
この能力は片目を瞑ることにより、
魔力で一時的にもう片方の眼の視力を大幅に向上させる効果がある。
ロミーナは通常時でも百メーレル(約百メートル)圏内なら、
標的の顔を見分けれるが、この『ホークアイ』を使えば、
標的の細かい表情の変化すら読み取る事が出来た。
彼女の右目が前方の地面でもがく赤い聖龍を捉えた。
その苦しむ表情も視力が強化された右眼にハッキリと映し出される。
だが彼女はまだ矢を放たない。
更に完全を期する為に、そこから職業能力を重ねがけする。
『――精神集中っ!!』
職業能力・『精神集中』は名前の通り精神を集中する能力。
これによってロミーナの集中力は更に高まった。
これで下準備は整った。
そしてロミーナは背中に背負った矢筒から、
金の矢を巧みに引き抜いた。
この金の矢は一本で五十万ローム(約五十万円)はする代物だ。
だがその代わり矢の硬度は非常に高く、
魔力や闘気の伝導率も非常に高い。
ロミーナ自身、この矢を使う事は滅多にない。
ここぞという時の為に用意していた。
そして今まさにここぞという時がやってきた。
だからロミーナはこの場で金の矢を使う事に決めた。
ロミーナは黄金の弓に金の矢をつがえた。
ロミーナは弓を構えて、弓を引き絞りながら叫んだ。
「行くわだわさ! ハアアアァッ!
――セラフィム・アローッ!!」
ロミーナがそう技名をコールするなり、
金の矢が目映い光に包まれながら、弓から放たれた。
聖龍に向けて、ロミーナの放った金の矢が風切り音を立てて向かっていく。
金の矢は光を放ちながら、
聖龍の額の『進化の宝玉』に突き刺さった。
「なっ、なっ、なっ、何っっ!?」
射たれた聖龍の額の『進化の宝玉』が、
ビキ、と音を立てて、放射状にヒビが入った。
半瞬後、「メキ、メキ、メキ」という音と共に、
聖龍の額の『進化の宝玉』が四方八方に砕け散った。
「ば、馬鹿な……こ、この我がっ……う、兎如きに……」
「兎人と思って侮るんじゃないだわさ。
アンタもその額の宝玉がなきゃ只の巨竜のようね!」
「お、おのれ……う、う、うっ……!?」
聖龍の額に空洞が生じて、聖龍の生命力と魔力が急速に奪われていく。
聖龍ラグナールは地面でのたうち回り、無念の言葉を呟く。
「わ、我は……偉大なる四聖……龍なる……ぞ。
その我が……こ、こ、こんな……ところで死んで……たまるかっ!」
聖龍の顔は次第に肉が溶け、眼球も急速に輝きを失う。
核となる『進化の宝玉』を破壊された為、
聖龍が有していた生命力や魔力が聖龍の身体が一気に放出された。
だがまだ死んだ訳ではない。
そしてここで契約者であるシュバルツ元帥が大声で叫んだ。
「ラグナール、まだだ! まだ終わりじゃない!
お前はこんなところで死ぬんじゃない。
周囲の魔導師部隊よ、ラグナールに回復魔法と治療魔法をかけろっ!」
「了解です、! 我は汝、汝は我。
母なる大地ハイルローガンの加護のもとに! ――アーク・ヒール!!」
「――ディバイン・ヒール」
「――キュアライト」
「――ホーリーキュアァッ!」
周囲の魔導師部隊が聖龍に回復及び治療魔法をかける。
目映い光が聖龍の身体を覆う。
そして目映い光が聖龍の全身に広がり、
左足首と左大腿部、その他の傷も癒やすが――
「……ウガアアァッ……ま、魔力が……身体カラ……魔力が抜ケル……」
何とか地面から立ち上がる聖龍ラグナールだが、
先程まであった膨大な魔力が急速に全身から失われていく。
「進化の宝玉」を失った今、ラグナールは只の巨竜と化していた。
そんなラグナールに対して、
契約者であるシュバルツ元帥が非情な命令を下した。
「ラグナール、まだ終わるには早いぞ。
どのみちお前はもう長くもない。
ならばその前に出来るだけ多くの敵を道連れにしてやれ!」
「……そうダ……な、ワレは誇り高き……四聖龍……。
このまま無意味に……死ヌ……ツモリハ……ナイ!
――小さき者共よ、最後に我の力を……見せてくれよう!
燃え尽きるが良い! ――――ガルラアアアッ!!」
瀕死の聖龍の口が大きく開き、炎のブレスを吐いた。
迸る炎が立ち昇り、連合軍の兵士達を巻き込んで巨大な火柱となる。
「ぎゃ、ぎゃあああぁぁぁっ!!」
「ギャ、ギャニャアアァァァンッ!」
「ピ、ピ、ピョォォォォォォンッ!」
今の一撃で二十人近くの兵士が火達磨状態となった。
火達磨になった兵士達は、死のダンスを踊り狂う。
その姿を見てグレイス王女は咄嗟に指示を出す。
「魔導師部隊は回復及び消火作業を急げっ!」
「は、はい! ――ディバイン・ヒール」
「――アクア・スプラッシュ!」
「――ホーリーキュア!」
「これは長引けば被害が拡大する一方だわ。
ならばここは一気に勝負を決めるっ!」
グレイス王女はそう言って、白馬から飛び降りた。
そしてリーファに視線を向けて、語りかけた。
『――リーファさんっ!』
『はい、王女殿下』
『あの巨竜はまだまだ余力を残しているわ。
長期戦になれば被害は拡大する一方よ。
その前にあたしとアナタであの巨竜を倒すわよ!』
そう言ってグレイスは、リーファの許に駆け寄る。
するとリーファも聖剣を構えながら、グレイスに視線を向けた。
そこで『耳錠の魔道具』による通話を止めて、
聞き取れる声でお互い意思の疎通を図った。
「了解です、それでどうやって倒すのですか?」
「……お互いに『ソウル・リンク』を発動させて、
『ライトニング・スティンガー』をそれぞれ放ち、
あの巨竜の胸部と腹部を突き破るのよっ!」
「そうですか、やってみる価値はありそうですね!」
「ええ、じゃあレッサン、行くわよ! 『ソウル・リンク』ッ!!」
「了解だよんっ! リンク・スタートォッ!!」
「ランディ、私達もやるわよっ! 『ソウル・リンク』ッ!!」
「了解だ、リンク・スタートォッ!!」
『ソウル・リンク』発動させて、
グレイスとリーファは背中と背中を合わせた。
そして互いに手にした聖剣を構えた。
追い詰められた聖龍。
その聖龍に止めを刺すべく、
勇者と戦乙女の二人が力を合わせて、立ち向かおうとしていた。
次回の更新は2023年9月30日(土)の予定です。
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