第百二十三話 怒濤のレイドバトル(後編)
---三人称視点---
「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! ――フレアバスターッ!!」
聖龍ラグナールが腹から響くような声を上げるなり、
その両手から目映く輝いた光熱が前方に向けて放射された。
聖王級の火炎属性の攻撃魔法。
それに加えて膨大な魔力で練られており、
その威力と精度も段違いであった。
「ハイルローガンに集う水の精霊よ。
我に力を与えたまえ! 『アクア・フォートレス』ッ!!」
「――アース・ウォールッ!!」
「――我は汝、汝は我。 嗚呼、神祖エレーニアよ!
この大地を風で埋め尽くしたまえ!
はああぁっ……『風の障壁』ッ!!
連合軍の兵士及び魔導師達も自らの命を護るべく、
対魔結界や防御系のスキルを次々と発動するが――
「ぎゃ、ぎゃ、ぎゃあああぁぁぁっ!!」
「ギャ、ギャ……ギャニャアアァァァンッ!」
「ピ、ピ、ピョォォォンッ!」
想像以上に聖龍ラグナールの放った炎属性の攻撃魔法は強く、
張られた対魔結界をいとも簡単に打ち破り、
燃え盛る超高熱の炎で、
周囲の連合軍の兵士達の肉体を一瞬で焼き尽くした。
『グレイス王女殿下、このままでは危険です!
すぐに周囲の負傷者に回復魔法をかけましょう!
我は汝、汝は我。 女神サーラの加護のもとに!
――ディバイン・ヒール!!』
『了解よ、我は汝、汝は我。
神祖エレーニアの加護のもとに! ――ディバイン・ヒール!!』
「我々も治療するわよ! ――ハイ・ヒール」
「――キュアライト」
「――ホーリーキュアァッ!」
リーファやグレイス達が咄嗟に回復及び治療魔法を詠唱するが、
多くの者が即死状態で有り、その数は四十人を超えていた。
それでも三十人以上の負傷者を回復及び治療する事に成功。
『リーファさん、一分程で良いからあの巨竜を止めてくださる?』
『王女殿下、私の魔法攻撃では恐らく厳しいでしょう。
相手は強力な対魔結界持ちですが、物理系の障壁は張れません。
ですのでここは弓兵や銃士による遠隔攻撃で足止めしましょう』
「分かったわ、周囲の弓兵や銃士に告ぐ!
全員、狙撃態勢に入れっ!」
グレイス王女がそう号令を下すなり、
周囲の弓兵や銃士も慌てながらも狙撃態勢に入った。
そしてグレイス王女は、
左手をゆっくりと左肩まで上げて、大声で叫んだ。
「――撃て!」
そして周囲の弓兵や銃士が矢や銃弾を放った。
矢音と銃声と共に無数の矢と銃弾が前方の聖龍目掛けて放たれる。
「くっ、ラグナール! 防御だ。
それと周囲の者は障壁を張れっ!
――サイコ・バリアァッ!」
「――サイコ・バリアァッ!」
聖龍の右肩の上に乗ったシュバルツ元帥がそう叫ぶなり、
周囲の魔導師達も咄嗟に透明の障壁を張る。
そして放たれた矢や銃弾が透明な障壁に弾かれていく。
だが全ての矢と銃弾を弾くまでには至らず、
透明の障壁は次々と撃ち破られた。
「くっ、一旦引くしかないか。 ――フライッ!」
咄嗟にそう判断したシュバルツ元帥は、
飛行魔法「フライ」を使って聖龍の右肩を踏み台にして華麗に飛んだ。
「ぐっ……小賢しい真似を」
聖龍ラグナールは矢と銃弾を浴びながら、
堪らず苦悶の表情を浮かべた。
この瞬間、僅かな隙が生まれた。
その隙を逃すまいと、
白馬に跨がったグレイス王女が呪文の詠唱を始めた。
「我は汝、汝は我。 母なる大地ハイルローガンよ!
我は大地に祈りを捧げる。 母なる大地よ、我が願いを叶えたまえ!」
彼女が呪文を紡ぐなり、
徐々に上空を覆うほどの雨雲が発生した。
「そして天の覇者、雷帝よ! 我が身を雷帝に捧ぐ!
偉大なる雷帝よ。 我は力を求む、その代償として我が魔力を捧げる。
嗚呼、天を統べるその御力を我に与えたまえっ!!
そこからグレイスは左腕を頭の上に真っすぐ伸ばした。
攻撃する座標地点は、前方の聖龍が陣取った地点に狙いを定める。
そしてグレイスは左手の人差し指に大量の魔力を篭めて大声で叫んだ。
「――大雷撃っ!!」
次の瞬間、上空を覆う雨雲から眩い稲光が紫電と共に瞬く。
目の眩むような光と共にけたたましい雷鳴が響き、
グレイス王女の頭上から放たれた稲妻が聖龍の身体に直撃した。
「ぐ、ぐ、ぐああああぁぁぁ……あああぁぁぁっっ!?」
聖龍といえど生物である事には変わらない。
グレイスの放った『大雷撃』は神帝級の電撃魔法。
聖龍は高い魔法耐性を持っていたが、
このクラスの稲妻を浴びたら、聖龍といえど身動きを取る事は不可能である。
「まだよ、まだ終わらないわっ!」
グレイス王女が続け様に左手の人差し指に魔力を篭め続ける。
するとグレイス王女の頭上から再び稲妻が放たれた。
光の速度で放たれた稲妻が聖龍の身体にまたもや命中。
「ぐ、ぐ、ぐ、ぐっ……ぐあああぁぁぁっ!?」
轟くような断末魔の悲鳴をあげる聖龍ラグナール。
体中に電流が走り、聖龍は激しく藻掻いた。
二度の稲妻を浴びながらも、
気は失わない辺りは聖龍だったからであろう。
だが全身にあちこち火傷のような傷を負った上半身が痛々しかった。
それでも聖龍ラグナールは地面に立ち続けた。
それを見てグレイス王女は三発目の稲妻を放とうとしたが――
「うっ……」
呻き声を漏らすグレイス王女。
どうやら魔力切れを起こした模様。
すると近くに居たアストロスが即座に自分の魔力を彼女に与えた。
「――王女殿下、私の魔力を受け取りください。
行きますよ、『魔力パサー』」
「……ありがとう」
アストロスの魔力を受け取り、
グレイス王女の魔力消耗による精神疲労が少し和らいだ。
するとアストロスが左腕を前に突き出して叫んだ。
「我は汝、汝は我。 我が名はアストロス。
女神サーラよ! 我に力を与えたまえ! 属性破壊!!」
そう呪文を紡ぐなり、アストロスの左手の平から魔力の波動が放出された。
この波動が命中すればラグナールの属性が破壊されて、
抵抗値や対魔力が大きく下がる。
不意を突かれて、反応が遅れる聖龍ラグナール。
半瞬後、魔力の波動が見事にラグナールの胸部に命中。
これで聖龍の抵抗値や対魔力が大幅に減少。
だがそれと同時に聖龍ラグナールが行動に打って出た。
「――しゃらくさい真似を! 我は聖龍、舐めるでない!
我は汝、汝は我。 母なる大地ハイルローガンの加護のもとに!
――アーク・ヒール!!』
聖龍ラグナールは咄嗟に帝王級の回復魔法を唱えた。
すると目映い光が聖龍の身体を覆う。
そして目映い光が聖龍の全身に広がり、
焼けただれた皮膚や鱗がみるみると綺麗に治癒されていく。
「――魔導師部隊っ!
お前等もラグナールに回復魔法をかけるんだ!」
「は、はい! ――ハイ・ヒール」
「――ディバイン・ヒール」
シュバルツ元帥に命令に従い、
帝国側の魔導師部隊も次々と回復魔法をかけた。
それによって聖龍の受けた傷が更に綺麗に治癒された。
すると聖龍ラグナールが猛烈な声で「ガルラァ」と吠えた
「……我が受けた傷を貴様等にも刻んでくれよう!!」
「待て、ラグナール! ここは様子見に徹するんだ!」
「契約者シュバルツ、悪いがその命令は聞けぬ。
我と貴公は契約関係にはあるが、我は貴公の所有物ではない。
それ故にこの場は我の判断で動くっ!!」
そして聖龍ラグナールは両翼を目いっぱい広げた。
力強い二本の足が大地を踏み鳴らし、
急加速しながら、一直線に前方の敵目掛けて疾駆していく。
「――まずいわ、皆、後退して!
恐らく咆哮攻撃か、ブレス攻撃が来るわ!」
リーファが咄嗟にそう指示を出すが、
多くの者は動揺して、身体を硬直させていた。
その間にも聖龍と味方部隊の距離がどんどんと狭まって行く。
――これは危険な状態だわ。
――ここは相手の動きを止めたいところだけど、
――周囲の者達も思うように動いてくれないわ。
――どうする? リーファ、自分で考えるよ!
リーファがそう思っている間にも、
聖龍ラグナールは地を踏みならして、接近して来る。
そしてその距離が四百メーレル(約四百メートル)まで狭まると――
「さっきはよくもやってくれたな。
今度はこっちの番だ、人間どもよ。
誇り高き聖龍を傷つけた事を後悔するが良い!
貴様等全員、地獄送りだぁっ! ――ガルラアアアッ!!
聖龍の魔力を乗せた咆哮によって、
中衛に陣取る前衛部隊や防御役の動きが一時的に麻痺させられた。
一転して窮地に陥る連合軍の兵士達。
そして聖龍はそんな彼等に一切の慈悲をかけず逆襲に転じた。
次回の更新は2023年9月23日(土)の予定です。
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