第百二十二話 怒濤のレイドバトル(中編)
---主人公視点---
……。
もう何分くらい戦ったかしら?
恐らく最低でも十五分は戦っているでしょう。
兎に角、その間にも激しい攻防が続いたわ。
こちらは弓兵や銃士で狙い撃ち。
魔導師部隊は攻撃魔法と回復魔法。
それらを駆使して戦っていたけど、
あの巨竜が火炎ブレス攻撃、魔法攻撃をする度に
強力な対魔結界を張ったけど、
完全には防ぐことが出来ず、気が付けば三十人近くの仲間が戦死していた。
「……これはまずい展開ね」
私は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
魔法攻撃に関してはほぼ防がれているけど、
矢や銃弾は有効だけど、敵の魔導師にすぐに治癒されている。
このままだとジリ貧だわ。 そう想った矢先――
「リーファさん、助けに来たわよ!
さあ、皆も戦いに加わりなさい。
まずは負傷者の救出と治療を最優先して頂戴」
白馬に跨がったグレイス王女殿下が颯爽と現れた。
彼女の周囲にも騎兵隊と思われる面々が
王女殿下を護るように円陣を組んでいた。
その数ざっとみたところで五十人は居るわね。
こちらの元々の戦力は大体二百人くらい。
だから彼女等の戦力を合わせたら、二百五十人を超える。
これだけの戦力が居るのは非常に心強いけど、
これ以上、人数が増えたら組織立った動きはしにくくなるわね。
「リーファさん、あの赤い巨竜が今回の敵なの?」
「王女殿下、そうでございます。
あの巨竜は異様なレベルの戦闘力を有しております。
まずはそれをご自分の目でお確かめ下さい」
「分かったわ、我が守護聖獣レッサンよ。
我の元に顕現せよっ!!」
グレイスがそう紡ぐなり、
彼女の足元に魔法陣が現れて、眩い光を放った。
魔法陣の色が次々と変わり、強い魔力が生じる。
「ピオオオォァッ!」
見た目はレッサーパンダそのもの。
そのグレイスの守護聖獣のレッサンが元気よく鳴いて現れた。
「レッサン、あの巨竜を分析して頂戴!』
「了解、――――分析開始!」
分析する事、三十秒余り。
するとレッサンが困惑気味な表情で分析結果を述べた。
「グレイスちゃん、あの巨竜、とんでもなく強いよん~。
ちょっと……ううん、かなり用心した方がいいよん」
「分かっているわ、だから分析を頼んだのよ」
「それもそうだねん~」
「……な、何よ!? このあり得ない数字わ!!」
どうやら王女殿下もあの巨竜の能力値を確認したようね。
まあこの反応は正常よ、私も似たように驚いたもん。
「リーファさん、私達はあの化け物と戦うの?」
「ええ……残念ながらそうです」
「そう……、これは覚悟を決めた方がいいわね。
とりあえず細かい指示は私とアナタで
『耳錠の魔道具』を使って行いましょう」
「ええ」
「……それでアナタとしてはあの巨竜とどう戦う。
いやここまでどう戦ったのかしら?」
私は王女殿下の問いに端的に答えた。
「まず前衛部隊は防御を固めながら中衛ポジションを維持します。
接近すればあの巨竜は、
強力なブレス攻撃や魔法攻撃で反撃してきます。
だから相手の射程圏内には絶対入らないように注意してください。
そして前衛が防御を固めている間に、
中衛、後衛の弓兵や銃士は遠隔攻撃。
魔導師部隊は攻撃及び対魔結界、レジスト、と臨機応変に動いてもらいます!」
「そうね、とりあえずそう動くのが無難よね。
でもあの巨竜は異様に能力値が高いわ。
特に魔力値は最大値に近いわ」
ん? もしかして魔力は減っているのかしら?
「王女殿下、あの巨竜の現在の魔力数値はいくらでしょうか?」
「え? え~と9664ね、それがどうかしたの?」
間違いないわ、魔力はちゃんと減っているわ。
「あの巨竜は異様な魔力の持ち主ですが、
無限大ではないという事です。
またあの額の「緋色の宝石」が弱点のようです。
あれを破壊すれば、あの巨竜に勝てるかもしれません」
「あの緋色の宝石を破壊すればいいのね」
「ええ、味方の凄腕の弓兵か、
銃士の狙撃手が適役と思われます」
「でも射程圏内に入る為には、三百メーレル(約三百メートル)から、
五、六百メーレル(約五、六百メートル)くらいまで接近する必要があるわよ。
そして相手はブレス攻撃及び魔法攻撃持ち」
グレイス王女も状況の理解が早いわね。
そうなのよね、相手が強力な遠隔攻撃を持っているから、
こちらも迂闊に近づけないのよねえ。
するとグレイス王女が双眸を細めて、前方を見据えた。
「王女殿下、どうかなされました?」
「アイツ、あの巨体でしょ?
転んだら起き上がるのも一苦労でしょうね。
地形変化……は相手も対策してくるわね。
でも何とか転かせたら、狙撃チャンスが生まれそう」
「……それは名案ですわ」
確かにあの巨体なら転んだら、
そうすぐには起きられないでしょう。
とはいえ魔法攻撃はレジストされそうね。
となると弓矢か、銃弾で狙うべきかしら?
「ならばこちらの弓兵か、銃士に、
奴の足を狙わせましょうよ。
あの巨体だから、弓矢はあまり効きそうにないですね」
「そうね、でも特殊な弾丸を使った狙撃ならチャンスあるかも!」
「ではその方向で行きましょう!
周囲の銃士の狙撃手に告ぐ!
あの巨竜の足を狙撃して転倒させるわ。
我こそは、と思う者は名乗り上げて頂戴」
私は大声で周囲にそう命じた。
だがすぐに名乗り上げる者は居なかった。
まあ無理もないわね、かなりの大役ですからね。
「その大役引き受けても良いニャン」
と思ってたら、一匹の茶色の毛の猫族が名乗り上げた。
骨量が多くて、しっかりとした骨格。
たくましい筋肉を適度な脂肪が覆っている。
頭部も大きく、広く丸い額に卵形の頬。
アーモンド形の両眼、長く真っ直ぐなしっぽ。
品種は確かサイベリアン……だったと思うわ。
上下共に半袖の迷彩服に、額には眼装という恰好。
そしてその背中に漆黒の狙撃銃を背負っていた。
「アナタ、猫族の狙撃手かしら?」
「ああ、オレの姓はジョンソン、名は教える気はないニャン。
猫族と思って侮らないで欲しい」
「……アナタにあの巨竜を転倒させれるの?」
「ああ、可能ニャ、何なら額の宝石も撃ち抜いてみせようか?」
「「……」」
私とグレイス王女も思わず黙り込んだ。
正直、猫族に大役を任せていいのか?
と思う反面、この眼前の猫族が放つ重圧に呑まれた。
ここは彼を信じてみよう。
「私は賛成よ」
「……そうね、私もリーファさんと同じ意見よ」
「そうか、ならばこの大役を引き受けさせて頂こう。
但し成功した暁にはそれなりの報酬を要求したい」
「え、え~と」
「いいわよ、エルフ族の王族の名にかけて約束するわ」
「そうか、ならばこのオレがこの魔法銃であの巨竜の足を狙う。
無事に転倒させたら、どうする?
オレがあの額の宝石を破壊してもいいが……」
「額の宝石の狙撃はあたしがやるだわさ!」
そう名乗り上げたのは、私の盟友のロミーナであった。
上下共にピンク色のチュニックとズボンという格好。
その背中に獣人サイズの黄金の弓と矢筒を背負っていた。
「ロミーナ、アナタにそれが出来るの?」
するとロミーナは「もちろだわさ」と言って胸を張った。
ロミーナの弓術の腕は確かに一流だわ。
だけどあの巨竜相手に獣人サイズの弓矢が効くかしら?
「大丈夫だわさ、ここはあたしを信じてよ」
そうね、ここはロミーナを信じましょう。
「……そうね、私は構わないわ」
「リーファさんの盟友なら任せても問題ないでしょう」
と、グレイス王女も同調してくれた。
「ならば私もこの大役を引き受けるだわさ。
とりあえず今後は「耳錠の魔道具」で
会話をするだわさ、そこの男前の猫族さん!」
「……オレの事か?」
自分で自分を指さすジョンソン。
「アンタもコレを使いなさい!」
ロミーナはそう言って、
ジョンソンに「耳錠の魔道具」を手渡す。
「コレはアタシの予備品よ。
でもこういう時に使わなくちゃ宝の持ち腐れだわさ」
「……そうだな」
ジョンソンはそう答えながら、
自分の右耳に「耳錠の魔道具」を装着した。
『今後はこの「耳錠の魔道具」で通話を行うわよ』
『了解』『了解した』『了解だわさ』
これで準備は整った、と思っていたら、
前方から耳を劈く咆哮が聞こえてきた。
「グガアアアァッ……オオオンッ!」
「!?」
恐らく巨竜の咆哮攻撃ね。
不意を突かれた中衛の前衛や狙撃班、支援職は驚きすくみ上がっている。
こ、これはまずいわ!
「次に魔法攻撃か、ブレス攻撃が来るわよ!
魔導師部隊、対魔結界を張って頂戴。
はああぁ……あああぁっ! ――ライトニング・ウォールッ!」
私は咄嗟に聖王級の対魔結界を張った。
それに続くようにグレイス王女やエイシル、アストロス、ジェイン。
その他、大勢の魔導師達も自分の前方及び周囲に対魔結界を張る。
すると前方の巨竜がこちらを見据えながら、
両手に魔力を篭め始めた。
ブレス攻撃じゃないわね、魔法攻撃だわ。
兎に角、ここは何とか凌ぐしかない。
「――皆、全力で対魔結界を張って!
また負傷者が出たら、すぐに回復するように!」
「はい!」
私はそう指示を出しながら、
前方に張った白く輝いた対魔結界に更に魔力を篭めた。
……想像以上にキツい戦いになりそうね。
でもそれで挫ける私じゃないわよ!
次回の更新は2023年9月20日(水)の予定です。
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