第百二十一話 怒濤のレイドバトル(前編)
---主人公視点---
視線の先にそびえ立つような巨竜と龍の群れ。
逞しい巨木のような四肢。 紅い無数の鱗。
大きな二つの翼、そして首元には黒い首輪が嵌められている。
よく見ると額に緋色の宝石のような物が埋め込まれているわ。
胸部にも魔力刻印らしき刻印が刻まれている。
これは今までにない死闘になるでしょうね。
正直私もこんな巨竜相手に戦う自信はない。
でも逃げ出す訳にはいかない。
ならばまずは相手の能力を分析すべきね。
「――我が守護聖獣ランディよ。 我の元に顕現せよっ!!」
私がそう呪文を紡ぐと、
いつものようにポンという音を立てて、
守護聖獣ランディが現れた。
「――ランディ! あの巨竜の分析をお願い!」
「了解した。 ――分析開始!」
するとランディの両眼が眩く光り、その身体も目映く輝きだした
その間も私達は武器を構えながら、防御態勢を取る。
「リーファ殿。 あの巨竜の名前はラグナール。
種族は聖龍のようだ、全体的にパラメータが異様に高い。
恐らく接近戦では勝負にならないだろう。
だから前衛が奴を引きつけて、
魔導師部隊で魔法攻撃を仕掛けるのが一番だと想うぞ」
ランディは分析を終えるなり、そう告げた。
そして私とランディの意識が共有化されて、
巨竜の能力値の数値が露わになった。
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名前:ラグナール
種族:聖龍♂
ランク&レベル:SSSランク、89
能力値
力 :5943/10000
耐久力 :8219/10000
器用さ :3373/10000
敏捷 :4953/10000
知力 :7432/10000
魔力 :10000/10000
攻撃魔力:5497/10000
回復魔力:3067/10000
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「な、何よ……これっ!?」
私は気が付くとそう叫んでいた。
それぐらいとんでもない能力値だった。
おまけにレベルは89。
ランクは最高のSSSランク。
強いてあげれば、器用さと敏捷、回復魔力は許容範囲だけど、
力、耐久力、そして知力もべらぼうに高い。
特に魔力、これに関しては最高数値よ。
こんな能力値の持ち主は初めて見たわ。
「リーファ殿、見ての通りの数値だ。
とてもじゃないが接近戦では勝ち目がない。
これは遠距離攻撃か、魔法攻撃で押し切るしか、なさそうだ」
「そうね、それと前衛は防御スキルを張るべきね」
もう少しすれば、きっとグレイス王女殿下も駆けつけて来る筈。
それまでは堅い防御陣を敷いて、相手の動きを止めるべきね。
「アストロスとジェインは中衛に下がって様子見で!
ロミーナは矢で敵の急所を狙ってみて!
エイシルは炎以外の魔法攻撃を試し頂戴!」
「はい」「はいだワン」
「了解だわさ」「了解です」
「周囲の皆さんも前衛は防御スキル。
弓兵や銃士は、中衛及び後衛から
遠隔攻撃を、魔導師部隊は魔法攻撃か、レジストを!
兎に角、集中して戦いに挑んでください」
「はい」「了解だ!」
「――行くぞ! ハイ・ディフェンダー!」
「――プロテクトッ!」
「クイック!」
私の指示通り周囲の味方も防御スキルや強化魔法をかける。
これで最低限の準備は整ったわ。
でもここからが本番、故に集中して戦いに望むわ。
「前衛部隊は防御を固めながら後退してください。
恐らくあの巨竜は強力なブレス攻撃を持っているでしょう。
だから相手の射程圏内には絶対入らないように!
そして前衛が下がっている間に、
中衛、後衛の弓兵や銃士は遠隔攻撃。
魔導師部隊は攻撃及び対魔結界、レジストをいつでも出来るように!」
「はい」「了解です!」
そして私もゆっくりと後ろに下がる。
その間にも私は注意深く視線の先の巨竜を観察する。
あの額にある「緋色の宝石」は何なのかしら?
「ランディ、あの額の「緋色の宝石」が何か分かる?」
「……そうだな。 あの緋色の宝石からとてつもない魔力を感じる。
宝具、いや神器の類いかもしれんが、
あの宝石を破壊すれば、あの巨竜も致命傷を受けるであろう」
「成る程、要するにあそこが弱点というわけね」
「嗚呼、そうだが場所が額だからな。
狙うとしても矢か、銃弾で狙い撃ちするしかないだろう」
「……そうね、でもその前に通常攻撃がどれ程利くか。
試してみる必要があるわね。
弓兵や銃士、狙撃態勢に!」
私がそう号令を出すと、
周囲の弓兵や銃士も狙撃態勢に入った。
そして私は左手を肩の線まで上げて――
「――撃て!」
と、叫んだ。
それと同時に周囲の弓兵や銃士が矢や銃弾を放つ。
無数の矢と銃弾が視線の先の巨竜目掛けて解き放たれた。
「ラグナール、防御だ!」
巨竜の右肩の上に乗った人影がそう叫ぶなり、
巨竜が半身に構えて、背中の翼で矢や銃弾を防いだ。
だが完全には防御出来ず、巨竜が僅かによろめいた。
……どうやらある程度は利いているようね。
それに物理系を無効にする障壁は張ってないわね。
障壁は張れないのかしら?
それならばこちらとしても戦いやすい。
「撃って、撃って、撃ちまくるのよ!」
私は更に力強く叫んだ。
すると矢や銃弾も勢いを増して、次々と放たれていった。
これだけの量を浴びせたら、動けない筈よ。
「……ちっ! サイコ・バリアァッ!」
巨竜の右肩の上に乗った人影がそう叫ぶなり、
巨竜に放たれた矢や銃弾が透明な障壁に弾かれていく。
あの男が巨竜の契約者のようね。
あれ程の巨竜と契約するのだから、只者ではないでしょう。
もしかしたらあのシュバルツ元帥かも?
遠目だけど身体のフォルムが少しに似てるのよね。
まあそんな事はどうでもいいわ。
私は、私達はあの巨竜を倒す事に専念するわ。
よし、次は魔法攻撃を仕掛けてみましょう。
「では次は魔導師部隊が攻めて!
属性は炎以外で、兎に角、撃ちまくるのよ!」
「――サイキック・ウェーブだワン!」
「――アイス・バルカンッ!」
「――フレイムボルトォッ!!」
周囲の魔導師達は、
私の言いつけ通り炎属性以外の魔法攻撃を放った。
ジェインも魔法攻撃に参加していようね。
「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! 行くよっ! 『トルネード』!!」
そして追い打ちを掛けるように、
エイシルが聖王級の土と風の合成魔法「トルネード」を放つ
これが決まればあの巨竜と云えど……。
「――我は汝、汝は我! 母なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! 『クリムゾン・ウォール』!!」
「な、何っ!?」
巨竜がそう叫ぶなり、前方に長方形型の炎の壁が張られた。
そしてその炎の壁がこちらの猛攻をいとも容易く遮断した。
巨大で厚みのある長方形型の炎の壁は、
着弾した氷弾や念動波動、砂嵐を呑み込むように吸収した。
「リーファ殿、あの対魔結界は聖王級。
いや神帝級クラスだ。
並の魔法攻撃じゃ歯が立たないぞ!」
少し焦った表情でそう言うランディ。
……どうやらそのようね。
とはいえこちらとしては攻め続けるしかないわ。
巨竜に接近されたら、炎のブレスで一網打尽にされるわ。
だからここは無駄かもしれないけど、
攻め続けて、相手の魔力と気力を削るしかない。
私はそう想いながら、周囲の魔導師に再び「撃て!」と命じた。
……大丈夫。
ここで踏ん張ればきっとグレイス王女が援軍に来てくれるわ。
だから今は辛くても攻めの姿勢を貫くわ。
次回の更新は2023年9月17日(日)の予定です。
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