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第百十九話 硝煙弾雨(前編)


---三人称視点---


 

 場所が変わって帝国北部エリア。

 この北部エリアの戦いでは、

 北エルムダール海戦で勝利を収めた連合艦隊の三万人を超える地上部隊が

 破竹の勢いで帝国北部の都市や街を次々と占拠していた。


 対する帝国軍は、親衛隊長のザイドに帝都防衛隊を率いさせて、

 北部エリアの防衛にあたらせたが、戦力差により大苦戦。

 このままでは北部エリアはほぼ制圧されて、

 帝都ガルネスまで攻め込まれるのも時間の問題だ。


 帝国軍だけでなく、連合軍の司令官もそう思っていた。

 だがそこで戦況に大きな変化が生じ始めた。

 帝国黒竜騎士団ていこくこくりゅうきしだんの副長エマーンが水の聖龍「エレライム」を引き連れて、

 北部エリアに現れるなり、縦横無尽に連合軍を蹂躙した。

 

「な、なんだあの巨大な龍はっ!?」


 連合艦隊の地上部隊の指揮官バロック将軍は、

 帝国陣営の聖龍を見るなり、驚き慌てふためいた。

 そしてエマーンと『水の聖龍エレライム』はその隙を突いて、攻勢に出た。


「――行けっ!! エレライムよっ!!」


「了解した。 ――凍てつく息吹(コールド・ブレス)っ!!」


 エマーンの号令と共に聖龍エレライムは、口から凍てつく息吹を吐いた。

 その息吹を浴びた連合軍の兵士達は、

 絶叫と共に綺麗に凍りついた。

 

 兵士だけでなく、地面や周囲の木々も見事なまでに凍りついた。

 その様は何処か優雅であったが、

 当事者達にとっては恐怖以外の何ものでもない。


「な、何なんだ、あの龍は……。

 あんな龍がこの世に存在するのか?」


 指揮官バロック将軍が両眼を見開いて驚愕する。

 すると聖龍エレライムは、

 尻尾攻撃テイル・アタック咆哮ハウルで凍りついた兵士達に

 強打及び衝撃を与えて、その身体を粉々に砕いた。


「うむ、良いぞ。 エレライム!

 だがこの攻撃では多くの敵は倒せん。

 これ以外の方法で何か良い攻撃手段はあるか?」


「やれやれ、注文の多い契約者マスターだ」


「……いいから有効な攻撃方法を教えてくれ」


「そうだなァ、地形変化テレイン・チェンジで地面を

 氷漬け、あるいは泥沼化するのが効果的であろう」


「成る程、地形を変化させて、相手の進軍を阻むのだな。

 それは名案だ、早速実行してもらえるか?」


 エマーンは感心したようにそう言った。


「――了解した! 地形変化テレイン・チェンジ開始っ!」


 聖龍エレライムがそう叫ぶなり、

 前方の敵部隊が陣取る地面に広範囲の泥沼が発生した。


「う、うおっ……これは何だァッ!!」


「……地形変化テレイン・チェンジによる泥沼化かっ!?

 これでは進軍出来ぬ、全軍後退せよ、後退だぁっ!!」


 急遽発生した泥沼に連合軍の地上部隊は狼狽する。

 しかし帝国軍にとっては絶好の機会チャンスでもあった。

 そして聖龍エレライムと副長エマーンは、その好機こうきを逃さなかった。


「良し、今だぁっ、行くんだ! エレライムッ!!」


「了解したっ、砕け散れ! ――アイシクル・バレッドッ!!」


 聖龍がそう叫ぶなり、聖龍の口から無数の氷の弾丸が放射される。

 そして前方の氷結した兵士や泥沼に足を取られた兵士の身体を

 その氷の弾丸で容赦なく貫いた。


「う、う、う、うわあああぁぁぁっ!?」


「魔導師部隊、対魔結界を張るんだぁっ!!」


「駄目だ、この状態では魔法を唱える事は……ぎゃあああぁっ!!」


 その後もエレライムによる息吹ブレス攻撃。

 また氷結属性による攻撃及び魔法攻撃で連合軍の兵士達を蹂躙する。

 だが想像以上に契約者マスターであるエマーン達の魔力の消耗が激しかった。


 そこでエマーンは聖龍による攻撃を止めて、

 聖龍には地形変化テレイン・チェンジに専念してもらい、

 足止めした敵に対して、

 味方の魔導師部隊による魔法攻撃を仕掛けた。


 気が付けば戦闘開始から数時間で、

 敵戦力の三割近い兵力を減らす事に成功。

 その後は防御陣形を組みながら、

 魔力の補給を充分に補って、戦いを続行。


 こうして北部エリアによる戦いは、

 水の聖龍エレライムの大活躍によって、帝国軍が圧倒的優位となった。



---------


 一方、その頃。

 帝国領の東部のバールナレス共和国において、

 連合軍と「炎のネストール」が率いるデーモン族が衝突していた。


 いや正確に言えばそれは戦いと呼べる代物ではない。

 デーモン族による一方的な虐殺という言うべきであろう。

 西進して退却するセットレル将軍率いる連合軍の第五軍を

 「炎のネストール」が操る「炎の巨人」が情け容赦なく追撃を仕掛けた。


「ハハハ、ハハハッ……見ろ? 敵がまるでゴミのようだ」


「……契約者マスターネストール、次のご命令を!」


 「炎のネストール」を右肩に乗せた炎の巨人があるじにそう問うた。

 体長はゆうに十メーレル(約十メートル)を超えた赤褐色の肌。

 そのしなやかな肢体は、鎧のような筋肉で覆われていた。

 そしてその額には緋色の宝玉がはめ込まれていた。


 そう、この緋色の宝玉こそ「進化の宝玉」であった。

 犬族ワンマン猫族ニャーマン兎人ワーラビット等の獣人を

 生み出した伝説の秘宝の一つ、それが「進化の宝玉」だ。


 「炎のネストール」は自身が調教テイムした炎の巨人に

 その「進化の宝玉」をはめ込んで、知性と膨大な魔力を与えたのだ。

 そしてその力はこの戦場において、遺憾なく発揮された。


「んじゃ咆哮ハウリングして、相手の動きを止めろ!」


「了解です、うおおおおお……おおおおおおっ!!」


「み、耳があああ……耳があああぁッ――――」


狼狽うろえるな、次が来るぞ!

 無事な魔導師部隊は対魔結界を張るんだ」


 と、後方で息を巻くセットレル将軍。

 だが周囲の者達にはそんな余裕など微塵もなかった。

 多くの者が両手で耳を押さえて、悶絶していた。

 ネストールは敵のそんな姿を見て、嗜虐的な笑みを浮かべる。


「ざまあねえな、てめえ等!

 ならば俺様からのプレゼントを受け取りやがれっ!!

 我は汝、汝は我! 母なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『ダーク・インフェルノ』ッ!!」


 ネストールがそう呪文を紡ぐなり、

 彼の右手から闇色の大火たいかが放たれた。

 闇属性と炎属性の英雄級の合成魔法。

 硬直した連合軍の兵士達が地獄の業火に焼かれ続けた。


「ぎ、ぎゃあああっ!!」


「だ、誰か……消火してくれええぇっ!!」


 地獄のような断末魔が周囲に響き渡る。

 その間にもデーモン族の地上部隊の兵士。

 それに追従するゴブリンやオーク、オーガなどの

 魔物部隊が戦場を我が物顔で闊歩する。


「もう無理だ、退却だ! 全軍退却せよっ!!」


 理性が吹き飛んだセットレル将軍が思わずそう叫んだ。

 そして連合軍の第五軍は、見栄も意地も捨てて敗走する。

 だがネストールはこれ以上は無理に追撃しなかった。


「アヒャヒャヒャ、見ろよ? すんげえ醜態だぜ?

 命惜しさに逃げる様はなんとも滑稽だよなあ~」


「……契約者マスターネストール、次のご命令を」


「ん? いやもう追撃する必要はねえぜ。

 これ以上戦うのは少々リスクを孕んでいる。

 俺達の遊び場はあくまでこのバールナレス共和国内だ」


「……ではこれからどうなされますか?」


 炎の巨人があるじに淡々と問うた。

 するとネストールは肩を竦めて首を横に振った。


「とりあえずこの場は引いて良いだろう。

 後は統領府へ向かい、今の第一統領と

 ナシをつけるぞ。 まあ共和国の安全と

 引き換えに、俺達は同胞のデーモン族を

 救う為に軍隊の駐留を認めさせる、とかそんな感じだ」


「……了解しました]


「でも俺は細かい話し合いは面倒……苦手だ。

 この辺りの話し合いはエレミーナに任せるか」


 こうしてバールナレス共和国における戦いは、

 デーモン族の勝利という結果に終わった。

 その後、デーモン族の代表として「水のエレミーナ」

 と竜人族の第一統領ルドラーによる会談が行われた。


 第一統領ルドラーも帝国との同盟国という立場を

 護りつつ、現状を受け入れる為にデーモン族側の要求も呑んだ。

 但しこのバールナレスを拠点にして、

 帝国領や連合軍の加盟国の領土に侵攻した際には、

 締結した条約をすべて破棄するという姿勢を貫いた。


 それに対してデーモン族側もその要求に従い、

 バールナレス共和国の国外に出る事はなかった。

 この条約が帝国軍と連合軍の戦いに大きな影響を

 及ぼす事はなかったが、

 後々になってエレムダール大陸に不安の種を蒔く事に

 なるのだが、現時点ではそれを不安視する声は少なかった。


 良くも悪くも目の前の戦いで精一杯。

 それが各国の指導者及び司令官、

 兵士の嘘偽りのない本音であった。


次回の更新は2023年9月13日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 エレライムもネストールも強いですね。 ネストールが強いのは、前々からわかってはいたのですが。 四魔将もいるし、四聖龍もいるし。 四魔将は帝国編では倒さないかもしれませ…
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