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第百十七話 炎の聖龍(後編)


---三人称視点---



「もう一度云おう。 聖龍ラグナールよ。

 貴公の力を余に貸して欲しい」


 毅然とした態度でそう言う皇帝。

 対する炎の聖龍は一度だけでなく、

 二度、三度と強く唸った。


「貴公は確かガースノイド帝国の初代皇帝ナバール一世といったな?」


「嗚呼、そうだ」


われが前に封印された時は、

 ガースノイド王国・・であったが、現代では帝国・・なのだな?」


「嗚呼、王朝末期に革命が起きて、

 ガースノイドは共和国となり、そしてその後、帝国となった」


「……そうか」


「嗚呼」


「まあその辺の事情は我の知った事ではない。

 皇帝ナバールよ、何故なぜゆえ、我の力を求める?」


 ここが正念場だな。

 皇帝はそう思いながらも、誠実な態度で返答する。


「我が帝国は今、滅亡の危機に瀕している。

 だから国の守護者である貴公――聖龍ラグナールを目覚めざました。

 聖龍ラグナールよ、この帝国を護る為に余に力を貸して欲しい」


「成る程、貴公の言い分は分かった。

 皇帝ナバールよ、貴公の願いを叶えても良い。

 但し我の魔力は膨大だ、それ故に契約者は厳選せねばならぬ」


「それならば問題ない、シュバルツ元帥!」


「はっ!」


 皇帝に言われて、シュバルツ元帥が前へ歩み寄った。

 帝国最強の竜騎士ドラグーン

 心技体に優れた上級職ハイクラス熟練者じゅくれんしゃ

 すると炎の聖龍が双眸を細めて、シュバルツ元帥を凝視する。


「ほう、これはかなりの力の持ち主だな。

 貴公の名を聞かせてもらおう」


「帝国元帥のアレクシス・シュバルツだ。

 そして帝国黒竜騎士団ていこくこくりゅうきしだんの総長を務める竜騎士ドラグーンだ」


「成る程、只の竜騎士ドラグーンではなさそうだな」


「聖龍ラグナールよ、俺と契約を結んでもらえぬか?」


「……良いだろう。

 貴様ほどの男なら我の力も生かせるだろう」


「そうか、有り難い」


「……我は聖龍ラグナール。 竜騎士ドラグーンシュバルツよ。

 汝は我との契約を望むか?」


「嗚呼、だから俺に力を貸して欲しい」


「うむ、良かろう。 我はラグナール。 汝アレクシス・シュバルツよ。

 我と力を合わせて、共に戦おう!」


 そう告げると、聖龍ラグナールの身体が目映く輝いた。

 そしてシュバルツ元帥に左手に魔力刻印が刻まれると同時に、

 聖龍ラグナールの胸部にも同等の大きさの魔力刻印が刻まれた。


「うおおおぉ……おおおぉっ!!」


 物凄い魔力がシュバルツ元帥の全身に漲る。

 並の契約者ならば、その魔力の波動に耐えきれなかっただろう。

 だがシュバルツ元帥は、並の契約者ではなかった。


「シュバルツ元帥、大丈夫か!?」


「皇帝陛下、問題ありません」


「……そうか」


「ええ、多少魔力酔いをしますが、

 これくらいなら我慢出来る範囲です」


「流石は帝国が誇る元帥だ。

 それで聖龍ラグナールよ、貴公は大丈夫か?」


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。

 我は聖龍、これくらいの事で怯みなどせぬわ」


「そうか、元帥。 とりあえずラグナールをこの神殿から出してくれ」


「了解です、聖龍ラグナールよ。

 とりあえずこの神殿から出てもらえぬか?」


「うむ、構わぬぞ」


「いいか、兎に角、ゆっくりと動いてくれ。

 貴公の身体のサイズだとこの神殿内を身動きするのも辛かろう」


「うむ、確かにな。 だが心配するでない。

 実体化して貴公と契約を結んで、魔力の流れも安定してきた。

 これならば我の力を存分に振る舞う事も可能であろう」


「そうか、それは心強い。

 では俺達の誘導に従って移動してくれ」


「うむ」


 そして皇帝ナバールとシュバルツ元帥。

 総参謀長フーベルクや神殿の神官達はゆっくりと

 聖龍ラグナールを誘導して、神殿の外へ出した。


 時間にすれば三十分もかかってないが、

 必要以上に神経を使った為、

 皇帝やその部下の表情に、深い疲労の色が浮かんでいた。



---------


 何とか無事に聖龍ラグナールを神殿外に出した。

 すると聖龍ラグナールがバサバサと両翼を羽ばたかせた。


「ここまで出ればもう問題はない。

 契約者シュバルツ、それと皇帝ナバールよ。

 われの背中に乗れば、そのまま戦場まで飛んでみせるぞっ!」


 どうやらこの聖龍は飛行移動も可能のようだ。

 この巨体で飛行移動出来るのは、色々と戦いの幅が広がる。

 だがこの状況で聖龍に乗るのは、少し危険だ。

 ここは無難にシュバルツ元帥だけを乗せて、

 我々は通常通り、馬車と馬で移動すべきであろう。

 皇帝ナバールは思案顔になって一言告げた。


「気持ちは有り難いが、

 余は遠慮させてもらう。

 その代わりにシュバルツ元帥を乗せて欲しい」


「そうか、契約者マスターシュバルツよ。

 それでは我の背中に乗るが良い」


「……了解した」


 すると聖龍ラグナールが身体を屈めた。

 それに合わせて、シュバルツ元帥が軽快な動きで

 聖龍の背中まで駆け上がった。


「皇帝陛下、私はこの聖龍と共に一足先に戦場に戻ります」


「うむ、余もすぐに追いつくつもりだ」


「陛下、戦場に着いたらどう動きべきでしょうか?」


「その辺はけいの判断に任せる。

 その聖龍との契約者マスターは卿なのだからな」


「了解致しました、では聖龍ラグナールよ。

 俺を乗せて都市ラスペラーガまで一っ飛びしてくれ!」


「うむ、それでは空を飛ぶぞ!」


「嗚呼!」


 聖龍ラグナールが両翼を広げ空へと舞い上がった。

 両翼を雄々しく羽ばたかせながら、ぐんぐんと上昇する。

 その姿はまさしく空を舞うドラゴンであった。

 それに続かんと、神殿から次々と飛龍と騎乗者ライダーが空へ昇って行く。


「よし、ではこのまま飛行を続けるぞ!」


「嗚呼、頼む!」


 そして聖龍と飛龍の群れがあっという間に空に消えた。

 その光景を見つめながら、皇帝が一言漏らした。


「あの聖龍とシュバルツ元帥が手を組んだら、

 敵にとっても脅威になるであろう」


「そうですね」


 と、総参謀長フーベルク。


「では我々も都市ラスペラーガまで戻ろう」


「御意」


 こうして帝国軍は東部エリアの聖龍の解放に成功。

 また北部エリアのエリザール神殿に封印された

 『水の聖龍エレライム』も副長エマーン達の手によって、

 無事に解放された。


 もっともこの際には少々苦労して、

 契約者をエマーン一人ではなく、

 他の竜騎士ドラグーンを三名加えて、

 『水の聖龍エレライム』と何とか契約を結ぶ事に成功。


 そしてエマーン達は水の聖龍と共に、

 帝国の北部エリアを目指した。


 一方、帝国の西部エリアのハーン将軍率いる帝国軍の第四軍は、

 連合軍の第一軍が帝国領内へ侵攻した為、

 東進してラッカライム砦に撤退した。


 タファレル将軍とバズレール将軍率いる帝国軍の第五軍は、

 オルセニア将軍率いる連合軍の第二軍を相手に

 互角以上に戦ってきたが、度重なる連戦で疲労した為、

 北上して都市レーマノイアを拠点にして、兵士達に休息を与えた。


 またバールナレス共和国に侵攻した連合軍の第五軍は、

 デーモン族『四魔将よんましょう』の『炎のネストール』。

 『水のメルクマイヤー』率いるデーモン族の大部隊に蹂躙された。


 第五軍率いるセットレル将軍は、

 最初は威勢良く戦いを挑んでいたが、

 デーモン族で構成された部隊に大苦戦。


 その結果、第五軍は全部隊の四割近くの兵を失い、

 セットレル将軍は西進して、一時撤退を決意。

 だがデーモン族の部隊は無理には追撃せず、

 バールナレス共和国の各拠点を占拠するに留まった。

 

 こうして連合軍と帝国軍の戦いは大詰めを迎えようとしていた。

 

次回の更新は2023年9月9日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 敵の戦力増加は厄介ですが、わくわくしますね。  ナバールとシュバルツ元帥の大物感がすごくていいです。  やはり敵が強いと物語がどう転ぶかわからないので、よいですね。ではまた。
[一言] 更新お疲れ様です。 四聖龍が現地入り。次回からリーファ視点になりそうですね。 それにひても、レイドバトルは誰が出るでしょう 戦乙女とお転婆姫かな?それとも、戦乙女とその執事の2人で、アス…
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