第百十四話 制圧
---三人称視点---
「ふう~」
軽く一息をつく若き戦乙女。
周囲の視線がこちらに向いている。
そこで彼女は味方の許に駆け寄り、封印結界を解除した。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「アストロス、大丈夫よ」
「でもお姉ちゃん、凄かったよ!」
「ジェイン、ありがとう」
「でも戦いはまだ終わってませんよ」
「そうね、エイシル」
「そうだわさ、ここから残敵掃討戦があるだわさ」
「ロミーナ、勿論分かっているわ」
盟友とそう言葉を交わすリーファ。
対する帝国軍の第三軍は、
指揮官を失った怒りをそのまま敵にぶつけた。
「く、糞っ……ラング将軍の弔い合戦だ」
「嗚呼、一人でも多く道連れにしてやるぞ!」
「ラング将軍、一人に死なさせない!
我々も帝国軍人として最後まで戦うぞ!!」
「――帝国万歳っ!!」
怒りで我を忘れる帝国軍の第三軍の残党部隊。
対する連合軍は騎兵隊の隊長クレーベルが冷静に指揮を執りつつ――
「我々は陣形を維持しつつ、
アスカンテレス王国軍、猫族軍。
兎人軍と合流しつつ、
敵部隊の残敵掃討を行うぞっ!!」
「はっ、了解しました!」
その後、クレーベルの迅速な指揮のもと、
騎兵隊やリーファ達も味方部隊と合流を果たす。
「よし、各部隊合流を果たしたな。
ラングが居なければ、後は雑魚の集まりだ。
ここは力で敵をねじ伏せるぞ。
騎兵隊や前衛部隊を中心として、
魔導師部隊が補助及び支援するのだ」
ラミネス王太子がそう指示を出す。
「ニャ、ニャ、ニャ、我等、猫族も頑張るニャン!」
ニャールマン司令官もそう叫ぶ。
「我等は弓兵や銃士を中心として、
中距離及び遠距離狙撃で敵を狙い撃つのだ!」
ジュリアス将軍も大声で指示を出す。
そして連合軍は綺麗な陣形を組んで、
ラング亡き帝国軍の第三軍と真正面から戦った。
そして連合軍の兵士達は地面を踏み鳴らして、
その身体と命がある限り、最後まで戦った。
帝国兵達は、異様な粘りを見せたが、
リーファとその盟友、各部隊のリーダー達は、
一人で多人数を相手にせず、確実に一人ずつ戦闘不能にしていく。
七時間に及ぶ死闘が続き、
都市ハージャロックとその周辺は死体と負傷者で埋め尽くされた。
連合軍による残存兵の掃討は、思いのほか早く進んだ。
五割近くの帝国兵及びハージャロックの住民が投降したのもあるが、
ラミネス王太子の指示のもと、手際よく敵を殺害及び捕縛して、
七時間たらずでほぼ残存掃討の任を終えた。
聖歴1755年10月6日、二十二時十七分。
連合軍は帝国領の都市ハージャロックの制圧に成功。
そして翌日の10月7日。
シャーバット公子率いる連合軍の第一軍が東進して、
帝国領内へ侵入を果たしていた。
10月8日、オルセニア将軍率いる連合軍の第二軍は、
タファレル将軍とバズレール将軍率いる帝国軍の第五軍に
苦戦を強いられていたが、全軍が後退した為、
帝国軍の第五軍も帝国領内へと撤退した。
そして連合軍の第二軍もそのまま帝国の南部エリアへ侵攻。
また北エルムダール海戦で勝利を収めた連合艦隊のアリソン提督は、
数万人に及ぶ地上部隊を上陸させて、
周囲の村や都市、砦を制圧して、
帝国領の北部エリアをほぼ手中に収めた。
だがバールナレス共和国に侵攻した連合軍の第五軍は、
デーモン族『四魔将』の『炎のネストール』。
『水のメルクマイヤー』率いるデーモン族の大部隊に大苦戦。
第五軍率いるセットレル将軍は味方に援軍を要請したが、
ラミネス王太子もシャーバット公子も言い訳程度の
増援部隊しか送らなかった。
その結果、バールナレス共和国における戦いで
連合軍の第五軍は早くも全部隊の三割を失う事になったが、
帝国本土に攻め込んだ連合軍の主力部隊は、
皇帝ナバールとガースノイド帝国を倒す事を最優先してた。
窮地に追い込まれる皇帝ナバールとガースノイド帝国。
この時点で連合軍側の勝利はほぼ確定事項に思われたが、
追い詰められた帝国軍も背水の陣で、
連合軍を迎え撃とうとしていた。
---主人公視点---
「連合軍、万歳!」
「皇帝ナバールに神罰の鉄槌を!!」
連合軍兵士と冒険者及び傭兵達が入り交じり、
勝利の余韻に酔い痴れていた。
都市ハージャロックに陣取った連合軍の第三軍は、
それぞれの国旗や軍旗を誇示するように振り回した。
「……やれやれ、皆、もう勝った気でいるわ」
周りが歓喜の渦に呑み込まれいてる中、
私は何処か冷めた口調でそう云った。
皆が勝利の凱歌にわく中で私の盟友達は冷静に状況を見ている。
「しかしこの勝利は大きいですよ。
連合軍の士気も上がりますし、帝国軍にとっては、
この敗戦はかなりの痛手でしょう。
アストロスが周囲を見渡しながら、そう言う。
まあ彼の言う事も一理あるわね。
「ええ、第三軍だけでなく、
他の部隊も各地で勝利を収めたようです。
ここまで来れば帝都ガルネスを陥落するのも時間の問題でしょう」
「エイシルちゃんの言うとおりだワン。
これだけの包囲網を敷いたら、
帝国軍としても打つ手はないだワン」
エイシルの言葉に同調するジェイン。
まあ私も二人の意見に反対するつもりはないわ。
現に連合軍は帝国軍を追い詰めている。
この状況から戦況が覆される事はほぼないでしょう。
だが帝国軍がこの土壇場で窮鼠と化す可能性は高い。
そしてラング将軍は死んだけど、
まだあのシュバルツ元帥が生き残っている。
無論、彼一人で戦局を覆す事なんて不可能。
だが彼やその部下達が死を覚悟して、
戦いを挑んできた時はこちらも相応の被害が出るでしょう。
そしてシュバルツ元帥と戦わされるのは、
この私か、グレイス王女殿下になるでしょう。
でもグレイス王女殿下は国の要人。
故に最初にシュバルツ元帥とその部下と戦うのは、
この私とその盟友達になる可能性が非常に高い。
「リーファさん、どうしただわさ?」
「ロミーナ、何でもないわ。
ただこの後の戦いも楽ではなさそうね。
と、思ったら少し憂鬱な気分になったのよ」
「まあ帝国軍にもまだ戦力は残っているからねえ。
でもそんなに辛いなら、
リーファさんも無理しなければ、いいのよ」
「そうも言ってられないわ。
私は戦乙女、故に戦わなくちゃいけない」
「……まあそうですけど、
あまり何でも一人で抱え込むのは良くないと思うよ」
「そうね、でもこの戦いが終われば、
私もあなた達もきっと自由になるわ。
だから私はこの戦いを最後まで戦うわ」
「……そうね、でも無理はしないように!」
「……ええ、分かっているわ」
私はそう言葉を交わして、虚空を見据えて物思いにふけた。
――この戦いも終わりが近い。
――そして勝利を収めたら、私もきっと自由になれるでしょう。
――でもその前にまだ多くの血を流す必要があるわ。
――だから私はまだ闘うわ。
――いつか本当の自由を掴む為に!
――私はこの戦いに勝って見せるわ。
そして連合軍が帝国本土に攻め込んだ事によって、
連合軍と帝国軍の戦いは最終局面に突入しようとしていた。
現時点では連合軍の圧倒的有利に見えるが、
帝国軍もまだ多くの余力を残していた。
勝つのは連合軍か、それとも帝国軍か。
それは現時点ではまだ分からない。
だが一つだけ確かに言える事があった。
それは両軍が戦う事によって、また多くの血が流れるという事実だ。
だが私を含めた連合軍の多くの兵士達は、
今はその事実から目を背けて、
焚火を囲んで勝利の美酒に酔い痴れるのであった。
次回の更新は2023年9月2日(土)の予定です。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。