表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/341

第百十三話 快刀乱麻の一撃


---主人公視点---


「リーファ殿、一旦後ろに下がるんだ。

 そして『戦乙女ヴァルキュリアじん』を発動させるんだ!」


「分かったわ!」


 私はランディに言われるまま後ろに下がった。

 『戦乙女ヴァルキュリアの陣』か。

 このスキルは今まで使った事がないわね。

 でもここは素直にランディの言葉に従うわ。


「――戦乙女ヴァルキュリアの陣っ!!」


 私がそう叫ぶなり、

 私の足元に黄緑色の魔法陣が浮かび上がった。

 魔法陣の大きさはそれなりね。


「あれ?」


 私は思わず呆けた声を上げた。

 足元の黄緑色の魔法陣が目映く輝くなり、

 私の身体の傷や魔力が癒やされていくような気分になった。


「その魔法陣は上に乗った者の傷や魔力を徐々に回復する。

 陣の上に乗っている間は、相手の魔法攻撃も吸収出来る。

 さっきラングに殴られた傷も治っているだろ?」


「あ、本当だわ」


 確かにさっき殴られた傷痕が綺麗に治癒されていた。

 ……これはなかなか便利なスキルね。


「ふんっ、小細工を弄しやがって! ――サイキック・ウェーブ!」


 間髪入れずラングが念動系魔法を放ってきたわ。

 だけどラングの放った強力な念動波は、

 命中する前に、私の足下の魔法陣がまるで吸収するように綺麗に呑み込んだ。


「なっ!?」


「この陣は約一分間ならある程度の魔法攻撃を吸収出来る。

 それと同時に一分間の間に傷の治癒や体力や魔力も回復される。

 リーファ殿、この間に呼吸を唱えて次の攻撃に備えるんだ」


 成る程、これは地味に凄いスキルね。

 おかげで体力と魔力も結構回復したわ。

 となればこちらも次の攻撃に移るべきね。


「どうやら特殊な魔法陣のようだな。

 だがそれならば接近戦を仕掛けるまでだぁっ!」


 ラングはそう言いながら、全力で地を蹴った。

 ここが勝負の分かれ目ね。

 ならばこちらも奥の手を使わせてもらうわ。


「――予測眼よそくがんっ!」


 ここで予測眼を発動。

 すると左眼は正常のままだけど、右眼に異変が起きた。

 私の右眼にラングがこちらに突撃してきて、

 両手に持った漆黒の戦斧を振り上げる映像が見えた。

 成る程、右眼で予測するのね。


 そこで私は左構えの状態で、右手に聖剣を持ったまま、

 身体を内側に捻り、左拳を真っ直ぐに突き出した。


「がふっ!?」


 綺麗なフォームの左ストレートがラングの顎の先端(チン)に命中。

 ここから先は一手も間違えられないわ。


「はあああぁっ……『ゾディアック・フォース』!!」


 私は魔力を解放して、職業能力ジョブ・アビリティ『ゾディアック・フォース』を発動させた。

 そして左腕に全魔力の六割程度の魔力を注いだ光の闘気オーラを宿らせる。


「ハアァァァッ!! ――掌底打ちっ!!」


 私はそこから大きく呼吸して、

 左手を開いたまま大きく前へと突き出した。

 そして私は眩く光った左手でラングの胸部を全力で強打。


「ご、ごはああぁぁぁ……アァァァッ!!」


 私の左手に確かな感触が伝わる。

 というか今の一撃で私も左手の平を痛めたようだわ。

 だがラングはその比ではなかった。


 ラングは口から胃液と血液を逆流させながら、

 物凄い勢いで後方に三メーレル(約三メートル)程、後ろに吹っ飛んだ。

 だがラングは両足を踏ん張って、何とか転倒を避ける。

 大した精神力ね、そこは褒めてあげるわ。

 

 でも体力的にはもう限界でしょう。

 だから私が楽にしてあげるわ。


「――ダブル・デルタスラッシュッ!!」


 私はそう叫びながら、聖王級せいおうきゅう剣技ソード・スキルを繰り出した。

 まずは聖剣の剣身に炎の闘気オーラを宿らせて、袈裟斬りを放った。


「ぐっ……ぐあああっ!」


 袈裟斬りが見事に決まり、

 ラングが右肩口から血を流しながら悲鳴を上げた。 

 そして私は更にそこから剣身に風の闘気オーラを宿らせる。 

 今度は逆袈裟斬りを放ち、眼前の男の身体にXエックスの字を刻み込んだ。


 風と炎が交わり、魔力反応『熱風』が発生。

 でもまだよ、まだ終わらないわ。

 そして私は両手に持った戦乙女ヴァルキュリアの剣(ソード)の剣身に光の闘気を宿らせる。


「これで終わりよっ!!」


「が、がはあぁぁぁ……あああぁぁぁっ!?」


 私は薙ぎ払いを繰り出した。

 まずは下段薙ぎ払い、次に上段薙ぎ払いを放った。

 それによってXエックスの文字に二つの底辺を描いて、

 ラングの身体に二つの三角形型デルタがた剣傷けんしょうを刻んだ。

 それによって魔力反応が『熱風』から『太陽光サンライト』に変化した。


 するとラングが手負いの野獣のような悲鳴を上げたまま、

 後ろに数歩よろめいてから、背中から地面に倒れ込んだ。

 

「ハアハアハァ……」


 どうやらこの辺が限界のようね。

 私ももう殆ど魔力がないわ。

 でもここで倒れるわけにはいかないわ。


 私は呼吸を乱しながら、

 見下ろす形で地面に倒れ伏せたラングに視線を向けた。

 我ながらよく戦ったと思うわ。


 正直この男は今まで戦った相手の中では最強級さいきょうクラスね。

 粗暴で野蛮な男であったけど、

 帝国将軍として、帝国軍人としての誇りを持っていたのも事実。


 だから最後にこの男と何か言葉を交わしたい。

 本当は敵とこういう事はすべきじゃない、という事は頭では分っているわ。


 だがこの時の私は死闘を尽した敵と言葉を交わす事を望んだ。

 そして私は呼吸を整えてから、ゆっくりとラングのもとに歩み寄った。



---------



 ……。

 ラングは口から血を流して、虚ろな目で天を仰いでいた。

 だが私が近づくなり、その虚ろな目でこちらを見据えた・


「……な、何のつもりだ?」


「……別に意味なんかないわ。

 ただ最後にアナタと言葉を交わしたいと思ったのよ」


「……勝者の特権というわけか。

 ……そ、それも良かろう。

 き、貴様はオレに勝った、ゆ、故に何をしようが貴様の自由」


 この状況でも戦士としての誇りは忘れてないのね。

 その部分に関しては、素直に賞賛するわ。


「私も死に身体の敵に鞭を打つ気はないわ」


「……そ、そうか」


「そうよ」


 ……。

 埒があかないわね。

 ならばここは単刀直入に気になる事を聞いてみるわ。


「……一つ教えてもらえるかしら?

 アナタにとって帝国、そして皇帝とはどういう存在?」


 するとラングは左眼を見開いて、

 やや驚いた表情でこちらを凝視する。

 だが数秒もすると、真面目な表情で語り出した。


「て、帝国はオレにとって全てさ。

 お、オレは革命前は下層階級の人間であったが、

 革命、そ、そしてその後あの御方……皇帝陛下と

 出会った事によって、オレは今の地位を築き上げる事が出来た。

 言うならばあの御方は――皇帝陛下はオレにとっての救世主」


「……成る程ね。

 そう言えばあのネイラールも同じような事を言ってたわ」


「き、貴様はあのネイラールとも言葉を交わしたのか?」


 ラングの問いに私は小さく頷く。

 するとラングは苦笑を浮かべて、皮肉を述べた。


「ふ、ふん、き、貴様も物好きな奴だな。

 で、でも戦乙女ヴァルキュリアには、

 戦死者を天上の世界に導くという役目もあるらしいな。

 こ、これもその一環か?」


 そう言えば神話ではそう言われているわね。

 でもこれはあくまで私個人の意思。

 だから私は首を左右に振って、ラングの言葉を否定した。


「確かに神話ではそういう逸話を聞くわね。

 でも残念ながら私にはそういう気はないわ。

 だけどアナタとは敵とはいえ、私にとって強敵であった。

 だから死ぬ前にアナタの言葉を聞きたい、と思ったのよ」


「そ、そうか。 だがこういう行動を含めて、

 貴様は戦乙女ヴァルキュリアなのかもしれんな。

 少なくとも戦場ではこんな真似をする奴はそうは居ない」


「……もしかしたらそうなのかもね」


「嗚呼、恐らくそうだろう。 ご、ごほっ!!」


 そこでラングが口からまた血を吐き出した。

 するとラングの左眼から急速に光が失われた。

 これはもう長くはないわね。


「……き、き、貴様の名前は何であったかな?」


「リーファよ、リーファ・フォルナイゼン」


「……そうか、リーファか。 良い名だな……」


「……ありがとう」


 するとラングは左眼を閉じて、小さく吐息を履いた。

 この男の生命活動もそろそろ終わりを告げそうね。

 でも不思議と私の心は悲しみや哀れみも感じなかった。


「……だがオレが死んでも帝国は終わらん。

 わ、我が帝国は……永遠に……不滅だ……。

 て、帝国……ば、ばん……ざいっ……」


 それがラングの最後の言葉であった。

 ……良くも悪くも最後まで自分の信念を貫いたわね。

 その辺に関しては、ある種の畏敬の念を感じるわ。

 そしてラングは左眼を見開いたまま、生き途絶えた。


「っ!?」


 そこで私の全身に急に強い力が漲り始めた。

 そうか、ラングを倒した事で、

 また膨大な経験値エクスペリエンスを得たのね。

 

 だがそれと同時に緊張感が急に消え失せて、

 身体の力がどっと抜けた。

 気が付けば私は左膝を地面につけていた。


 こうして私とラングの二度目の戦いは終わった。

 結果としては私は勝利を収められたが、

 その事で喜ぶ気分にはなれなかった。


 そして私は腰帯のポーチから、

 万能薬エリクサーの入った瓶を取り出して、

 栓を抜いて、その中身を一気に飲み干した。


 ……。

 うん、これで体力と魔力も補充されたわ。

 この封印結界を解けば、恐らく敵はラングの弔い合戦を行うでしょう。

 

 そして私は連合軍を勝利に導くために、

 また戦うのだ、それが戦乙女ヴァルキュリアとしての私の役割。

 だから私は感傷に浸る間もなく、

 次なる戦いに向けて意識を集中させた。


次回の更新は2023年8月30日(水)の予定です。


ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、

お気に召したらポチっとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

宜しければこちらの作品も読んでください!

黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
[一言] ラング将軍には勝利しましたが、まだ戦いは続きますね。  リーファはラング将軍を粗暴と思っていますが、戦った相手に敬意を称するのはよいです。  ただ敵と戦って勝利するより、余韻があっていいで…
[一言] 更新お疲れ様です。 ついに!!!(ネタバレ防止の自主規制) 素晴らしい戦いでしたね。 そして、どんどん強くなっていくリーファ。 帝国軍、本当に勝ち目が薄くなっている気がします... そ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ