第百十二話 激闘のリターン・マッチ(後編)
---主人公視点---
さてどうしたものかしら?
お互いに強化系能力が消えた状態。
でも私には『魔力覚醒』が残っている。
『魔力覚醒』と『速射』を重ねがけすれば、
中間距離でも近接距離でもこちらが有利になるわ。
「リーファ殿」
不意に守護聖獣のランディが話掛けてきた。
ランディから話掛けてくるなんて少し珍しいわね。
でもこの場は彼の言葉に耳を傾けみよう。
「『魔力覚醒』と『速射』を発動させたら、
『予測眼』を使ってみるといいぞ」
「……成る程、『予測眼』かあ~。
あれを使えば相手の動きを予測出来るよね?」
「ああ、但し予測出来る時間は三十秒のみ。
そして蓄積時間は三十分。
だからここぞという時に使うべきだ」
「そうね……」
三十秒だけか。
でも確かにある種の反則技だからね。
だからある程度の制限は仕方ないわね。
「――魔力覚醒っ!!」
そこで私は職業能力「魔力覚醒」を発動。
これによって私の魔法能力が倍になった。
「――『速射』っ!!」
私は更に『速射』を発動させた。
この技の効果時間は約五分。
既に五分以上戦っているから、
残り五分間の戦いが勝負の分かれ目になりそうね。
まずは中間距離で魔法攻撃。
そして相手が接近して来たら、『予測眼』を発動。
そこで職業能力『ゾディアック・フォース』を使う。
そこから『掌底打ち』か、『正拳突き』で、
ラングの胸部か、顎を強打すれば相手の動きは止まるでしょう。
その止めに聖王級の剣技「ダブル・デルタスラッシュ』で相手の急所を切り裂く。
これが私が導き出した勝利の方程式。
うん、悪くない狙いと思うわ。
でもラングもまだ奥の手を一つか、二つかは残しているでしょう。
とりあえずこちらは光属性で攻撃しましょう。
この狭い空間で炎属性を使うのは少々危険だわ。
「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! 『スターライト』ッ!!」
私が呪文を唱えるなり、左手に眩く輝いた光の波動が生じた。
そこで私は左手を前方に突き出して、光の波動を放射する。
上級の光属性攻撃魔法。
「ソウル・リンク」や能力の重ね掛けで強化された一撃。
これが決まれば勝負は一気に決まる。
だがそうは簡単にはいかなかった。
「フンッ……甘いわっ! ――リフレクター発動っ!!」
ラングはそう叫びながら、素早く左手で印を結んだ。
すると私が放った光の波動が見えない何かに弾かれた。
そして近くの岩壁に衝突して、
「どおおん」という爆音と共に周りが激しく揺れた。
「魔法を弾いたの? いや弾くというより反射ね」
「舐めるなよ、小娘っ!
この俺を本気にさせた事を後悔させてやる!」
……反射系の防御結界か。
これは厄介だわ、中距離の魔法攻撃じゃ全部反射されるわ。
これだと迂闊に魔法攻撃を仕掛けない方がいいわね。
私のその姿をみて、眼前の男は口の端を持ち上げた。
「大方、中距離で魔法戦を挑むつもりだろう。
だがそれは前回の戦いでも使用した戦術。
この俺に同じ手が何度も通用すると思うなよ!
見せてやろう、このラングの底力を!
ハアアアァァッ!! 『ラスト・バーサク』ッ!!」
「なっ!?」
ラングの闘気が一気に跳ね上がったわ。
恐らく何らしかの技か、能力ね。
「リーファ殿、気をつけろ!
奴の力と敏捷性が一気に跳ね上がった。
だがその代わりに耐久力と魔法防御力は低下したようだ」
と、ランディが叫んだ。
「成る程、一撃必殺の奥義というわけね」
「リーファ殿、来るぞっ!」
「死ねい、戦乙女ッ!!」
ラングは全速力で地を蹴り、突撃してきた。
は、早い。 何という踏み込みの早さ。
どうする? 距離を取る? それとも迎え撃つ?
「リーファ殿、背中の『幻魔の盾』を使うのだ!!」
そうね、ここはランディの言うとおり『幻魔の盾』を使いましょう。
私は左手を背中に伸ばして、『幻魔の盾』を掴んだ。
「これで終わりだっ! ――ファイナル・スパイクッ!!」
ラングはそう技名を叫んで、
上半身をひねって、漆黒の戦斧を斜め上から振り下ろしてきた。
それと同時に私は左手に持った『幻魔の盾』を前へ突き出した。
「ガキンッ!!」
硬質な音が響き、強烈な衝撃が私の左手を襲う。
だがそれと同時に「幻魔の盾」が相手の魔力を吸った。
そのおかげでラングの技の威力もある程度半減出来たけど――
「ううっ……うわぁっ!!」
だがラングの渾身の一撃は、
「幻魔の盾」を持ってしても完全に防げなかった。
気が付けば私は後方に十メーレル(約十メートル)程、吹っ飛んでいた。
そのまま吹き飛ばされ、
何度も地面を転がり身体中を打ち付ける。
だがそれでも両手に持った聖剣と「幻魔の盾」は手放さなかった。
地面を転がった衝撃で私はしばらく身動き出来なかった。
それと同時にラングがこちらに歩み寄って来た。
まずいわ、このままじゃ殺されてしまう。
「そのまま死ねい! ――レイジング・スパイクッ!!」
「くっ!?」
私は地面を転がりながら、
紙一重の差でラングの戦斧から逃げ失せた。
次の瞬間、ラングの戦斧が大きな音を立てるなり、
地面が陥没し、大きな穴がぽっかり開いた。
……あれを喰らっていたら死んでいたわね。
やはりこの男の力はとんでもないわ。
私はそう思いながら、
脚甲の底をしっかりと地につけて起き上がった。
だ、駄目だわ。 まだ軽い目眩がするわ。
「しゃらくさいっ! 今度こそ殺して――」
「――ライトボール」
私は身体がふらつくなか、
「幻魔の盾」を地面に投げ捨てて、
左手を前に出して、初級光属性魔法を放つ。
威力は最小限、その代わり速度は最高速度に設定。
そしてラングの顔に命中させる前に、
放出した光の球を空中で飛散させた。
「な、なっ……め、眼が、眼が眩む!!」
近距離で光を浴びたラングが左手で顔を覆う。
どうやら上手く行ったわね。
この好機を逃す手はないわ。
「――貰ったァ!!」
「ぬおおおおっ……クソッタレッ!!」
「う、うぐっ!?」
私が斬りかかろうとした矢先に、
ラングが左手を前方に突き出した。
それが運悪く私の顎の先端に命中。
結果的にカウンターパンチとなったその一撃を受けて、
私は後ろに数歩よろめいた。
なんて奴なの。 女性を素手で殴ったわ。
……なんて文句は言えないわ。
これは戦いですからね。
でもそのおかげで口の中を切ったわ。
まあ歯が折れなかったのは不幸中の幸いね。
なかなか良いパンチだったわ。
良くも悪くも男女平等のパンチね。
「リーファ殿、大丈夫か!?」
「ランディ、大丈夫よ」
「そうか、ならばこのまま戦えますな?」
私はランディの言葉に無言で頷いた。
そして左手の甲で口元を拭う。
……やはり此奴は油断出来ない相手ね。
だからここからは慎重に戦うわ。
でも乙女を殴った代償は必ず払わせてやるわ。
そして私は両手で聖剣の柄を強く握りしめた。
次回の更新は2023年8月27日(日)の予定です。
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