第百十一話 激闘のリターン・マッチ(中編)
---主人公視点---
「せいっ!」
「そりゃぁぁぁっ!!」
もう何度切り結んだか、覚えてないわ。
時間にすれば三分近く経っているかもしれない。
だが何度も何度も振るわれるその戦斧の勢いが衰える気配はない。
「――はああぁっ!!」
そこで私はステップワークを駆使して、
上下左右に動いて、ラングと一旦距離を置いた。
身体の方はまだ大丈夫……と思う。
でも一撃一撃を受け流すのも大変だわ。
まもとに受けたら腕どころか、身体全体が折れてしまう。
だが常識で考えたら、ラングもそろそろ限界が近い筈。
強化薬を使っての長時間の戦闘は危険とされてるわ。
精神の方が持っても、肉体の方が持たない。
それが一般的な常識である。
だがこの男相手には常識は通用しないのかもしれないわね。
ならばここは接近戦を止めて、魔法戦で挑むべきか。
……という訳にもいかないわね。
下手に距離を取ると、何処か安心した隙に
一気に踏み込まれて、致命傷を受ける危険性があるわ。
少なくとも今はまだ魔法戦をする時間帯じゃない。
ここはあえて正々堂々、真正面で戦う。
そうする事によって、私が勝利した場合に味方は活気づき、
敵は心を折られる事になるでしょう。
とはいえ純粋な力勝負ではこちらが不利ね。
如何せん、相手がタフ過ぎるわ。
ならばこういう時は急所を狙うべきね。
斬撃勝負と思わして、
不意に正拳突きを相手の顎の先端に放つ。
といった人体の弱点を狙い続ければ、
いくらラングといえどいずれには肉体の限界が訪れるでしょう。
とはいえそれをやる事、自体が容易じゃないけど。
……それにそろそろ能力の時間切れが近いわ。
「――ランディッ!!」
私がそう叫ぶと、ポンと音を立ててランディが実体化する。
「リーファ殿、どうした?」
「……私の能力発動時間はどうなっているかしら?」
「……そうだな、『能力覚醒』の残り時間は九十秒を切っているな。
『戦乙女の祝福』も残り120秒程だ」
「……ありがとう」
どうやら残された時間は少ないようね。
ならばここは一気に仕掛ける!
と思った矢先、ラングが猛スピードで突貫して来た。
「……先手必勝だぁっ!
喰らえっ!! ――ブルーティッシュ・クラッシュ!!」
「っ!?」
あの乱打技ね。
ここはあえて相手に手数を出させて、相手を疲労させる。
私は咄嗟にそう判断して、
聖剣を縦横に振るい、ラングの乱打を防御する。
「ふん、ふん、ふん、ふんはぁっ!!」
繰り出される猛乱打。
全て受け止めるのは無理だわ。
だから私は切り払いや受け流しで防ぐが、
ラングの乱打は収るまる気配がない。
「負けん、負けん、負けん、俺は絶対に負けないっ!?」
ラングは自分に暗示を掛けるようにそう叫んだ。
此奴、どういう体力をしているの?
あれだけ疲労していたのに、何処にそんな余力が残ってたの?
いやこれは力というより精神力の強さだわ。
上等よ、ならば私も負けるつもりはないわ。
只の一発も貰うつもりはない。
ラングが隙を見せるまで、防御に徹するわ。
その後も斬撃が何度も何度も繰り返されたけど、
徐々にラングの動きが鈍くなり始めた。
そりゃそうよ、人間だもの。
体力の限界は必ず存在する、ならば――
「――うおおおぉっ!!」
「――遅いわ!」
私はラングの斬撃を左にサイドステップをして回避。
そこから左構え態勢を維持しながら、
左拳でラングの右脇腹を強打する。
「ぬ、ぬおっ!!」
右脇腹には肝臓がある。
そこを強打する肝臓打ちが綺麗に決まり、
ラングは口から胃液と唾液を飛ばして、悶えた。
でもこれで終わりじゃないわ。
「――正拳突きっ!!」
私は左構えから、身体を内側に回して
綺麗な軌道で渾身の正拳突きでラングの顎の先端を強打した。
肝臓打ちからの顎狙い。
私は元々、左利き。 だからその分、威力も充分。
相手の急所を捉えたコンビネーション・ブロウが綺麗に決まる。
すると流石のラングも腰を落として、地面に倒れかけた。
ここで一気に決めてやるわ!
「――イーグル・ストライクッ!!」
私は初級剣技でラングの左眼を狙った。
これが決まればラングは両眼の視界を失う。
少々残酷だけど、これは真剣勝負。
それ故に私も容赦はしない。
「――舐めるなぁっ!!」
ラングは気勢を上げて、
私の切り払いをスウェイ・バックで強引に躱した。
切り払いを躱された私も想わず態勢のバランスを崩した。
……すぐに態勢を立て直さなくちゃ!
「はああぁぁっ! ――サイキック・ウェーブッ!!」
「あっ!?」
そう叫んだ時は遅かった。
咄嗟に放たれた強力な念動波が私の胸部に命中。
一瞬で息が詰まり、念動波の衝撃で私は後方に吹っ飛んだ。
まずい、まずい、まずい。
正気を保たなきゃ、そうでないと殺されてしまうわ。
私は左手で胸部を押さえながら、前方を見据えた。
するとラングは両手に持った漆黒の戦斧を振り上げて――
「――ハイパートマホークッ!!」
こちらに目掛けて戦斧を投擲してきた。
でもこれは前にも一度みた技。
だから私は慌てず回避行動に打って出た。
「――フライッ!」
飛行魔法『フライ』を発動。
それによって私は空中に浮遊して、投擲された戦斧を回避。
「我は汝、汝は我。 女神サーラの加護のもとに……『ハイ・ヒール』!!」
私は左手を自分の胸部に当てながら、回復呪文を唱えた。
半瞬後、左手から眩い光が放たれて、私の身体を優しく包み込んだ。
それによって私の胸部の傷が急速に癒やされていく。
……うん、もう痛みはないわ。
「ちっ、しゃらくさい。 ――念動力」
ラングは念動力を使って、
投擲した漆黒の戦斧を自分の手元に引き寄せた。
それと同時に私は地面に着地する。
ふう、やはりこの男は只者ではないわ。
だけど私は何としてもこの男に勝つ!
そうでないと味方に多くの犠牲が出るわ。
私はそう思いながら、再び聖剣を構えてどっしりと腰を落とす。
するとラングも同様に両手で漆黒の戦斧の柄を握りしめた。
……どうやらこの勝負、まだまだ終わりそうにはないわね。
次回の更新は2023年8月26日(土)の予定です。
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