第九十九話 ドラグーン(後編)
---三人称視点---
飛龍部隊が混乱する中、
竜騎士団の指揮官シュバルツ元帥は冷静に戦況を見据えていた。
「どうやらあのグリフォンに乗る二人組が大暴れしているようだな」
「ええ、恐らくあの少女のどちらかが戦乙女でしょう」
青い飛龍に乗った副官エマーンがそう答える。
「嗚呼、それは間違いないだろう。
だがあの二人は両方とも非常に優れた魔法の使い手だ。
恐らくもう一人の方も上級職かつ高レベルであろう」
「そうですね、基本は戦士系に見えますが、
魔法攻撃の方もかなりのものですね。
連中をこのまま放置しているのは危険です」
「分かってるさ、エマーン。
だからこの俺が奴等の相手をしてやる」
「……元帥自ら相手にするのですか?
ですが相手は二人ですよ?」
エマーンの心配は妥当であった。
だがシュバルツ元帥は余裕ありげな表情で微笑を浮かべた。
「確かに地上戦なら俺も奴等の相手はせぬ。
だが空中戦においては、俺に――竜騎士に分がある」
「しかし万が一の事があります」
「分かっている、だから奴等に一騎打ちを申し込む。
もし奴等がそれに応じれば、お前等はしばらく静観していろ!
但し周囲の敵の動向には目を離すな。
連中が妙な真似をすれば、お前等も遠慮なく参戦しろ!」
「分かりました!」
「その前に奴等の能力値を見てみるか。
我が守護聖獣ドラーガよ。 我の元に顕現せよっ!!」
シュバルツ元帥もそう叫んで、自分の守護聖獣を召喚した。
すると彼の左肩にポンという音を立てて、
守護聖獣である漆黒の小竜のドラーガが現れた。
「ガアオオンッ!」
ドラーガの体長は七十セレチ(約七十センチ)前後。
ドラゴンにしては、かなり小さくて、見た目も可愛らしい。
そしてドラーガは両翼を羽ばたかせて、
シュバルツ元帥の近くを飛んでいる。
「ドラーガ、あの前方の二人組を分析するんだっ!」
「了解、でも二人居るから少し時間がかかるよ?」
「構わん」
「なら行くよ、――分析開始!」
ドラーガの両眼が目映く光る。
数十秒後、分析を終えたドラーガが分析結果を述べた。
「元帥、まずはあの黄緑髪の女エルフの能力値を伝えます。
あの女、勇者のようです。どうりで強い訳です」
「成る程、勇者か、やはり只者ではなかったな」
そしてシュバルツとドラーガの意識が共有化されて、
グレイスの能力値の数値が露わになった。
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名前:グレイス・エストラーダ
種族:エルフ♀
職業:勇者レベル53
能力値
力 :2153/10000
耐久力 :2461/10000
器用さ :1297/10000
敏捷 :2304/10000
知力 :2390/10000
魔力 :2346/10000
攻撃魔力:2445/10000
回復魔力:2422/10000
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「レベル53の勇者か。
こうして数値で見るとその強さが際立つな」
「元帥、あの金髪の女ヒューマンの能力値も伝えます」
「嗚呼、頼む」
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名前:リーファ・フォルナイゼン
種族:ヒューマン♀
職業:戦乙女レベル41
能力値
力 :1215/10000
耐久力 :1960/10000
器用さ :1005/10000
敏捷 :1637/10000
知力 :2210/10000
魔力 :3626/10000
攻撃魔力:2245/10000
回復魔力:2242/10000
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「成る程、やはりあの女が戦乙女か。
この数値を見る限り、その実力は本物のようだ。
ベルナドットやネイラールがやられたのも頷ける話だ。
「元帥、本当にあの二人を相手に戦うの?」
ドラーガの言葉にシュバルツは大きく頷いた。
「嗚呼、ここで奴等を叩けば、我が軍も勢いに乗る。
だからここはあえて奴等に一騎打ちを申し込む」
「了解です。 元帥、頑張ってください」
と、副官のエマーン。
そしてシュバルツ元帥が乗った漆黒の飛龍は、
「ガルウッ!」と一声吠えながらながら、
両翼をはためかせて前へ出た。
そしてシュバルツは手にした漆黒の斧槍を前方に突き出した。
「そこのグリフォン乗りよ。
私は『帝国黒竜騎士団』の総長シュバルツ元帥だ」
やや大仰な口調でそう問うた。
周囲の部下や敵もしばしの間、沈黙していたが、
グリフォンに乗った二人組――リーファ達は、
愛獣グリフォールをやや前方に進ませて――
「ふうん、その元帥が何の用かしら?」
そう一言だけ返すグレイス。
その言葉を聞いたシュバルツ元帥は微笑を浮かべた。
どうやらこいつはプライドの高い奴みたいだ。
あるいは勇者としての矜持を持っているタイプだ。
俺の長年の経験でなんとなく分かる。
と、竜人族の元帥はある種の確信を得た。
「見た所、貴様等はかなり強そうだ。
だが俺も帝国軍の元帥だ。 どうだ?
ここはひとつ一騎打ちで勝負してみないか?」
「……こっちは二人乗りよ?」
「構わん、二人同時に相手にしてくれる」
「ふん、大した自信ね」
グレイスが柳眉を逆立たせた。
「ちょっとした余興さ。 オレも貴様等なら、
一騎打ちしてみる価値はあると思ったまでさ。
だが無理強いはせぬ。 臆したのなら、
無理せず周囲の仲間と共に攻めて来るが良い」
「誰も臆してないわよ! いいわよ。
アンタがどういうつもりか知らないけど、
その余興に付き合ってあげるわよ!」
「ほう、勝負を受けるというのか?」
「くどいわ! リーファさん、守護聖獣の召喚の準備を!
そしてアイツの分析が終えたら、
強化技を発動させて頂戴。
アイツは口だけではないわ、かなりの強敵よ!」
「王女殿下、了解です」
「貴様等の名を聞かせてもらえるか?」
「私はエストラーダ王国の第二王女グレイス・エストラーダよ」
「私はアスカンテレスの戦乙女リーファ・フォルナイゼン」
「シュバルツ……元帥。 この勝負、封印結界は張るのかしら?」
「それは貴様等に任せよう」
「……」
シュバルツの言葉に押し黙るグレイス。
そしてグレイスは『耳錠の魔道具』でリーファに指示を出した。
『リーファさん』
『はい』
『このような空中戦では封印結界を張った方が不利になるわ。
残念ながら空中戦では相手に分があるわ。
だからここは封印結界を張らずに戦うわ』
『私もそうすべきと思います』
『うん、じゃあ守護聖獣を召喚するわよ!
我が守護聖獣レッサンよ。 我の元に顕現せよっ!!』
『我が守護聖獣ランディよ。 我の元に顕現せよっ!!』
二人は同時に守護聖獣を召喚する。
すると二人の守護聖獣のレッサンとランディが「ポン」と音を立てて、
実体化して、彼女等の左肩の上に乗った。
『レッサン、アイツを分析して頂戴!』
「了解、――――分析開始!」
『ランディ、同様に分析をお願い!」
「了解した、分析開始!」
分析をする事、約三十秒。
レッサンとランディが分析結果を述べた。
「グレイスちゃん、彼奴かなり強いよん~」
「リーファ殿、彼の言うとおりだ。 奴はかなり強い!」
分析を終えた守護聖獣達がそう告げる。。
そしてリーファ達と守護聖獣達ルの意識が共有化されて、
シュバルツ元帥の能力値の数値が露わになった。
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名前:アレクシス・シュバルツ
種族:竜人族♂
職業:竜騎士レベル52
能力値
力 :2185/10000
耐久力 :2115/10000
器用さ :1125/10000
敏捷 :2069/10000
知力 :1537/10000
魔力 :1966/10000
攻撃魔力:1875/10000
回復魔力:1454/10000
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『確かに強いわね、流石は帝国の元帥だわ。
でもこちらは二人、だから負けるわけにはいかないわ。
リーファさん、「ソウル・リンク」と強化技を使うわよ!』
「はい、ランディ、行くわよ! 『ソウル・リンク』ッ!!」
「了解、リンク・スタートォッ!!」
「レッサン、私達も行くわよ! 『ソウル・リンク』ッ!!」
「了解だよん、リンク・スタートォッ!!」
リーファ達は『ソウル・リンク』を発動させた。
そしてリーファ達と守護聖獣の魔力が混ざり合い、
リーファ達の能力値と魔力が急激に跳ね上がる。
「『能力覚醒』っ!!」
リーファは間髪入れず職業能力・『能力覚醒』を発動。
これで五分間はリーファの能力値の数値が倍加された。
リーファに続くように、グレイスも職業能力を発動させる。
「『勇者の息吹』っ!!」
グレイスがそう叫ぶなり、
彼女の身体が金色の闘気で覆われた。
これによってグレイスの能力値の数値も倍加。
更に攻撃力と魔法防御力も倍加された。
ちなみに『勇者の息吹』の発動時間は五分。
蓄積時間は十五分であった。
故に最初の五分間の戦いが重要となる。
そしてその勝負を有利にすべく、グレイスが先手を打った。
「――零の鼓動っ!!」
グレイスが戦闘技・『零の鼓動』を発動。
これによってグレイスは約十分間、
無詠唱で魔法を唱える事が可能となった。
対するシュバルツ元帥も自身の能力を強化させる。
「ドラーガ、行くぞ! 『ソウル・リンク』ッ!!」
「了解です、リンク・スタートォッ!!」
シュバルツ元帥も『ソウル・リンク』を発動させた。
そこから間髪入れず、職業能力を重ねがけする。
「――龍の咆吼っ!!」
職業能力『龍の咆吼』は、使用者の力と耐久力と敏捷性。
そして攻撃力と魔法防御力を一時的に倍加させる。
それに加えて五分間の間なら、闘気の消費量が零になる。
つまり能力の発動時間の約五分間、
闘気を無制限に使えるという事だ。
但し蓄積時間は約三十分。
それに故に連続して使用は出来ないが、
今回のような一騎打ちにおいては、
かなり重宝される能力である。
そしてシュバルツは研磨された針のような漆黒の闘気を纏って、
操る手綱を握ったまま、愛龍である漆黒の飛龍ガルアームを前方へと進めた。
「――行くぞ、勇者と戦乙女っ!」
「来るが良い、帝国の元帥シュバルツよ!
この勇者グレイスと戦乙女リーファが相手してくれるわ!」
勇者と戦乙女。
そして帝国の元帥である竜人族のシュバルツ。
かつてない強敵との戦いが、今まさに始まろうとしていた。
次回の更新は2023年7月29日(土)の予定です。
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