6/30〜7/1
珍しく、一貫性のある夢だった。
生臭い培養液の臭い
何処か薄暗く、湿っぽい所に私は居た。...否、居たと云うのは適切で無いだろう。確かに私の視界は、その場所に有り、その景色を見て私は思考している。しかし、私と云う人間としての実体はその場にはいない。云うなれば、自分の意思で自由に行動出来るリモート見学であった。
そして、この場所が**村の運営する地下バイオ研究場である事を私は知っていた。此処では秘密裏に、この国の産業を支える様々なモノが生産されているのだ。
じめっとした(と云っても、私はその場には居ないので、実際に感じた訳では無いのだが。)廊下を進む。青緑色の黒み掛かったタイルの敷き詰められた床には少しの水溜まりが出来ている。どうやら配管の何処かが破損して水洩れしたようだ。妙に濁った透明な水は何だか生臭い臭いがした....気がする。
一分か二分くらい、暗がりの中を進んで行くと、突き当たりに出左を見ると、オートロックのゲノム認識式自動開閉装置が壁に埋め込まれていた。近づくと勝手に開いた。扉は外界と内部を隔絶するために、二重になっている。二枚目の扉をくぐると、先ほど廊下でした、あのなんとも名状しがたい生臭い悪臭に包まれた。
扉の先には、また廊下が続いており、左右に二つずつ、最奥に一つの部屋があるようだ。左右四つの部屋は資料管理室や、被検体観察室、食堂などであると、確信した。最奥は此処での生産物の安置所である。これはここに来る前から理解していた。私は迷うことなく廊下を直進し、最奥の間へ足を踏み入れた。
室内は、妙に明るかった。人工灯独特の目に悪そうな明かりに、ブラックライトを足したような、そんな燈であった。
より強くなた悪臭に耐えつつ部屋中を見渡す。円形の部屋の中央に安置されている、巨大な円柱状の水槽を囲むようにして複数の小型の水槽が羅列されていた。水槽には、大方ヒトに近い形の生命体が浮いている。これらはすべてサンプル個体であることは自明の理だ。
一番外側の、入り口近くの水槽を覗き込む。二本ずつの手足に頭一つ、シルエットで見たならば間違いなくヒトに見えるだろう。しかし、これは普通のヒトとは決定的に違っていた。いたずらに白い肌、そして何よりその頭部には二つの大きな目と小さな呼吸孔以外には何の器官も見受けられない。
これは、肉体労働用ヒトだ。過酷な作業に耐えられるよう最適化されたゲノムをもとに作られた。その為、視覚と触覚(痛覚を除く)以外の五感はカットされている。我が国の軍の七割はコレが賄っているのだ。幾らでも量産が効く為、聴覚などによる危険察知の必要は無いのだ。培養液に浮かぶソレは呼吸孔から気泡を吐いた。
肉体労働ヒトから目線を外し、部屋の中央近くの水槽へ目を向ける。
そこには、ヒトを脊椎のみにひん剥いたら、こうなるであろうな、と云う様な相貌の個体が浮かんで居た。溶液中に浮かんでいる一本の背骨に幾許もの神経が絡みついている。
これは、基盤用ヒトだ。異常なまでに発達させた神経を用いて複雑な機械操作を行う。五感や脳の一部は不要の為発生すらされていない。我が国のスーパーコンピュータの内部基盤はコレが担っている。
更に、中心部に近づこう。部屋中央の程近く、巨大水槽を囲む四つの水槽の一つには身体の割に頭が肥大しているモノが浮かんで居た。0.25頭身とでも云おうか。
これは、計算用ヒトであった。脳の一部を肥大化させ、大量量産させた個体群全てを繋げ、世界電卓を構成している。
...あゝ、もう良いだろう。こんな、気色の悪い連中を見ているだけでも吐き気を催す。
不意に、水泡の音を聞いた。中央の大水槽からであった。そちらに目を向けると、概ねヒトと同じ頭身のモノがある。ただ、その頭は二つに割れており、青桃色の脳がそこから生える様に露出している。
これは夢見のヒト...こいつが夢を観る度にその分世界が生まれ、そして消えてゆく。...あゝそうだ、この世界すらもこいつの観る夢だ。...此処で再度水音がした。よく見ると大水槽の水かさが減っている。培養液は中のヒトの生命維持に必須、これではこいつは死ぬだろう。さすればこの世界も共に消滅...
あはははざまぁみろ、いい気味だ。
....お読み頂き有難う御座います。
...もしかしたら、この現も何かが観てる夢に過ぎないのかもしれませんね。
それではまた、ごゆるりと




