7/14〜7/15
艶やかな記憶であった。
言葉では言い表せない程の鮮烈な景色を見た。
記憶があるのは、路線バスに揺られている所からだ。旅の途中だったかもしれない、はたまた使い途中だった可能性もある。まぁ理由は兎も角して私は**行きの、このバスに乗っていた。
私以外にも、それなりの人数の乗客がいた。見知った顔も、ちらほらと見受けられた。...だらかは思い出せないが...
手元の一眼レフカメラを弄びながら、流れて行く外の景色を眺める。電柱も無く張り巡らされた電線に、路上を走る新幹線...今にして思えば違和感しかない光景であるが、当時は特に疑問を抱く事もなくぼんやりとしていた。
ふと、茶色の10階建てくらいの建物が目に留まった。私はあの建物を知っている。確か、以前函館に旅行に行った時に泊まった宿泊施設だ。...此処は北海道だったのだろうか?......今になってはそれを確かめる術はないけど。
何気なく傍を見てみれば、隣にいた乗客が高校時代の同級生である事に気がついた。女性だったか男性だったかは憶えていない。それとほぼ同時に、バスが停まった。目的地に着いたようだ。
バスから降りる。それなりに広い駐車場であった。私と同級生以外の人影は見えない。目の前にはコンクリート製で様々な曲線を合わせ、不思議な幾何学模様を形造っている建造物があった。此処は何かの展示施設であると云う事を私は前もって知っていた。
入場口へ移動する。俯瞰してみたら「コ」の形をしていた。受付嬢から何やらチケットのようなものを渡された。アルファベットと数字が書いてあった気がするが、その概要は靄の中である。曰くこの紙切れは風呂の場所で使うらしい。
その話を聞いた私はいつの間にか風呂場の脱衣所に立っていた。既にそれ以前のことは意識の外であった。
不意に、背後から私を呼ぶ声がした。振り返り見ると父と弟とが私を待っていた。あゝ、急がないと。風呂場へ向かう。服を脱いだ記憶はない。と云うより、自分の格好を確認する事をしていなかった。
風呂場はよくある大衆浴場のような内装であった。狭い敷地に並べられたシャワーヘッド、石造りの浴槽には(姿は見えないが)大勢の人がいた。半露天風呂らしく、浴室からは日本庭園が見える。彼岸花が綺麗だった。この浴室を一度見たことがある...気がする。
身体を洗い終えたらしい。と云うのもそのシーンはカットされていた。
どうやら、此処の浴槽は指定席製らしい。いつの間にか手に握られていた紙切れに書かれている数字と文字がその位置を示している事を理解する。私の席は異様に高く、水嵩が低かった。致し方なく半ば寝転がるように湯に浸かる。微温い。
ふと、外を見てみれば、庭園から海岸へ変わっていた。実家近くの、毎年正月の朝に、初日の出を父と撮りに行った海岸に類似していた。
波がさざめいている。日が地平線状に近づき、西の空が橙に染まっている。其処に、一際輝く星が一つ。弟があれは何の星かと聞いてきた。明けの明星だ、と答えた。今が夕暮れ時である事を理解した上での答えであった。私にはあの星が明けの明星であると云う確固たる自信があった。根拠はなかったが...。そう話していたら、朱色塗り煌くあの星が何か動きを見せた気がする。
それは、気の所為などでは無かった。事実星の輝きは増して行き、空全体を朱色に染め上げるまでに至った。星は欠け三日月のようになっていた。その光景は、目を見張るものがあった。自然と感嘆の声が漏れていた。父はこれだから写真撮影は辞められないと云っていた。
数刻後、明星が沈んで行った。朱色も消えていた。夕暮れの暗がりが戻ってきた。
波も穏やかになっていた。ホッと息を吐き、湯船に沈む...口から溢れ出す気泡の感覚を感じ、体勢を戻した。塩味の効いた水質であった。
大地に夜の帷が降りてきた。どうやら、そろそろ太陽も沈むらしい。
海と空の境界線が再度色彩を取り戻していた。先程の明星とはまた違う色合い......朱より紅と云うべきであろうか。晃球が地平線の狭間に隠れるにつれ、鮮明な燈は広がり、より一層その輝きを強めた。
視界が紅一色に染まる!
気が付けば、今さっきまで目一杯に煌めいていた、あの生々しい赤は、海の果てにぽつんと佇むのみで、一帯は静かな夜の空気に包まれていた。
微風が頬を撫でる。風が段々と強くなってきていた。地平線上に目を向ければ、丁度、残された紅の所から、巨大な竜巻が生成されていた。それは海水を巻き上げ、急速にその勢力を増していった。海岸線に沿って移動している。
視点を行先に飛ばしてみると、一台のタンカーが巻き込まれ、大破していた。船体に燃え広がる焔は煌々としており、それこそあの日暮れにも劣らぬ美しさがあった。
写真を一枚...
.......お読み頂き有難う御座います。
朝起きて、直ぐに情景を描きつけたので、忘れる事は無いでしょう。
それでは、また、ごゆるりと