3-2
俺、流間一斗は何の変哲も無い普通の――いや、少し頭の悪い子供だった。
大抵部活をサボって家でゲーム三昧。
半ば引き籠りみたいな感じで青春時代を過ごしていたんだ。
「いいや、俺は引き籠りじゃないね、ちゃんと高校生してるからな!」なんて言い訳しながら。
両親は結構な資産家だった。
給料もなかなか良かったらしい。おまけに優しかったし。
俺が引き籠り風の生活をしてても文句一つ言わなかった。
まさに親ガチャ成功って感じの人生だったね。
だからこれがずっと続くんだと思ってた。あの事が起きるまでは。
その両親が交通事故で亡くなったんだ。
余りにも突然の事で何がなんだかわからんかった。
気付けば親戚とかが来てあっという間に葬儀まで終わらせて。
もうね、全てが終わったら俺は一人家でポツンとしてたのよ。
とはいえ、不思議とあんまり実感が無かった。
いい親だったけど何でか悲しく無くて。
それくらいあっという間だったからさ。まるでコマ割り人生みたいな感じで。
悩む暇も無いくらい速く、次が一気にやってきたんだ。
なんかね、詐欺で預金全部盗られちゃったの。
もうね、これこそもう一瞬よ。
そしたらね、親が借金抱えてたの。
資産ある癖になんで借金!?
んでね、家が燃えちゃったの。
ファイヤーを体育座りで眺めるだけだったね。
市や警察に相談したけど何も解決しなかったですわ。
生活保護とか何故か全く適用されなくて。
気付けば公園生活でパン一つ食べるのも一苦労なお子様の誕生です。
同情するなら家をくれ!! 無理? アッハイ。
こんな感じであっという間に人生を転げ落ちた訳だ。
急勾配っていうかもう崖かってくらいの下り坂を。
当然学校なんて続けられる訳も無く、自然と中退。
毎日ただ公園のブランコを占有する日々が続いた。
近所の子供との奪い合いが俺の唯一の生きがいだったんだ。
その頃からですかね、「あ~もういっそトラック転生してぇ」なんて思う様になったのは。
するとね、ブランコ争奪戦に負けたある日にそれを見掛けたんです。
あつらえ向きに、子猫がトラックに轢かれそうになってた所を。
それを見た俺は思いましたね、「これはチャンスだッ!!」って。
だからもう有無を言わさず飛び込みましたわ。
子猫を助ける為に。転生の為ジャナイヨ。
だけど、世の中そう上手くはいかないもんで。
なんと子猫は別のイケメンに助けられてました。
そして俺はと言えば、そのショックで心肺停止。
そのまま死んじゃったというワケ。死に方、ヒドくない?
それから俺は気付くと真白な空間にいたんだ。
んでもって視界には翼の生えた女性がいて。
なんか事務机を挟んで俺を見てたんですよ。ニッコリと微笑みながら。
「ようこそ死後の世界へ~。そしておめでとうございますぅ。貴方は転生対象に選ばれましたぁ」
死んで祝福されるとは思わなかったね。
とはいえ嬉しいと思っていたのは確かだけど。
だからその後はもう「イィヤッホォォォウ!! 異世界転生キタァァァ!!!」なんて叫んでた。
どうせ人生詰んでたし、死んだ事自体にもう未練は無かったんだよね。
「貴方はどうやら生前、想像を絶する不幸に見舞われた様ですねっ。ですので転生に対して多くのサービスを受ける事が出来ます。まず好きな願いを三つ叶えられるのとー、別途転生タイプを選べます。また転生先を選べる権利も与えられます。なお願いは転生後に選ぶ事も可能ですよ~」
しかもこの至れり尽くせり感ときたもんだ。
女神さんが若干事務的にも見えたけどまぁその事はあんまり気にならなかった。
そんなもんなんだろうって。
そもそも「死後の世界にもパソコンあるんだな」とか思ってたかな。
何にせよ、俺の選択は決まってた。
実は転生したらどうしたいかなんてずっと考えてたからさ。
不幸を忘れられるくらいの華やかな人生にしてやるってね。
だから俺はこう選んだんだ。
まず、転生タイプは今の記憶を維持したまま。
でも肉体はイケメン細マッチョに修正で。
願いの一つは最強の装備一式を。
二つ目はスマートフォンを所持。
三つ目の願いは一先ず保留する事に。
そして世界は俺の知識で無双出来るくらいに平均知能を低くして欲しい、と願ったんだ。
「わかりましたぁ。ん~該当世界は二つありますね。既に転生者が幾らか手を加えている世界と、最近造られたばかりの世界ですぅ。どちらを選びますかぁ?」
この質問に対しては、俺はこう答えた。「後者でお願いします」と。
そう、先駆者が手を出した中古の世界なんて興味は無い。
これから創るのは俺の、俺だけの、俺による世界なのだから。
それに向こうでかちあったら争いになるかもしれんしな。面倒は避けたい。
「わかりましたぁ~。では新しい人生をお楽しみくださーい」
そんな問答を終え、俺は遂に新たな世界へと飛び出した。
気分はまさしく勇者。
最強装備を纏ったイケメンヒーロー俺様がこれから世界を席巻するのだと。
一体どんなシチュエーションが待っているのだろうか。
どんな出会いが待っているのだろうか。
そんな感じで楽しみでしょうがなかったんだ。
そう、その世界の姿を見るその時までは。
そんな世界はスゥーーーパァーーーフラァーーーット!!!!!
何にも無かったんだよ。
水も草木も生き物も何も。
丘陵も谷も砂漠も何もかも。
一面から地平線までずっっっっっと黒い土なの。
新しいにも程があるんじゃない?
普通何かしらあるでしょ。スタートアップ用に。
せめてボーナス箱くらい用意して欲しかったんだけど?
でも何も無い訳よ。
どうしろっていうんだよこれ。
最強の装備とか全然要らねぇじゃんか!! スマホも電池切れだし!!!
そんな訳で俺は女神を呼んだ。
『はい、如何なさいましたか?』
そしたらちゃんと空に女神の画像が出てきて。
なので俺は訴えました。これはどういう事なんだよって。
『一斗様の知識はほぼ無いに等しいので、無双するにはこのレベルの世界が丁度良いというデータが算出されたのです~。なお世界は変更出来ませぇん』
でもさりげなく無能を馬鹿にされたんだけど。ヒドくない?
おまけに世界の変更は不可。
俺はどうしてもここで生きて行かなければならないらしい。
じゃあどうする? 食べ物も飲み物も無いのに。
何より美少女ヒロインもいないのに。
そこで俺は悩んだ。
あと一つだけ願いが残っていたから。
これが後に続く鍵になるのだと。
何も無い世界でただ生きる事だけを望むか。
それとも束の間の美少女とのラブラブを楽しむか。
究極の二択だった。
それ以外の選択肢は無かったんだ。
バカだったから。
それで俺は望んだ――美少女とのラブラブを。
「俺に相応しい、従順で尽くしてくれる美少女をくれェ!!」と。
その時の女神はなんか俺の事を蔑んだ目で見下してたけど。
『わ、わかりましたぁ。では早速手配しますね。ではどうぞー』
その願いに応え、女神は早速用意してくれたよ。
俺に相応しいと言える子を。これからの俺の伴侶となる女性を。
きっと彼女となら短い人生でもきっと幸せにしてくれるだろう、そんな想いを抱く中で。
『どうぞー、メスチンパンジーの美少女エリーちゃんです』
だからどうしてそうなったァァァ!!!!!
どう解釈したら人間に相応しい美少女がチンパンジーになるんだァァァ!!!!!
本当にチンパンジーが現れたんだ。しっかりピンクのドレスまで身に纏って。
しかも出会いがしらにウンコ投げ付けてきやがる!!
何なんだコイツは、どこが従順なんだよ!?
だからまた俺は訴えた。
これは話が違うだろうと。
そしたらね、女神が突然、豹変したんだわ。
『は? 今貴方は自分に相応しい美少女って言いましたよね? だから選んだんですけど? 人間って言ってないですよね? だから全カテゴリから選んで、それでやっと一件当たったんですけど?』
ちょ、ちょま……
『世界だってそうですよね? ろくに訊きもしないで全部選んだじゃないですか。それに〝くれ〟ってなんなんです? 女性はモノじゃないんですケド。こっちは仕事で選んでるからいいですが、相手には都合あるんで尊重してもいいと思うんですが?』
は、はい……
『とりあえず願いは叶えましたー。もういいですね、さようなら。もう呼ばないでください』
とまぁこんな感じで。
これで俺は自分の思慮浅さを思い知りました。
言われた通りとことんバカだったんだなって。
転生が決まって浮かれてて、周りが見えてなかったんだろうね。
考えても見ればそうだよな。
だって某豚だって「ギャルのパンティお~くれ~」って言ったもん。
おくれってちゃんとお願いしてたんだよ。
でも俺は欲ばかり押し出して要求してたんだ。
相手の事なんて考えずにさ。
これじゃエリーちゃんがウンコ投げて来るのも当然だなぁなんて。
そりゃ彼女だって猿生あっただろうし、従順でもキレるだろうよ。
それに、世界の境遇もただの俺の思い過ごしだったらしい。
なんかこの世界、一日で地球の一〇年分くらい年月が経つらしくて。
つまり、一日寝るだけで種が木になるレベルなんですわ。
じゃあその種はどこからって言うと――
なんとエリーちゃんが自分の願いでもらってたっていう。
なんだかんだでエリーちゃんすげえ賢いのな。
一日一〇年の世界が彼女の采配だけでどんどん成長していってね。
今では王国まで出来てるの。
んでエリーちゃんは半ば神扱いになってる。
俺はその従者? 奴隷? みたいな。
彼女自身はチンパンジーのままなんだけどね。
そんな訳で今は猿の異世界が出来上がりました。
今ではそのお陰で何とか出来てます。
でも、俺はきっとこれからもずっとエリーちゃんの椅子になり続ける事でしょう。
ま、バカな俺にはお似合いかなってもう諦めましたがね。