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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

狐と狸と即席麺

作者: 赤魂緋鯉

「うう……。ただいまー……」

「ただいまお帰りー」

「うへえ、寒いー……」

「今エアコンとこたつつけるから我慢してー」


 それぞれ違う駅から疲弊した状態で乗車した、2人の若い女性会社員が彼女達同様にくたびれた様子の、アパート2階の四畳半の一室へと帰ってきた。


「帰りが合うとはねえ……」

「滅びろざんぎょー……」


 2人とも、仕事がタイミングを合わせた様に押し寄せ、もう完全に気力が限界ギリギリになっていた。


「さてと……」

「やっと出せる……」


 着流しとドテラの部屋着に着替えた彼女達は、そう言うと共に身体が一瞬煙に包まれる。


 それが晴れると、一方には焦げ茶っぽい狸の耳と尻尾が、もう一方にはやや金色がかった茶色をした狐のそれらが生えていた。


 ふいー、と締まりの無い顔で、化け狐のくれないがポテッと横になり、化け狸のりよくはこたつに突っ伏した。


「ちょっとー……。晩ご飯当番、紅でしょ?」

「無理ー……。もう紅ちゃんは電池切れでーす……。代打緑さんでお願い致す」

「って言われても、私も同じなんだけど……」

「でもそもそも冷蔵庫空なんだよね……」

「あー、そうだった……。全ケモでネズミでも捕まえに行く?」

「なんかそれすると負けたみたいじゃん……」

「というかそれ以前に、その余力がないからダメだー……」


 同じ方向からこたつに入ってグダついている2人は、その体勢からどちらも動く気配がなかった。


「ねー緑ー……」

「んー?」

「里とここと、どっちが良いと思ってる?」


 ふいに首を動かし、頬を天板に押しつけて一部平らにして自分を見ている緑の方を見ながら、そう言った紅が悩んでいる様子で苦々しそうに眉を寄せる。


「ここ」

「即答」

「いやだってさぁ、水場取り合って戦わなくて良いだけでも相当楽じゃん?」

「ふんふん」

「それにさ、先祖代々のなんかとかで、狸と狐が仲良くする事も出来ないんだよ」

「まあそうだね……。言われて見れば私もこっちの方が良いや」


 そう言いつつも紅が探るように伸ばした手に、緑が尻尾を揺らしながら指を絡ませて握ると、紅の尻尾も嬉しそうにモソモソ動いた。


「というか、そんな事よりご飯の話だよー……」

「うー。お弁当買いに行く……?」

「だるいし、もう寒いところ行きたくないー……」

「じゃあミカン食べて終わりでいいや……」

「それはちょっと……」


 2人同時にお腹が鳴ると尻尾が再びへにゃっと動かなくなり、若干のシリアスな空気がまたグダグダに戻った。


「あー、なんかそういえば、うどんとそばの……あの、なんだっけ?」

「お湯入れて待ったらアレできるやつだね」

「それ」

「あるっけ?」

「この前なんかで貰ったヤツが2つあったと思う」

「あの箪笥たんすの前に転がってる緑と赤の丼みたいなヤツ?」

「そうそう」

「じゃあ、あれで良いじゃん。今日」

「うーん……。まあいいかー。たまには手間抜きだ」

「紅ちゃん、緑にお湯注いで欲しいなぁ」

「そのくらい自分でやりなさーい……」

「ええー……。分かったよぅ……」

「だる……」

「さむ……」


 そうやって腹は決まり、緑と紅は即席麺の調理を開始しようとするものの、どっちもこたつから出る速度がカタツムリぐらいの超スローペースだった。


 やっとこさお湯をカップに注いで数分後、2人揃って温度に苦戦しながらも麺を食べ、残った出汁まで全て飲み干して同時に息を吐いた。


「暖かいねー……」

「そうだねぇ」


 ゆるふわな様子そう言って同居人の肩に頭を乗せる紅も、何も言わずに頭を乗せられている緑も、幸せそうに穏やかな表情で微笑んでいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 即席麺。 狸と狐。 赤と緑。 あれですね。 面白かったです。
2021/12/08 23:10 退会済み
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