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カーターのお友達

5 カーターのお友達

我が国の第一王子アーサー、第二王子フェデリック、我がノクターン公爵家以外のニ家の公爵家の長男ルイスとルチアードは、奇しくも私とカーターと年齢がとても近かった。

フェデリック王子、私、カーター、ルイスが同じ歳。ルチアードは1つ上、アーサー王子は2つ上。


カーターに友達を作ってあげなきゃ!と最初意気込んでいた私だったが、この4人とは家格と年が近いこともあり、皆仲良くなっていった。まあ、カーターと違い、私の場合は友人というより幼馴染、といった感覚だ。


5人の男の子達は全員集まることはそうそうないが、数人ずつで遊んだり、一緒に勉強をするような仲だった。

カーターの頭が飛び抜けて良いこともあり、カーターの部屋で一緒に勉強をするようになり、気付けば誰かしらが我がノクターン家にいるような状態になっていた。


私も、カーターのお披露目の夜会の際から彼等とは面識があった。カーターに勉強を教えてもらうため彼等と一緒に勉強会に参加していたので、皆と自然と仲良くなった。


カーターは最初、私が勉強会に参加することを心良く思わなかったようで、一緒に勉強を教えて欲しいと言ったら苦虫を噛み潰したような顔をして、

「姉上に勉強は必要ないのでは?」

なんて、きついことを言われた。


確かに私はカーターよりも頭が悪いし、やるだけ無駄かもしれないし、手間をかけることになるから嫌がられるのも仕方ないと思ったら、悔しくてボロボロ涙が溢れた。


無様に泣く姉の姿を見て諦めて勉強会への参加を許してもらえた。

汚いものでも触るような顔をして涙を拭ってもらったけど、考えたらあの時には既に嫌われていたのかな、と悲しくなる。


カーターに嫌われていようと、お姉ちゃんはお姉ちゃんとして、カーターのためになるように頑張っているんだけど、空回りしている気がする。

お茶会のことも、男性では触れられない世界の中で、ノクターン家のためになるよう、貴族の淑女の方々に茶会での話題を提供しつつ情報を拾ったり、味方に引き込んだりと、頑張っているつもりなんだけど。


「お姉ちゃん疲れちゃったよ、、、」




******


「ラディ、辛気臭い顔してるな。」

私と似た焦茶の髪の大男ルイスが近づいてくる。


今日は珍しくカーターの友人4人が全員集まれる日で、ボードゲームでもやるか、ということになったそうだ。

全員に会うのは久し振りなので私も参加させてもらうことになった。


昔のことを思い出しながら、皆が集まるのを応接室で1人待っているとルイスが一番乗りで入ってきて私に声をかけた。


「15にもなると色々と考えるのよ。」

意味深な感じで言ったが、考えているのは弟のことである。


「へえ?ラディが考え事をしているなんて、明日は雪でも降るんじゃないか?」

「夏に雪なんか降るはずないでしょ」

「違いない。」

と言って笑うルイス。

ルイスは年が同じと言うこともあり、1番気楽な仲だ。体は大きいけれど笑う顔が人懐っこい大型犬、といった印象だ。


玄関まで迎えにいっていたカーターがアーサー王子とフェデリック王子を連れて応接室に入ってくる。

友人とはいえ、この2人の王族には敬意を払っている。

「お久しぶりです、アーサー様フェデリック様」

「久しいな、ラディアナ。また美しくなったのではないか?」

「ご冗談を。数ヶ月で変わりませんわ。」

貴族とは、息を吐くようにお世辞を吐く人種である。まあそう教育されているからだが。


私なんかよりこの兄弟の方がよほど綺麗だ。2人ともサラサラの黒髪碧眼でアーサー王子は髪を長く伸ばしておろしている。フェデリック王子は短髪だが、耳にかかる程度には長い。アーサー王子は17歳で1番年上なので、皆んなのお兄ちゃん的なポジションだ。キリリとした眼差しは指導者の風格が備わっている。フェデリック王子は物腰も性格も穏やかで、一緒にいるとホッとするような方だ。


「お待たせしました。」

最後にルチアードが入ってくる。

ルチアードはウェーブのかかった銀色の長い髪を左の首元でくくり、胸に垂らしている。丸メガネを掛けているので、何処かの研究者のように見える。ルチアードは16歳で王城の法務部で働き出している。


ルチアードは私の隣に座るとこそっと話しかけてくる。

「リディ、前の課題わかった?カーターが作る問題難しいよね。4問目がさっぱりわからなくて。」

「大丈夫、私はもっと解けていないから。」


私達の勉強会ではカーターが私達に課題を与えるのだけれど、そろそろ全くついていけなくなってきた。カーターが作成している課題はルチアードとフェデリック様の頭の良さに合わせた問題にしているのだろう。カーターだけでなく、幼馴染の彼等にも追いつけなくなっていると感じ、情けなくなる。


「大丈夫だ、ラディ!俺なんか1つもわからん!」

ルイスが明るく言い放つが、スアレス公爵家の跡取りがそれで良いのだろうか。ルイスは武に才能を全振りしているような男だから座学に重きを置いていないのはわかるが、公爵家の跡取り息子なのだからもっと勉強した方が良いのでは?と呆れる。


「ルイス、、、奥さんは頭の良い方にした方が良いわね。」

そう言った途端、ルイスだけでなく全員の空気が固まる。


あれ?なんか地雷を踏んだ?


ルイスが気安い性格とはいえ、多感なお年頃に結婚関連の話はあまりにも失礼だったかしら。


「リディなら頭がいいから、大歓迎だぞ。」

「私じゃ無理よ。今回の課題も全然解けなかったし。あ、全員集まったからボードゲームしましょうよ。」


何が地雷になるかわからないので話題を切り替える。もしかするとルイスはどなたかに振られた直後だったのかもしれないな、と思う。

男の子達はそれを知っているから固まってしまったのかもしれない。恋愛ネタと婚約者ネタについては何が地雷になるかわからないので触れない方が良さそうだ。





今日やるボードゲームはサイコロで手持ちの駒を進め、止まった場所により、手持ち資金が増えたり減ったりするようなゲームで、全員ゴールした後に手持ち資金の多さで勝ち負けが決まるという類のものだ。

一般的なボードゲームは2人でやるものが多いのだが、今日は6人いるので、子供がやるようなゲームになったのだ。


ただ、やってみると白熱するもので、皆負けず嫌いなのが顔に出ている。たかがゲームなのに真剣になる5人が面白い。一回サイコロを振るごとに皆一喜一憂している。

カーターが、大金を失うマスに止まった時は、その絶望感溢れる顔が可笑しくてつい笑ってしまい、凄い目付きで睨まれたので大人しくしておく。


結果はアーサー王子が一位だった。

幸運の女神にでも愛されているのか、ことごとく資金が増えるマスばかり引き当てるのだ。

持っている人は運まで持っているんだなあ、と感心し、アーサー王子がこの国を引っ張ってくれたら安心だな、と、たかがボードゲームでこの国の未来を占ったようなことを考えてしまう。

私が1人でうんうん頷いていると、カーターからの冷たい視線を感じる。

お姉ちゃんのことが嫌いでも、和やかな会なんだから水を挿さないでね、と心の中で願う。



ボードゲームが終わり、皆で晩餐を取ることになった。ノクターン家の料理人は腕が良いのでいつも美味しい料理を作ってくれる。


今日は将来の重鎮が揃っているので、いつもより腕を振るってくれているはずだ。


楽しみだなあとにこにこしながら席に着くと、隣に座ったカーターから他の皆に聞こえないよう小声でまた小言が入る。


「姉上、お腹が空いて待ちきれない子供みたいではしたないですよ。」


ムッとして何か言い返そうかと思ったが、今日は楽しい会なのだ。カーターと口喧嘩して場の雰囲気を悪くしたくはない。


「そうやって無言でいれば多少は淑女らしく見えますよ。」

と微笑まれた。


おかしい、今日微笑まれたいと考えてはいたが、これは違う。小さい子に良くできました、といって微笑む類のものだ。あからさまに馬鹿にされていることがわかる。


お姉ちゃんは大人だからカーターの侮蔑を無視して、普通にみんなと接することができるのだ。

カーターの方は見ないようにしておこう、とぷいっと顔を背ける。



食前酒の代わりに葡萄水が配られる。この国では16才が成人なのでアーサー王子とルチアードはもう飲酒しても良いのだけれど、このメンバーで集まる時はお酒は飲まないようにしてくれている。皆が16歳にったら祝いで飲もう、ということになっている。


「リディアナ、カーター、ノクターン家の皆に場の提供と食事を用意してくれたことに感謝する。私達の友情に乾杯。」

『乾杯』

アーサー王子の乾杯の挨拶に合わせ、皆でグラスを掲げる。

男の子同士の友情っていいなあ。


乾杯の後、料理が運ばれてくる。


前菜はノクターン家菜園の野菜と冷製のハム。ハムと共に、まだ5センチくらいの小さな野菜と花びらが白いお皿に飾られている。見た目から美しい。やはり今日は料理人も気合を入れているのだろう、いつも以上に芸術的な一皿だ。

ハムもしっかりハーブをきかせて仕込んだようで味わい深い。皆で料理を堪能し、前菜が終わると話がはじまる。


「そういえば、カーターは今年文官の試験の年だろう?ルイスとラディアナは受けるのか?」

とアーサー王子が聞いてくる。


その問いにルイスが答える。

「俺は武官の方の試験を受けますよ。実技はいいんですが、筆記試験の方が心配です。」


文官、武官の試験は地方の役所職員や衛兵になるためには必要のないものだ。

地方でも要職に就きたければ必要だし、中央で働きたければ必須の試験になる。王族の2人は受ける必要はないが、基本的に貴族の子息は受けることになる。女性の場合は受けるかどうかは家により様々で、私のような高位貴族の女性は基本的に働かないので受けないのが普通だ。


私もアーサー様の問いに答える。

「実は、文官の試験を受けるつもりです、、、」


「は?姉上、聞いていませんよ!」


「言ってないもの。お父様には言ってあるわ。」

そんなに怒ることかしら?カーターはわなわな震えながらこちらを睨んでいる。皆も驚いてこちらを見ている。


フェデリック王子が皆が思っているだろうことを恐る恐るきいてくる。

「ラディアナは働くつもりなの?公爵令嬢なのに?」


「はい。公爵家はカーターが継いだ方が良いと思っているし、私は働きにでも出ようかなと。」


皆さらに驚いた顔でこちらを見ている。まあ、公爵令嬢が働くなんて、非常識にも程があるわよね。


しばらく皆固まっていたけれど、ルチアード様が意を決して、と言った面持ちで口を開く。


「ラディ、普通の公爵令嬢だと、結婚するための花嫁修行とかする年だと思うんだけど。」


「結婚についてはお相手はお父様に一任しているけど、この年で婚約話の1つもないし。非現実な話を考えるより、働いて家を出る方が現実的だと思って。」

実際、私には立場的に多くの婚約打診が来ているはずなのだ。私も公爵家の娘として、お父様が良いと思う方へ嫁ぐ心構えはできている。

だが、お父様からは全く婚約の話が出ない。

良い人がいないのか、私自身の人気がなさすぎるのか。怖くて聞けない。


なんだろう、この皆からの視線。可哀想な子だと思われているのだろうな。居た堪れない。


「私のことはいいから!あ、そうだ、ルイスは武官の試験に受かったらどの部署に行きたいの?」


「あ、ああそりゃあもちろん騎士団だよ。」


「そうよね!スアレス家といえば騎士団よね。将来はアーサー様やフェデリック様の近衛兵になるかもね。」


「いや、近衛兵はかなり実績を積まないとなれないからな。」


「大丈夫よ!ルイスならきっとなれるわ。」


よし、うまく話題を逸らした、と思っていると冷えた口調のカーターから、

「で、姉上はどの部署を希望しているんですか?」

と話を引き戻された。


隠すことではないので正直に答える。

「・・・・財務部よ。」


はあーっと長いため息をつかれる。

「財務部に勤務するならそっち方面に課題見直さないといけないじゃないですか、なんでもっと早く言ってくれないのでしょうか。」


「あ、でも文官試験の内容はずっと教えてくれていたから、試験は受かるはずよ。第一希望の部署に行けるかわからないし勉強内容見直さなくても良いのではないかしら。」


さらに深いため息をついてから、

「公爵家だったら部署希望は絶対通るんですよ。よっぽど適性がないなら無理だけど、僕が勉強を教えてきて希望部署に行けないってことはあり得ません。」

とカーターがイライラしながら告げる。

目が怖いんだってば。


「カーター、落ち着け。リディが脅えているぞ。」

アーサー様が救いの手を差し伸べてくれた。


「すみません、アーサー様。姉上があまりに衝撃的なことを言い出したので驚いてしまい、、、」


「良い、皆驚いたから気持ちはわかる。」

そんなに変なこと言ったかしら?皆驚きすぎではないかしら。


「でも、リディが王城で働くなら会いやすくなるね。」

とにっこりとフェデリック王子が笑ってくれる。

癒しだなあ。


「はい!皆王城勤めになるなら皆様とも顔を合わせやすくなりますね!」

と笑顔で返す。


アーサー王子とフェデリック王子は王子としての国政に関する執務、ルチアードは既に王城内の法務部で勤務中。ルイスが入る予定の騎士団は王城に隣接している練習場にいるし、たまに王城内での警備もある。

城内で出会うこともありそうだ。


「あれ、そういえばカーターはどの部署にいくの?」


少し沈黙した後、

「・・・・財務部。」

と、暴露した。


それでさっきため息吐いていたのね。

家だけじゃなくて仕事まで一緒になるのが嫌だったのか、と察する。


「ごめん、あまり職場では話しかけないようにするね。」


「別にいいですよ。姉上だけだと仕事溜まって周りに迷惑かけるだろうし。」

ぐぐっ。否定できない。


「お世話になります。」


謙虚にお願いしておこう。

カーターはぷいっとむこうをむいてしまう。

申し訳ない。


場が盛り上がってしまい、料理を運ぶタイミングを見計らっていたであろうメイド達が今だ!とばかりにスープを運んでくる。


ノクターン家の領地で採れる特産品の豆のポタージュ。

「この豆美味しいのよねぇ。この時期にしか採れないから、皆が集まったのが今日でよかったわ。」


「来月はうちの領地でとれるとうもろこしが旬だから、リディも食べにくるか?」

とルイスが聞いてくれる。スアレス公爵家には足を踏み入れたことがない。


「いいの?また来月も皆と会えるのね。楽しみだわ。」


「皆も?!……あ、ああ。皆とは日程がうまく合えばだけどな。」

何気に皆忙しいから日程が合うかわからない。


「ルイス、希望日を早急に知らせるように。私もスアレス家特産のとうもろこしを食べてみたい。」

とアーサー王子が微笑んで言うと、皆とうもろこしを食べたがって参加表明をした。

皆とうもろこしが大好きなんだな、小さい子みたいだなあ。と微笑ましく感じる。




その後、魚料理、肉料理と続き、デザートの後お茶を飲む。

「ノクターン家の料理人は素晴らしいな、堪能させてもらった。」

「ありがとうございます、アーサー様。料理人に申し伝えますわ。皆とても喜ぶと思います。」

良かった。今日は料理人の皆も張り切っていたからお客様が褒めていたと伝えたらとても嬉しいだろう。


お腹がいっぱいになると急激に眠気が襲ってくる。

ちゃんと皆様を見送ってからじゃないと、と思いながら半目になってくるのがわかる。


「姉上、もう眠いのでしょう?退席されたら良いのでは?」


「そんな失礼なことできないわ!」


「いや、十分もてなしてもらった。少し他の皆とも話がしたいので席を外してもらえると助かる。」

気を使ってくださったのか、本当に男同士だけの話がしたいのか定かではないが、アーサー王子に言われたら引き下がる他ない。


「大変失礼致しました。久しぶりに皆様とお会いできて楽しかったですわ。お先に退席させていただく無礼をお許しくださいませ。お休みなさいませ。」


と言って退室する。


お休みなさい、は違ったかな、と思いながら自室にむかう。料理人が張り切りすぎて今日の夕食は量が多かった。料理人は私の食べる量は把握しているはずだけれども、男子4人に合わせたのだろう。いつもより多い料理を頑張って食べたせいでコルセットを早く外したいし、早く寝たい。


もしかすると私がいなくなったら恋話が始まるのかな、と思いつつ、部屋に返って爆睡したのだった。




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