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15歳になりました

4 15歳になりました

今年私と弟は15歳になった。

弟が家に来てからもう7年。

天使のようだった弟は堕天使となった。


竹のように勢いよく伸びる身長(1年で追い越された)。

ぱちくりとしていた瞳は、未だに普通の人より大きいものの、目つきは鋭くなった。御令嬢からはあの目に睨まれたい、と変な方向で人気があるそうだ。変わった人もいるものだ。

相変わらずふわふわとしたアッシュゴールドの髪と冷たい青い瞳を持つ彼は社交会では氷の貴公子(笑笑)呼ばわりされてもてはやされている。天使のような見た目だったのは本当に短い間だけで、数年も経たないうちに可愛らしさの欠片もない見た目になってしまった。



そして性格だ。


最初は何かと姉を立ててくれていたはずなのに、どんどん突っ込みが鋭くなり、今では毒舌キャラと言っても過言ではない。

お父様に対する態度が変わらないところを見ると、私にだけ特に厳しいのは姉に甘えているのだと思えなくもない。

むしろそう思って心の平穏を保っている。


今年カーターは文官資格試験を受ける予定だが、父も私も全く心配していない。8歳で過去問題を解けていたのだ。

10歳の時には全ての家庭教師が白旗を上げ、カーターはまた図書館通いで自分で勉強するようになった。王都の国立図書館に連れて行ってあげた際、カーターが当家の養子になる前に通っていた地方の国立図書館より、蔵書数が圧倒的に多いと、珍しく興奮して浮かれていたのを覚えている。

図書館に興奮するとは変な子だ。


私はといえば、社交会デビュー後、かつての宣言通りお茶会を開催しまくり、女性のネットワークを着実に構築している。

政治的な面よりも色恋の話が好まれるお茶会では、私の弟であるカーターの話題で盛り上がることが多い。カーターを含め、アーサー王子、フェデリック王子、公爵家の2人の跡継ぎ貴族を含めた5人が、専ら令嬢たちの話題の花だと言って良い。

家格の高いお年頃な5名はまだ婚約者もいないし、皆見目麗しい。御令嬢方には気になる存在なのだろう。

私はその5人全員幼馴染のようなものであり、顔を合わす機会が多いため彼等の情報を多数所持している。カーターに至っては姉という立場を利用して知り得た情報が圧倒的に多いため、その情報を流すのはお茶会ホストの義務と言ってもよいだろう。




*****


ノックの音の後、両手いっぱいに包みを抱えたカーターが私の部屋に入ってくる。

なんだが苛立っている様子でテーブルの上に包みを乱暴におろす。


「姉上」

「あら、何かしら。」

「本日面識のない御令嬢方から20個ほどチョコレートが届けられました。」

「あら、良かったじゃない。貴方チョコレートお好きでしょう?」

恨みがましい目で見られても。昨日の茶会でちらっとお茶会でカーターの好きな食べ物を口に出しただけなのに。


「姉上がお茶会で頑張ってくださっているのはわかっていますが、これで何度目でしょうか?僕の個人情報を流すのは良い加減にしてもらえますかね?」

「私が口にするのは害のないものだけでしてよ。良いではありませんか。チョコレートは美味しいですし。」

と、積まれたチョコレートの包みを開けて一つ頬張る。


「御令嬢が皆様前髪を切り揃えたり、同じ服を着たり、同じ贈り物をされる時は姉上の仕業だとわかりやすくて良いですね。」

「まあ、そんな事が?」

さも、今初めて知ったように驚いておく。カーターはわかって言っているんだろうけど。

「アーサー様やフェデリック様の情報も流していますよね?」

あら、目つきが怖いわカーター。

「公爵家のルイスとルチアードからも僕と似たような話を聞いたのですが?」

思い当たる事が多過ぎてカーターから目を逸らす。


「確かに姉上が流す情報はくだらない内容ですけれどね。でもその度に御令嬢からの圧が酷くなるんですよ?」

「5人とも、さっさと婚約者を決めればよろしいのに。国の大事な方々が相手を決めないから御令嬢に狙われるのですわ。」

深くため息をつくカーター。


ため息なんかついても、私は御令嬢に情報を流すことを止める気はない。情報を流して場の中心になるのはとても大切なことなのだ。

カーターもだけど、他の4人もお立場からするととっくに婚約者が決まっていてもおかしくない年齢なのに、未だ婚約者がいない。


もう一つチョコレートを摘みながら問いかける。

「そういえば皆様色恋の話さえありませんわね。聞こえてくるのはどれだけ素晴らしい方々か、という御令嬢の声だけ。カーターはなにか聞いている?男の子だけの時に話していないかしら。」

「姉上に言うはずありません。」

ギロリと睨まれる。普通の人なら縮こまってしまいそうな一睨みだが、お姉ちゃんはずっとカーターと一緒に過ごしてきたから怖くないもんね。


「言うはずないってことは何か知っているってことよね?ちょっとだけ教えてくれないかしら。」


「友人を売るような真似はできませんので、姉上が知りたいならぜひ直接本人達にきいてください。というか、姉上は彼等に何も聞いた事がないのですか?」

仲間はずれ良くない。絶対。

やっぱりカーターは聞いているのね。

皆水臭いわね。

大抵の貴族のご令嬢なら仲を取り持ってあげるのに。


「恋愛の話は聞いた事がないわね。あまり気にしたこともなかったわ。女性には話しにくいんじゃないかしら?」

「姉上に話したら次の日には社交会中に知れ渡りそうだからじゃないですかね?」

とニヤリと口端を上げるカーター。


「まあ。可愛くない。だけれど、カーターの言うことも否定できないわね。彼らから聞くのは諦めるわ。」

なるほどね、彼らが私に恋愛事情を話してくれないのは話されることを恐れているからなのね。

彼等の個人的な恋心なんて話すつもりなんてないけれど、絶対お茶会で盛り上がる話題だから少し、ほんの少し話すかもしれないわね。


「それは良かった。姉上が彼等に迷惑をかけたら僕が姉上の尻拭いをさせられますので。」


「何もしてくれなくても結構でしてよ。叱りたいなら直接どうぞとお伝えくださいませ。」


「そうもいかないんですがね。姉上にはお分かりにならないと思いますが、友人達は淑女に対して厳しいことを言わないようマナー教育を受けていますので。あ、淑女らしくない姉上には関係ないかもしれませんが。」

なんと子憎たらしいことを言うのか!


「姉上、眉間に皺がいっております。そんな皺があるといつまで経っても嫁の貰い手が現れませんよ?」

「お話は終わりね。退室してくれないかしら?」


手のひらをひらひらさせて退室を促す。

カーターが出ていった扉が閉まった後、ソファに置いてあるクッションを扉に投げつける。貧弱な力で投げたクッションは扉の下の方に軽く当たりぱふんと小さな音を立てる。


はあっとため息をついてソファに横たわる。

いつもこうだ。カーターに何かしら小言を言われ、口喧嘩のようになってしまう。

平凡な私よりずっと頭が良いカーターからすると、私のすることが馬鹿馬鹿しく感じて気に触るのだろう。

すっかり冷たい顔が板についたカーターは、いつから私にあの天使のような笑顔を向けなくなったのだろう。


ごそごそと、養子になったばかりのカーターの絵姿をソファの下に隠した箱から取り出す。

以前絵姿を見てにやにやしているのをカーターに見つかった時は顔を真っ赤にして怒り、一刻も早く捨ててください!なんていうものだから、見つからないように隠してあるのだ。


この時は可愛かったなあ。

こっちの絵姿は微笑んでくれている。

絵姿の中のカーターは笑っているのに、現実のカーターはいつも何かしら怒っている。


ダメなお姉ちゃんでごめんね。







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