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弟のお披露目夜会

3 弟のお披露目夜会

カーターお披露目夜会の当日。


ダンスホールの入り口で来客を私とお父様、カーターの3人で出迎える。


ここでは軽い挨拶のみ。

来客はこの夜会の目的がカーターの顔見せだということがわかっているので、お父様に挨拶したあと、私とカーターに挨拶しながらカーターに値踏みするような視線を向けている。その視線は想定内ではあったものの、全く動じないカーターは肝が据わっているな、と思う。

通常の夜会は大人だけ、というものが多いのだけれど、今日は私とカーターが参加することもあり、同年代の子供も参加している。

私の友人も数人参加しているので、後でゆっくり話に行くわね、と言って小さく手を振る。

女子の友人達はカーターを見て顔を赤らめる。

いいだろう、私の弟は可愛いのだ。大いに羨んでほしい。


ホールの外がざわついたかと思えば静かになる。大物のお出ましだ。王太子、第二王子が来たのだと空気でわかる。


2人とも私とそれほど変わらない歳だったはずだ。

入場を待っていた貴族達が自然と道を譲り、頭を下げる。

私達も頭を下げる。

「我が家までご足労いただきありがとうございます。」

「よい、この国を背負う大事な公爵家の新しい一員を祝うのは当然のことだ。」

「大したお持てなしもできませんが、ごゆるりとお寛ぎくださいませ。」

お父様が挨拶する間、頭を下げたままチラリと王子2人の姿を盗み見る。私もお会いするのは初めてなのだ。


うおおおおお!美形だ!

オーラがすごい!

王太子様はキリリとしたお顔立ちで第二王子様は柔らかいお顔立ち。2人とも絵物語にでも出てきそうな見目麗しさ。同じ色のサラサラの黒い髪と明るい青色の瞳。高貴な方々が纏う風格。


可愛さではうちの弟が勝っているけどね!


「初めましてだな、アーサー・スチュワードだ。」


危ない、カーターの可愛さに思いを馳せていると、いつの間にかアーサー王子とフェデリック王子が父との挨拶を終えて私の前までお越しになっていた。


「ラディアナ・ノクターンです。本日はお越しいただきありがとうございます。」

頭を下げっぱなしだ。

「ラディアナ嬢、初めまして。アーサーの弟のフェデリック・スチュワードです。」

「初めまして。アーサー様、フェデリック様、私の弟のカーター・ノクターンでございます。」


どや、うちの弟可愛いやろ?と思いながら紹介する。


「この度公爵家に養子入りいたしましたカーター・ノクターンです。まだまだ不勉強な身ですが、この国のために精進してまいります。」

うーん、うちの弟立派!お姉ちゃんの挨拶の100倍しっかりしていて恥ずかしいけど、弟のお披露目会だからいいよね。

「カーター、歳も近いと聞く。後でゆっくり話そう。」

アーサー様からカーターにお声がかかる。ご友人になれると良いね。カーターは地方にいたから王都にまだ友人いないものね。


「姉上、何を考えていらっしゃるかわかりませんが、にやにやするのはやめて下さい。」

アーサー様達が離れた後軽く睨まれるが怖くない。そんな可愛い顔で睨まれてもお姉ちゃん全然怖くないよ。


「にやけてなどいませんよ、さあ、引き続きお客様をお迎えいたしましょう。」

何か言いたそうなカーターを無視してお客様を招き入れる。既に私の頭はパンパンになり、挨拶をしてくださった来客の貴族のみなさま、誰が誰だったかわからなくなっているけれど、子供だから許してもらえるわよね。



長かった迎え入れの時間が終わりフロアに向かうと、ゲストの皆様はもうご歓談に花が咲いていた。


今回、唯一私達よりも格上のゲストである王族のお二人の元に家族3人で足を運ぶ。既に王族のお二人の周りには人だかりができていたが、私達が近づくと皆空気を読んで離れていく。


「改めて、お越しいただきありがとうございます。アーサー殿下、フェデリック殿下。」

お父様が2人に話しかける。

「父が来れなくてすまんと謝っていた。息子2人ですまぬな。」

「恐れ多いことです。陛下には別途ご挨拶の機会を設けておりますのでお気遣いなく。」

へー。なるほどねえ。王様は軽々しく城外に出れないから名代として王子様達が参加してくれたのね。

そしてちゃっかり王様へのカーター紹介タイムを確保しているお父様流石だわ。

と、お父様とアーサー王子の会話を聞きながら感心する。


「カーター殿もそうだが、ラディアナ嬢も今回初めてお会いしたな。」

「ラディアナも社交会デビュー前ですから。茶会に参加しているので、貴族御令嬢とは面識がありますがアーサー様とは初対面になりますね。」

「確かに。ラディアナ嬢とカーター殿の社交会デビューは2年後だったか?それにしても、女性の茶会の情報網にはいつも驚かされるな。私も参加してみたいものだ。」

大半の茶会は女性が執り行う。参加者も基本は女性だけだ。当家ではお母様がいないため、もう何年も主催のお茶会を開けていない。


「お父様、ご安心くださいませ。社交会デビュー後は私がばんばんお茶会を開きますわよ!」

貴族社会での女性ネットワークは馬鹿にならない。流行の発信の最前線で経済を動かしたり、夫や家族の情報を洩らす間諜のような役割を担ったり、派閥に引き込んだりと、お茶会という社交場は正しく女性の戦場だ。自家で開催できないとなると家にとって大きく不利になる。


「くくく、、、、ばんばん、、、」

アーサー様が吹き出される。

楽しそうなアーサー様。

顔を掌で隠すお父様とカーター。まあ、血が繋がっているかのように同じ動作ね。そして笑うのをこらえる様子のフェデリック様。皆様楽しそうで何よりですわ、と思い無難に微笑んでおく。淑女は微笑んでおけば大体許されるとマナーの講師もおっしゃってましたし。


「姉上、王族の方の前で素がですぎですよ。お気をつけください。」

と、こそっとカーターから注意される。


「気にしなくても良い、まだ8歳なのだろう?フェデリックと同じ歳だ。私は2歳歳上になる。これからもよろしく頼む。」

アーサー様は王族の方なのに気さくな方だなあ。正にお兄ちゃんキャラ。大らかな感じが良いなあ。

「よろしくお願いいたします。」

私はアーサー様にお辞儀をする。


今日はひたすらお越しいただいた方々に挨拶をするのが使命なので、アーサー様とゆっくりお話しする暇はない。

お姉ちゃん的にはカーターの友人になってくださると嬉しいので、本当はもう少し語り合えれば良かったのだけれど。


王族のお二人に挨拶した後はひたすら来客から挨拶に来てもらうのを待つ。まあ、待つといっても入れ替わり立ち替わりで挨拶に来られるから私達に待ち時間はないのだけれど。

他公爵家のニ家の方も同じくらいの歳の男の子を連れていた。

皆、うまいこと後継の男子が生まれて良かったわねえ、と思いながら挨拶をする。

家によっては6人子供がいても皆女子、ということもありうる。貴族の家では言い方は悪いけど、保険として3人は男子を産むのが理想とされている。不慮の病や事故で跡継ぎがいなくなることもあるのだから。

そう思うとお父様は奇特な方よねえ。養子をとるにしても通常はもっと小さな頃に迎え入れるのに。ある程度資質がある子を見極めるためにこの歳のカーターにしたのかしら。

と、ぼんやり考えている間にある程度のご挨拶は済んだみたい。当然ながら、私はあまりゲストの顔を覚えられずにいる。


お父様は案の定、挨拶にこられた大人の方と話し込まれてしまったのでカーターと一緒に過ごすことにする。

「ねえ、カーター、ダンスを踊ってみない?」

「まだあまり上手く踊れないし、、、、」

「平気よ。子供だからちょっとくらい失敗しても問題ないわ。社交会デビューの時は失敗できないから場慣れしましょう。」

せっかくこの1ヶ月くらい2人でダンスの練習をしたのだ。

フロアで踊ってみたいではないか。


強引にカーターを引っ張り出して、ダンスのステップを踏む。

いつも2人だけで練習しているので、ダンスフロアでは周りの人たちと思いの外近い距離であることにびっくりする。ゲストの方々は慣れているのか、辿々しいダンスを踊る私達を上手く避けてくれる。


「楽しいわね!カーター!」

「恥ずかしいよ、姉上」

「何が恥ずかしいの?ダンスが下手なこと?これからもっと上手くなれば良いじゃない。」


私たちのダンスは一応形になった程度の拙いもので、ステップは間違えるし、動きもバラバラで、ダンスの上手い貴族の方々からはとてもみれたものではないかもしれない。でも音楽に乗って楽しむことはできる。多分、これからカーターはもっとダンスが上手くなるだろう。たった1ヶ月くらいでここまで踊れるようになったのだ。


完全に女性をエスコートする頃には姉ではなく違う女性と踊っているのだ。

それなら、お姉ちゃんであるうちにさんざん弟を振り回し、へたっぴなダンスを楽しむのは姉の役目だろう。そう思うととても楽しい。


いつの間にか、同年代の子供だけがダンスを踊り、周りを大人の貴族の方々が取り囲み、私達のダンスを見守るような場になっていた。


王子のお二人は、流石にダンスもお得意で、私までダンスが上手くなったように感じた。

カーターも、私以外の御令嬢の手をとり、そつなくこなしているように見えたが、度々踊りながら私に恨みがましい視線を送ってきた。

せっかくの機会なんだから楽しめば良いのに。

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