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トイドールは踊りだす

作者: 忘れん坊

ここは魔女が作り出した小さな世界のトイドールの街。この町に住むトイドールたちは皆、毎夜魔女を悦ばせるために踊っていた。とびっきりの笑顔で楽しそうに。だが、一人のトイドールが踊るだけのトイドールとして生き続けることに疑問を感じ始めて――。

 ここはとある魔女が作り出した小さな世界のトイドールの街。この街に住むトイドールたちは、夜になると魔女を悦ばせるために踊り始める。毎日、毎日とびっきりの笑顔を浮かべ楽しそうにトイドールたちは踊っている。何も考えずにただ踊っている。俺も最初はそうだった。

 いつしか俺は魔女のために踊るだけのトイドールとして生き続けることに疑問を感じ始めた。そして、この小さな世界―――魔女のおもちゃ箱から抜け出そうとした。それがいけなかったのだろうか。俺の体は今、トイドールではなくクマのぬいぐるみになっている。赤くてかわいいモフモフの奴だ。

 ぬいぐるみになった俺は自分の足で歩くことができなくなってしまった。街の片隅にある小さなぬいぐるみ屋で他のぬいぐるみたちと一緒に商品のように置かれているが、何もできない。

 俺は永遠にこのままなのだろうか。悲しくて悔しくて寂しくて泣きたいのに泣けない。ぬいぐるみは涙を流せない。俺はいつしか希望を持つことをやめてしまった。

 

「ごめんください」


 それは突然のことだった。ドレスや髪色を黒一色で染め、大きいツインドリルを髪に巻き、大きな瞳がとても可愛くて、つい抱きしめたくなるような子どものトイドールがこの店を訪れた。


「わぁ・・!!可愛いぬいぐるみがいっぱいだぁ・・・。一つくらい持ち帰っても怒られないよね・・・」


 これは奇跡か偶然か。頼む、俺を選んでくれ。君の手で俺を、俺を永劫の牢獄から連れ出してくれ・・・。


「このコアラさんとか、お耳がとっても可愛い」


 そんな汚いコアラはやめとけって!目は細目だし、色合いも悪い。俺の方がプリティでチャーミングだ。


「ウサギさんお耳がフワフワ~」


 お耳がフワフワ?俺の生地のほうが10000倍ふわふわだし触り心地もいいって!


「ん~、かわいいのがたくさんあって選べないや~」


 俺だ~!俺にしろ~!俺を選んでくれ~!頼むから、何でもするから。


「決~めた!このマントヒヒにしよ!」


「なんでやねん!」


 それだけはねぇだろ!お前、可愛いのが欲しいみたいな空気出してたじゃねぇかよ!

マントヒヒだけはやめてくれ~マントヒヒに負けたという事実が、永遠に俺の心を苦しめることに・・・。あれ?俺今、声を出せたような・・・。


「誰?誰かいるの?」


 ・・・。存在しない心臓の音が波打つのを感じる・・・。頼む、声よ。出てくれ・・・!


「っあ~~~~~!!!」


「きゃ~~~!!」


 こ、声が出た~!!この体で、このぬいぐるみの体で声を出すことができた!もし、涙を流すことができたのなら、俺はこの店を涙の海で埋め尽くしていただろう・・・!!


「く、くまが喋った・・・?今、喋ったよね・・・」


 しまった。大声を出しすぎて驚かせてしまっただろうか?声は出すことができたが、足は動かない。どうにかしてこの女の子に俺を持ち出してもらわなければ・・・。


「す、すごいでしょ~この世に二つとない喋ることができるクマのぬいぐるみなんだ!」


「わ、わぁ~クマが喋った~!!すごい、すごい!す~ごい!」


 女の子は目を輝かせて俺の方に近づいてきた。よし!いい感じに食いついたみたいだな。

この調子で・・・。


「しゃべるクマのぬいぐるみさん!!わ、私とお友達になってください!」


「えっ!?」


 友達?いきなりなんだ?


「私、トイドールになったばかりでお友達がまだいなくて・・・よかったらクマさん、私の友達第一号になってよ!」


「ぼ、僕・・・自分自身の力で歩けないんだ。君が僕を連れ出してくれるなら・・・友達になってもいいよ」


「ほんと!?連れ出す!連れ出す!やった~!」


 女の子は満面の笑みで俺を持ち上げ、その場でピョンピョンと跳ねだした。嬉しすぎて飛び跳ねたいのは俺の方だというのに。


「私、アリス!クマさんの名前は?」


「名前・・・?・・・忘れちゃったな・・・。もしよかったら君がつけてよ」


「私が?う~んと、じゃあね・・・」


 どんな名前でもいいさ。俺を永劫の牢獄から救ってくれる君がつけてくれるなら。


「クマクマ!これからクマさんの名前はクマクマだよ!」


「クマクマか・・・ふふっ」


「いい名前でしょ?」


「うん。とっても」


 トイドールたちは今宵も魔女のために踊り始める。みな笑顔を浮かべてとても楽しそうだ。 アリスとクマクマも街の広場に赴き魔女のために踊りだす。今宵ばかりは俺も心の底から踊りを楽しんだ。もちろん実際はアリスに抱かれているだけで踊っていないが、気分は踊っていた。

 アリス、君と一緒にいつかこの世界の外に行けたなら・・・。一緒に手をつないで踊ることができるだろうか・・・。俺はそんな夢を心の奥底で抱きながら、楽しそうに踊るアリスを見つめた。

 作り物の月の下でトイドールたちは今日も踊り続ける。


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