二次試験ROUND1 その2
自信があったかと聞かれれば、その時の僕はあったのだと思う。前回不合格だったとはいえ、初出場で二勝できたし、今回のために個人の能力の底上げは勿論、先輩との連携の訓練も積んできた。だから今回合格できる可能性は十分にあると思っていた。
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試合開始と共に仮想戦闘空間に転送される。遥か先まで広がる草原に降り立ち、腰に刺した魔法剣に手をかける。
まずは先輩か師匠との合流を目指す。個人技で敵わないのは分かっているからそうしなければ話にならない。狙うは魔法使いのアルトとシアン。魔法使いなら近接戦闘で必ず有利が取れる。ザックはシャドウボウガンに任せる。
突出した能力と初出場という情報の少なさから警戒され、実質二対一の構図になるはず。そう考えた僕らは敵チームの対処を敵チームに任せるという思い切った作戦をとった。シャドウボウガンも勝ちを目指すなら僕らと同じ思考になるはず。これは部の悪い賭けではない。
「先輩。今どの辺りに」
合流のため位置確認の念話を送ったその時だった。僕の位置のはるか向こうに凄まじい光を確認した。日の出とすら思える眩い光は僕と低木の影を作り、次の瞬間草原一帯に拡散した。
その光球が魔力の塊だと僕が認識したのは、それが僕の体を四散させた時だった。
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「なっ……なんだこれはぁ!?」
広報部歴四年目、過去10回の二次試験の実況を担当、見た試合数は67。それなりにいろんなことを経験してきたつもりだから、ちょっとやそっとじゃ驚かない自信があった。
膨大な魔力の暴力。そんな表現すら生やさしいと思える惨状がモニターに映っていた。
「あ、アルト選手の放った凄まじい魔法弾により一気に四人脱落!残るはウィザーズの3人とサーベルタイガーとシャドウボウガンのリーダーのみとなりました!」
頭の中が整理できていないままとりあえず現状を伝え、実況としての仕事を果たす。いざ言語化すると本当に理解不能な状況だ。こんなことができる彼が第二級魔術師を名乗っているなんて詐欺もいいとこだ。
「あいつがお前の注目している奴か」
「まぁな。2試合目で公開されるからもう言っちまうが、あいつの魔力量はアリーゼ以上だ」
「ええぇ!?そんな逸材なんですか!?」
タイラーさんの言葉で会場がどよめく。魔法満点という情報すら霞む衝撃的な魔力量に、会場の人たちは興奮を隠せない。スカウトの人達は目を皿にしてモニターを見つめ、偵察をしに来ていたであろう二次試験受験者は頭を抱えている。この場で冷静でいられたのはタイラーさんとメイジさんだけだった。
「実況がこう言うのは本当に申し訳ないんですけど、これはもうウィザーズの勝ちでは……」
「いや、二人はまだ諦めていないみたいだぞ」
「えっ……?」
メイジさんに言われてモニターに目を向けると、生き残ったチームリーダー二人がアルト選手目がけて走り出していた。
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「すみません師匠!」
「こんなにすぐやられるなんて……不甲斐ない!」
悔しそうに嘆く弟子二人の声が念話で聞こえてくる。いや正直おじさんもビビったよ。この試験であんなめちゃくちゃな子と対戦する事になるなんて予想外だったから。
「今のはしょうがない。そんなに深く考えなくていい」
番外魔術師みたいなこの世の理不尽をオジサンはよく知ってるから。たぶんアルトくんもそういうタイプ。だから可愛い弟子たちには気に病まないで欲しい。時にはどうにもならない事もあるって。
でも、可愛い弟子をやられてそのままだまっているわけにもいかない。
「今はただ、オジサンの勇姿を見届けて欲しいね」
えぐれた地面の先にいるアルトくん目がけてひた走る。あの威力を考えると二発目はそうそう来ないはず。その間にアルトくんだけでも倒して一矢報いる。それが師匠として弟子たちにしてやれる最大限の敵討ちだ。
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「だー!なんだあのめちゃくちゃ全体攻撃!」
「これは……とんでもないのと当たったな」
後輩たちの念話が飛んでくる。気合い入れて挑んだのに瞬殺されたのでどうなっているか心配だったが、杞憂だったようだ。まさか射線が通りやすいステージが相手にここまで有利に働くとは。
不可視で姿を消し、静音で足音も消す事で完全隠密状態になった俺は、魔法弾が飛んできた方向へ走って向かっていた。犠牲は多かったが、敵の居場所は完全に分かった。あの威力の魔法弾を撃てば魔力消費はかなり多いはず。二発目はそうそう打てない。その隙にあいつだけでも倒す。
今回の試合は負けかもしれないが、一人でも倒せばそれは評価に繋がる。次に繋げるために完敗するわけにはいかない。
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辺りの草花を消し飛ばした更地の中心に僕は立っていた。あの一撃で四人も倒せるなんて。初見殺しっていうのは本当に恐ろしい。ちょっと疲れて深呼吸をすると、ザックとシアンから念話が飛んできた。
「流石にあの一発で勝てるほど易しくないか」
「どうする?魔力はまだ余裕あるし二発目撃つ?」
「撃っても多分倒せないからいいよ。それより、残った二人の場所はわかる?」
「オジサンは座標10-21から真っ直ぐ僕に向かってきてる。もう一人は多分隠密状態だからわかんない」
試合開始と同時に僕はチータたちネズミの召喚獣を召喚して偵察に向かわせていた。あの子たちがレーダーのような役割を果たし、正確な敵の位置情報を教えてくれる。これによって僕らはかなりの情報アドバンテージがある。
「大丈夫。隠れてるのはもう見つけた」
「なら俺がおっさんの方に行く」
「オッケー。負けないでよ」
「もうあんなヘマはしねぇから安心しろ」
残りの二人はザックとシアンが倒すようだ。なら二人に任せて僕は一応移動しておこう。
「さて、次は僕らの番だ。痛快に行こう」
「アルトばっかにいい格好させるわけにはいかないからな」
自信に満ちた二人の声が聞こえてくる。昔は喧嘩ばかりだったけど、ザックが強くなった今、いざ戦いのことになると二人はまさに阿吽の呼吸だ。ルームメイトになってもう三年だけど、ようやく本当の信頼関係を築けた気がする。それがただ嬉しい。
「二人とも頑張って」
ザックが迷う僕を正してくれた。
シアンが強くなるための環境をくれた。
今の僕があるのは間違いなくこの二人のおかげだ。本当に感謝してもしきれない。だから僕はこの試験で勝ち進む。僕を支えてくれたこの二人のためにも。




