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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第四章 ケズレルモノ

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39-2

 イチェリオさんは言った。

「被害者は……多勢に無勢を強いられ、無残に殺されていました。監視映像に残っています。その映像の中では一度たりともゲートで連れ去られてなどおらず、ほかの方法による拉致も映っていないし、攻撃は殺し目的、そうにしか見えず、遺体は放置されていた。彼らがやりたかったことは、既にダウィスファータをよく思っていなかったモッブルフィンの使い手を、フロラーダに利用される前に殲滅せんめつすること。そうだったのだと見なされています。それほどの凄惨さの中で、十数人もの命が散ったのです。警備や警察部隊によって制圧されましたが、その警備や警察部隊からも数名の死者が出たほどです。警備員と警察両方の報告書に拉致は無かったことが書かれていてその点でも一致が見られます。その事件当時、モッブルフィンの使い手は、四分の一……ほんの数人しか生き残ってはいなかったのです」

「そ……、そんなに……」僕の口から出たのは、誰にも聞こえないくらいの小声だった。

 それならと、更に気になることは出てくる。

 僕は問い詰めた。

「じゃあそんなことがあって、どうして今――あんな奴らが」

「そうです、それが大問題」イチェリオさんが続けた。「その事件の死者と失踪者の全員の消息を、ここ最近になって確認し終えました。あなた方のよく知る二人……、この星に来た二人、それが最後。それを加えると当時の被害者の数と一致。この確認ができたということは、本当に拉致はなかった、そういうことになります。七十四年前の襲撃以降、施設から誰かが連れ去られたなどと聞いたこともないため、今は最初に言った二人しかほかにいない、だから最初にそう――『二人しかいない』と言ったのです。ということは、『あれ』が本人だと言わざるを得ないということになるのですが……それを否定するとなると……」

 イチェリオさんは考え込んだ。

 僕は、冷静でいようと努めながら。

「その昔の襲撃で、ダウィスファータって国の誰かが、味方を生贄いけにえに、死体を偽って本物を拉致ってたら?」

 するとヴェレンさんが。「しかし人体実験されていない者なら変身は解けます、死んだあともそうです。念のため当時DNA検査が行われました、記録によれば、全て本人の遺体で間違いないとのことで――」

「じゃ、じゃあ……、じゃあ……」僕は違和感を解明するために、必死に絞り出した。「じゃあ当時、改造ルオセウ人がほかにもいたとしたら――」

 これに対しては、モニターの近くにいるイチェリオさんが。

「いえ、それはなかったはずです。改造された者が保護される前の調査記録によると、改造された者がどこかに運ばれるようなことはなかったという話です。それに、関係者がどこかにひっそりと隠している可能性もない、ということになっています。長い調査の中でそんな素振りがなかったからこその記録です、当時の記録の保管者や報告者の性格も合わせて信頼性があると見なされてはいます。そして改造された者全員を保護できました。もちろん研究者もきちんと逮捕されています。保護のあと、過激な考えに染まっていた被害者を精神的にフォローし、道を誤ることがないようにもできていたのですよ。そんな記録もフロラーダは付けています。――そしてそのあとで襲撃されたので、以降は――」

 それで本当に、味方の中に裏切り者が出なかったのだとしたら……確かに……。

 でも……。

「じゃあ、逮捕された側にいたんじゃ? 研究者側に――」僕はつい言い方を強めてしまった。

 すると、少し間が空いた。

 そのあとでヴェレンさんが。

「確かに、『まさか自分達に改造を?』とは思ったこともあります。が、実際、全員逮捕され、逮捕された研究者達は外部と接触などできない状況に置かれました。逮捕された者の家族も監視対象となっていて、それらの家も調査されました。その子孫に、二世代目以降であると確認された者もいません。それに、そういった研究組織の情報を知り得た関係者の中に、同じ研究を始めた者もいません。調査記録によると、モッブルフィン誕生のための研究に掛かった年数は四十年程度のようだと分かっています。五十年前から監視を緩めていますが、もしその時から警察に隠れて手掛かりなく新たに研究できた者がいたとして、早く見積もって三十年でモッブルフィンの使い手が新たに誕生できたとしても、残り二十年でモッブルドゥンの使い手まで生まれてその世代が更に成長して我々を苦しめるほどにならなければ今言われた不自然さは解消されませんが、それがありえるとは思えません。これは近年世間でも言われていることです。やはり以降、研究自体されていたとしてもこの現状には間に合っていないはずです」

「なら……!」

 僕は言葉を探した。何か考えを変える切っ掛けがないだろうかと。

「だったら、当時から隠し子か何かで――」

 僕がそう言ったのは、華賀峰かがみね一族のことが頭にフラッシュバックする中でのことだった。

 その先に僕が言葉を続けられないでいると、イチェリオさんが嘆息した。そして何やら考え始めたようだった。

 何か答えでも見付けたのか、イチェリオさんがうなずいた。そして言う。

「研究者の愛人や隠し子も監視対象でした。確か――改造対象者の――保護の前に、尾行調査で突き止めていて、保護以降も監視を続けたはずです。研究者が関係を持った者達全てに、二世代目以降の兆候は見られなかったと記録にはあります。こういった兆候は隠し通せるものではありません、どこからどのように監視されているかなどを知ることもできない状況下ですので――」

「なら」

 もう僕の声は弱々しくなっていた。自信がない。かたくなになっているだけなのかも。

 そもそも映像の中の者は、イマギロ氏のものと同じ取締官の制服を身に着けることができている。

 それができるのは本人だから?

 なら、もういいのか、信じても。

 と思った時だ。それまで話さなかった檀野だんのさんがぽつりと。「影武者がいたらどうなんだろう」

「影武者?」ヴェレンさんが応じた。「代わりに逮捕された者がいたのでは、ということですか?」

 対して檀野だんのさんは。「え、ええ、それもですが。えっとですね、逃げるために、研究者が、誰かに対して『俺に化けろ』という内容をうまく話して、殺してから逃げたんだとしたら――と思いまして。モッブルフィン以降なら変身は維持されるから可能……なんですよね?」

「それは、確かに可能です」ヴェレンさんは部分的に肯定しつつも。「しかしその場合は報告書が残るはずです。遺体を見付けたという書き方になるはず。もしそうではなく調査員が攻撃した結果『影武者が死んだ』ということが実はあったと仮定するならば、それがどんな状況であったか、誰が攻撃を行ったか、記録を促されたはずです。そう義務付けることで行き過ぎた攻撃を抑制する、というルールになっていますから。ですが報告書にあったのは、『仕方なく攻撃することはあったもののそれによる死者は出さずに済んだ』ということでした。そして調査員の攻撃によらない遺体も発見してはいない、ということですので――」

 ヴェレンさんが言い終わる直前、「そうか」とイチェリオさんがつぶやいた。

 今までとは違う顔だ。何かに気付いた?

 そんなイチェリオさんが言う。

「研究者のうち誰か一人でも、部外者の誰かと姿を交換して、相手に『代わりに死ぬ、もしくは代わりに捕まること』を命じていたら? そして命じられた者がそのことに使命感でも覚えていたらどうだ。それがもしかしたら、研究を利用しようとした研究施設外の者の入れ知恵なら? 代わりに捕まれと命じた研究者と同じくらいの知識量を命じられた者も持っていて、個人的な情報も覚え込み、なりすますことができたのだとしたら? もしかしたら当時……『研究施設を特殊部隊が近々占拠し被害者を保護することになっている』という話を、何かの伝手で知った者がいたのかもしれない、そしてそんな研究があるのならと、研究を利用したいと思った者がいたのかもしれない。その者が、警察部隊の監視を掻い潜って誰かと接触を図っていればあるいは――。そうして歴史的にずっと、そうした行いがあったことをバレないでいるのだとしたら――。そうだとしたら、当時と今両方の意味で、時期的にも納得が行く」

 イチェリオさんの言葉を聞いてヴェレンさんの目の色は変わった。

 七十四年前というワードを聞いた瞬間に悲しみの色を見せていたシリクスラさんもまた、今はもう強い意志だけを宿しているように見える。まあ、『それが本当なら今まで気付かずに?』という後悔の色にも見えなくはないが。

 そんなシリクスラさんが言う。

「施設の人に、誰かとすり替わってたなんて感じはなかった。でもそれ以上に、世代を隔てさせてモッブルドゥンが可能な者を誕生させなければならない……。もし本当に研究者が――死んだという報告はないから――逮捕されたと見せ掛けられたのだとしたら……。本当に、その保護活動の時……? ありうる……」

 それがどんな方法かは分からないけど――と、そんな感じにでも思ったのだろうか。それ以外の疑問はあるのかないのか――三人とも微妙な顔付きだ。




 こんな可能性を考えた者が今までいなかった訳ではない。ただ、否定され続けていた。

『作戦決行まで、探査部隊と突入部隊はきっちり分けられていた』と報告書にはある。可能性があるのは探査部隊の方。突入部隊の者がすり替わりを行うのは難しい。変身しても服までは変わらない。着替えが必要な分バレる危険性があまりに高い、そのため、迅速な動きが要求される突入部隊でやる訳がない。

 ゆえに探査部隊に疑わしい者がいたら……とは思うが――当時もこのように考えられたようだけれど――、当の探査部隊には、能力と性格の面で最も信頼できる当時の警察部隊員(今でも尊敬される者)があてがわれていた。

 だから否定されていたし、すり替わったがゆえのボロを出していそうな者は捕まった者の中にはいないとされている。それに捕まった者のうちの誰かが刑務中の事故で死んだりもしていない。もしすり替わっていれば口封じに殺されそうではあるが、それがないからという判断もある……。

 そこまでの状況だったからたとえ疑っても否定されてきたのだった。

 先輩二人が言うのを聞いて、私は思った。この状況で、当時の調査員を疑わなければならない? 疑う余地がないと思っていたくらいなのに……? いったい何があったと思えばいいのか。

 もし探査部隊が怪しいとしても、過激派の入り込ませたスパイが選ばれるのを期待するだけよりも、選ばれた者にスパイがなりすますという方が確実……。じゃあ誰が選ばれるか分かっていた? 前情報をどこから?

 もしや怪しいのは調査員だけではない? なら、当時の別の何者かが?

 一斉保護を行う情報を、いったいどこから? いや、スパイが複数いた? いたのか……? それなら……。

 七十四年前の事件も、もしかして本当は拉致が?

 いや、映像的には違う。逃げることができていたことをバレたくなくて、こちらの戦力だけ削ごうと? 『拉致をしたがって失敗した』と見せ掛けた……? これもありうる……。

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