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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第四章 ケズレルモノ

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37-3

 大丈夫だ。殺さないように撃った。そのための脚への一撃。

 その一撃を放ったあとくらいには、もう、二人を守るための黒い盾も消えていた。サクラを攻撃に集中させたくて盾の方には途中から込めなくなっていたからだ。

 気になってチラリと盾のあった場所を見てみた。

 透明な板でできた壁がそこにはある。そしてその向こうに右柳うりゅうさん。

 たった今シリクスラさんが降りてきた。上空にいたようだ。浮くためのガラスの板のようなものを今消したようだった。

 やはり無事に、シリクスラさんのマギュートで守られていた。よくよく見ると、校舎にいる人達まで守ってくれているのが分かった。ありがたい。そしてそんな予感がしたからこそ攻撃に集中できていた。

 よし。と僕が思った時だ、シリクスラさんがきつそうにしながら何かを探すように辺りを見回した。何だ? 警戒してのことか? そういえばさっきからそんな動作をしているようにも見えたかも。

 ……まあいい。男の武器を奪うのが先決。と、そう思って僕は近付いた。多分手に持っているだろうから、警戒しながらだ。

 と、そんな時には、男はうつ伏せになり、武器を隠した――そんな風に見えた――。男も必死なのだろう。手元はよく見えなくなった。

 更に警戒心を強めて近付く。

 あと十数歩くらいで男の目の前に立つ、という時、声がした。「上! 離れて!」シリクスラさんの翻訳後の声だ。

 直前に、目の前の透明な壁を撤去したんだろう、音を遮られている感じはなかった。

 僕はびくりとしてから頭上を見た。

 肌が粟立あわだつ。

 上から、大きく環状になった赤いテープが下りてこようとしている――。

 離れた所に隠されてた? まずい! ――などと、感覚的に察知する間しかなかった。が、何とかその瞬間、しゃがむことはできていた。

 防ぐ! 何をされようと防ぐ! その一心で、すぐさま距離を稼ぐべく仰向けに寝た姿勢を取り、芯を自分の上に出し、その芯を赤いテープの輪よりも巨大な円盤にした。上から来るその赤い輪全体を、その円盤で強引に真上へと――。押し返すのはとっさのことだったが、それもできた。今やそれらも遥か上空。

 ったく危な過ぎる。こんな状況を想定してたってのか? なんて奴だ。僕は地面に背を付けた格好でそう思った。

 そして立ち上がる。また男に近付こうとする。

 その時、男は、テープの本体そのものを、うつ伏せの彼自身の背の上で、寝そべった人間がすっぽり入るほどの大きさにまで巨大化させていて、それにて、うつ伏せの彼自身を転送しようとしていた。その操作はとんでもない速さだった。

 逃げる気だ――。

「させるか!」

 僕は急いで拳大の芯を一本だけ飛ばした。が、彼は消えてしまった、跡形もなく。テープを押し飛ばして千切れさせる――もしくはゲートとして彼をくぐらせる前に吹っ飛ばす――そんな目的で飛ばした弾丸だったが、それが当たるよりも前に彼は転送に成功したことになる、コンマ数秒の差で。

 拳大の芯の弾丸は勢いよく地面に当たり、何度か跳ねた。そして一階の東渡り廊下の壁に当たり、若干大きな音を立ててその辺に転がり、元の大きさに戻った、何の成果もなく。

 くそ、逃げられた。まただ。相手も悔しいだろうけど、こっちも相当だ。



 生かして捕まえたかったが、その考えが邪魔して撃てなかった。俺が撃てば、奴は自分のゲートへの集中を欠き、奴自身を切断して死んでしまうかもしれなかった。手掛かりが欲しいからそれだけはという思いがあった。これは仕方のないことなのか? 俺は……撃てなかった……。

 それ以外の時にも撃てればよかった。特にガラスの盾が消えてからは。

 だがそれもできなかった。大樹だいきくんがゲートを通らされてしまいそうな時の動きによっては、大樹だいきくんを死なせてしまう可能性まであった……。それもマギュートによるとんでもない戦闘速度でのこと……。

 これは言い訳か? 慎重に動いたせいなだけだと……思いたいだけか……。くそっ……。

 大樹だいきくんの元へ、シリクスラさんと共に歩いた。そして銃をジャケット内のホルスターにしまいながら、俺から。「凄いな。よく退しりぞけた」

「いえ」大樹だいきくんは申し訳なさそうに首を少しだけ横に振った。

 いいや、本当によくやったよ。そういう想いで俺は。「まあいいよ、君は捕まらなかった。……さあ、今は移動しよう」

 大樹だいきくんは、「そうですね」と小さくうなずいた。

 ただ、言わなければならないことがある、そう思っていた。どう言えばいいのか。俺はそれを迷っていた。



 もう校舎内のどこかに隠れる意味はないかもしれない。かなり目撃されてしまったし。

 そのことを僕が話すと、右柳うりゅうさんが言った。「それはそうだが、ゲート能力は別だ。そっちの校舎の陰から俺達の本部へ移動しよう」指でも示してくる。

 言葉の通り、南校舎の真東――どの教室からも陰になり運動場からも遠い場所――に移動した。そこで僕がゲートを。

 こんな風に移動するよう右柳うりゅうさんが促したのは、多分、ゲート能力が僕にあることを隠せるからだろう。目撃者・・・ない・・よう・・と。きっとそうだ。



 中庭で何か起こっているのか。ほとんどの人がそちらを見て騒がしくしていた。気になった俺は教室の南側の窓から眺めてみた。

 なぜかガラスがもう一枚あるように見えたけど、幻覚じゃなかった。確かにあった。が、それもすぐに消えた――。

 さっきまでの一部始終を、俺は見ていた。

「あれが特殊な力? あれが大樹だいきの……?」

 なんて力だよ。そりゃ危ない力って言う訳だよ……。

 俺はその凄さに身震いするだけじゃなく、嬉しくなった。なんでだろう。あいつは近くにいた人達を大きな盾で守るように戦ってた、だからか? そういう奴と友達でいられて……、さっきも真剣に話してくれたし……、だから嬉しかったんだな、きっと。

 それだけじゃない。少し悲しくもなった。俺が知らない間に、辛い目に遭ってたんだな――。

 あの傷も、どういうものか、なんだか分かった気がした。そりゃ言えないよな。あんなモノが身近にある中で、あれだけの傷を負うようなこと……。俺達を巻き込んでしまうって、そう思うような奴だもんな、お前は……。そうなんだろ。

 ……なんて奴だよ。

 俺は、絶対お前の味方だからな。

 ――心の中でそうつぶやいてから、俺は窓に背を向け、自分の席に着いた。

 これからどうなるんだ? そんなことをふと考えた。そして振り向く。大樹だいきの席の方を。

 今から連絡してどうにか届けられるんじゃ、とも思った。だけどあいつのスマホがここにあるんじゃ、俺が誰に掛けたらいいかは分からねえ気がする。それにあいつは今忙しいワケだし、方法があっても、今は多分声を掛けられない、そんな気もする。

 代わりに、下校時には、あいつの荷物をあいつの家に届けよう。うまく行きそうだ。あいつの姉ちゃんに約束した通りに持っていくだけ。その頃俺が運んでるのがあいつの持ち物だなんて、連中には分かりっこねえ、絶対そうだ、分かるはずがねえ。だから不安なんてない。

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