表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第四章 ケズレルモノ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/152

35-2

 ――翌日。月曜日。この日は祝日でもなんでもなかったから学校の授業があった。もちろん、少し距離のある護衛付き。

 護衛には何の問題もなかったらしい。シリクスラさんや右柳うりゅうさんが誰かに怪しまれて通報されるなんてことはなかったようだ。

 問題があったら話し合って対策をするだろう、その際、僕にも話は来るはず。僕自身の安全度の話なのだから当然。でもそんな話はなかった。だから気にするようなことは何も起こってないんじゃないか。それが僕の考え。

 まあ確かなことだとは言えない。あるのは信頼。信じるからこそ、何も話されないのであれば何も異変は起こっていない、そう思うということ。

 その夕方、僕とシリクスラさんはリビングにいた。

 僕はソファーの右隅に、彼女はソファーの左隅の横に置かれたスツールに座っていた。そちらは窓際。護衛をするなら窓とその外は気になるのだろう。だからその位置なのだろうか。

 リビングにて、テレビ画面の中のスイーツ特集を見ながら僕は考えた。あの店用にどんな看板を作るかな、僕なら――と。

 そんな時だ、シリクスラさんに電話だ。彼女が出る。「はい。……ええ、そうです、そういうことになります。……はい、ではまた」

 通話を切った彼女に聞いた。「何の電話だったんです?」

 するとシリクスラさん。「全支部に声を掛け、合計十一人が彼らの組織の東京本部に集まったそうです。そして分担され大規模の調査が開始されました。半数以上が郊外の調査をしているようです」

 その言い終わりの直後、ガチャッとトイレのドアが開いた。そこから「ふう、すっきり」と言いながら男が登場。右柳うりゅうさんだ。

 今この家には、この右柳うりゅうさんとシリクスラさんと僕だけだ。母はいない、買い出し中。父は自分の店、兄は大学、姉は……友人の家にでもいるのだろう、多分。

 右柳うりゅうさんは、テレビの中の日付を見るなり固まった。

 なんだ? と僕が思っていると。

「あ、そうだ! 今日アレがあるんだ」彼は早歩きで近付いてきた。

「ん? アレって?」僕が問う。

 右柳うりゅうさんは僕の右斜め前にあるスツールに座った。

「テレビだよテレビ」彼は言いながらリビングにある壁掛け時計を見た。そして。「あ、もう始まってる」するとテーブルにあるリモコンを手に取った。「ちょっとチャンネル変えるよ」

 僕は不思議に思いながら彼のやることやテレビを見ていた。

 変えたチャンネルの番組でやっていたのは『世の中の不思議特集』というものだった。

「……? どうしてこれを?」

 僕が右柳うりゅうさんに聞くと。「あれだよ、この番組の一部で、燐治りんじくん――粋暁きよあきくん――の鉄の吸収の跡について、『これはどういうものなのか』って議論があるはずなんだ。新しい都市伝説でも生まれるかもな」

「ああ、確かに――」そんな番組ができてもおかしくないのか、と僕は言おうとしたが、遮られた。

「変にマギュートみたいなものがあるって広まると嫌だからな」右柳うりゅうさんがとにかく話す。「万が一そういう話になったら、話を逸らして火消しをするんだ」

「……? ってことは、誰か組織の人が出てるんですか?」

「ああ。ほら、隅っこの黒い服の、眼鏡の奴だよ」

 よく見てみる。

 スタジオはそこまで広くない。裏方がちらちらと映る。

 くの字に曲がったカウンターテーブルのような机に並んだ人が話し合っている。その中の右端に、黒スーツ姿で眼鏡を掛けた男が一人。ほかに右柳うりゅうさんの言う条件に合う者はいない。

 見たことのない人だった。僕の知らない人か、と思ったが。

 右柳うりゅうさんは言った。「あれ、檀野だんのなんだぜ」

「えぇッ?」僕は疑ってしまうほど驚いた。全然違ったからだ。顔も物腰も。声も話し方も。若白髪が生えちゃった五十代前半の男性くらいにしか見えない。

 彼の前のテーブルに置かれた名札には『心理学者・軽野忍康かるのおしやす』とある。

「普段俺達に見せてる顔は本当の顔だけどな。今度会ったらあごの下を手で撫でてみな、特殊メイクの跡なんかが手に引っ付くかも。ま、猫扱いみたいに何すんだよ、って言われるかもしれないけどな」

 そう言って、右柳うりゅうさんは「うくく」と笑った。

 余裕のある大人は時折、余裕があるからこそ少年らしさを前に出せるんだな、と思ったり思わなかったり。単純に彼が冗談好きなのかもしれないけど。

 そうなんだ、特殊メイクで……、と思いながら、番組を見続けた。

 ほかにも、世には不思議がある。各国の胡散臭い宇宙船の目撃例や、今現在噂になっている未確認生物は本当にいるのかということ、都市伝説、妖怪、悪魔の審議。世の中は見間違いや思い込みであふれている。軍が行う飛行実験の情報の機密性ゆえに起こった噂なども、ほかの現象によることも、それに映像作成中のミスなど、色々あるだろう。……それはまあいいとして、数分後、話題はついに、『鉄製、鋼鉄製の物の削られたような跡についての話』になった。

 ネットで少しだけ話題に上がり、今や下火になっているらしい。が、それでも確実に疑問は残っている。それゆえ番組関係者がこれを取り上げた、ということらしかった。

 誰の仕業か。何のせいか。こんなことにメリットがあるのは? 何かの兵器のせい? それとも感情に任せての行為? イタズラ?

 色々な話題が出たが、『これも宇宙人説だったら面白いですね』という話になった時、心理学者・軽野忍康かるのおしやす檀野だんのさん)は言った。「いやぁそれはないでしょう、地球に来られる科学技術を持ってる時点で、こんなことする理由なんてないですよ。何か理由があっても絶対都市部では……というか、バレるようにはやらないでしょうね」

 そのあとで、左隅の女性が言った。「こんな風にえぐれる時に、音はしなかったんですかね。もし音があれば『なんだろう』と思って見てる人もいるかもしれないですよね」

 対して、司会者の左隣にいる女性が。「音については誰も聞いていないらしいです。実際には鳴っていてその音だとみんなが気付いていないだけという意見もありますが、それは少数派です」

「音はないんじゃないか、ってことだよね?」

 と、司会者が言うと、女性は。「そういうことですね」

 そこで、司会者の右隣の席にいるオカルトマニアという肩書の男が。「もし誰かが何かの目的のためにやったとするなら、機械で削らないとこうまではなりませんよね? なのに音もない。つまり……誰かが意図的に機械で、というのも怪しい。つまり――」

 司会者は遮った。「え、つまり、誰かの意図なんてなくて、超自然的にってことですか?」

「そうです」とオカルトマニアは深くうなずいた。

「うーん。じゃ軽野かるのさんは何だと思います?」

 と、司会者に言われると。「まあイタズラでしょう。誰かのメッセージ……も、まあ、込められている可能性はありますね。かなり科学技術に精通している人のおふざけか何か……か、あるいは、やすりで時間を掛けて削ったか。ま、こっちは非現実的でしょうね。それとですね、こういうことを考える時に大事なことがあるんですよ、それは『現実的に考えようとすること』なんです、矛盾が出ないように。何かに当てはめたくて考えると、前提を間違えたりありえない解釈をしたり、なんてことが起きますから、ま、そういうのはネタになって面白いし、夢があって好きですけどね」

 うまいな、と思った。

 現実主義的に話すことで一番有力な説に聞こえるようにしている。しかも敵を作らないようにか、違う意見を好意的に見ている。

 多分そんな意図があってのことなんじゃないか。

 突飛過ぎない意見だから本当にありえそうに聞こえる。スタジオにいる人たちに限ってもそう思ってそうな顔色だ。

 右柳うりゅうさんは言った。「これで『鉄の削れ』自体が、どこか怪しい、と思われるようなことも、もうないだろうね」

「てことは、そこから粋暁きよあきさんや僕に誰かが辿り着くなんてことは、もう……関係者でなければありえないってことですよね?」

「そゆこと」右柳うりゅうさんはうなずき、また。「あの連中以外が君らを探すことはもうほぼない。俺達や奴ら――以外の、このことを知らない者には、君らみたいな存在に気付くことすらできないんだ。こうなりゃ大丈夫ってもんよ。……ああ、さっきのチャンネル、見てたよな、ごめん」

「あ、いえ、全然」

 そのタイミングで、「ただいまぁ」と、帰ってきたのは母だった。

「おかえり!」と僕が言ったあとで、右柳うりゅうさんとシリクスラさんの声が重なる。「おかえりなさい」

 周りにいる人が増えても、こんな風に、日常を過ごしていくことはできていた。


 そして、二日後の水曜日。

 僕は学校にいた。雲はまあまああるけど日もす。いい天気だ。

 護衛も近くにいるはず。ただ、どこにいるのかは僕もあまり知らない。

 そして大きな事件は、何も起こっていない。

 調査はどのくらい進んでいるのか。僕が今気にしているのはそれだけだ。



 この日の昼、リビングで洗濯物を畳みながら、私は、意外と平穏ね、と思っていた。色々と煽られもしたけど、私達一般人にはそれほど危険が及ばないだろうという話らしい、それがとても嬉しい。

 朝、愛理紗ありさに言っておいたことを思い出した。「念のため注意するのよ、ちゃんと爪切りは持った?」

「大丈夫、当然でしょ。じゃ、行ってきます」あの子はそう言っていつも通り登校。

 うちの子が狙われる理由は、きっとない。

 そうやって安心する中で、洗濯物を畳み続けながら、私はテレビを見ていた。

 昼のニュース番組。今は単なる芸能ニュースのコーナー。そこで、なぜだかざわつく声が流れた。

 慌ただしい雰囲気が放送に乗っている。

 なんだろう。なんだか嫌な予感が……。

 テレビの中の女性キャスターは、ある原稿を受け取った。そして彼女が。「速報です。渋土谷しぶどや駅前、大交差点付近のテレビ画面が、現在、巨大テレビも含めて電波ジャックされているとのことです。その近くのホテルロビーのテレビ前に中継が繋がっております。……では、映像をご覧ください」

 中継地点のカメラ映像に切り替わり、音声もそこのものが流れ始めた。

 それに釘付けになる。

 ホテルロビーのそのテレビには、黒いシートを広げたような背景と顔写真、白い文字(電話番号のようなもの)が映っている。顔写真は画面の三分の二を占めていて、その下に白い文字が。

 その画面のまま、男の声が。「――してください、情報を待っています。取り締まりにご協力ください」

 そこにいるのであろうリポーターの男性が、カメラに向けて言う。「実はこの音声は繰り返し流れておりまして――」

 リポーターはまだ話す気でいたようだけれど、すぐにまた、ホテルロビーのそのテレビの中の声が。「初めまして皆様――」

 多分同じ男の声。

 すぐにリポーターが。「あ、また流れます、お聞きください」

 正体不明の男は、「初めまして皆様」のあとに、リポーターの声に重なるように、「申し訳ありませんが映像と音声の通信を――」というようなことを言っていた。

 その続きはこうだった。「――乗っ取らせて頂きました、今しばらくお聞きください。現在日本にいる全ての者に告げます。この少年――フジミヤダイキという少年を差し出してください。彼はルオセウという星の犯罪者です。地球人の振りをしている重罪人なのです。特殊な力を使います。この星で言えば、特殊能力、というものが近いでしょう。大変危険ですので、発見しても近付かないでください。そしてフジミヤダイキを知る者は、この番号へ電話してください。情報を待っています。取り締まりにご協力ください」

 さっきのはこの途中からの音声だったのね、と気付いてすぐ、また。

「初めまして皆様、申し訳ありませんが映像と音声の通信を乗っ取らせて頂き――」

 何度か繰り返しているらしい。

 私はただただ不安になった。

『あの子』が今まで偽っていた? ……いや、そうは思えない。私は彼を信じられた。

 このままじゃどうなるか分からない。教えてやらないと。

 私はそう思うと、洗濯物を放り出し、スマホを手に取った。



 私は五限目の音楽が終わって次の授業のある教室へ歩いている途中で『連絡』を受けた。

 正直その内容に驚きを隠せなかった。嘘でしょと思いながら、急いで伝えに行こうとする。

 と、近くにいた恩田おんださんが。「ねえ! どうしたの!」

 聞かれた私は恩田おんださんに言うべきかどうかをまずは迷った。ただ、『この状況なら』彼女は一刻も早く知るべきだ、そう思った私は何があったかを言おうとした。でも、話が長くなってしまうことは分かっていた。

 結局、私は手で誘った。「じゃあ一緒に来て! 藤宮ふじみやくんのことなの!」

「えっ」と驚いたあと、恩田おんださんは、周りの別の友人に「ごめんちょっと」と告げ、そしてついて来た。

 私は走りながら伝えた。

 私が伝え切るまでの間に、恩田おんださんの表情が険しくなったり沈んだりする。信じられないと思ったりこれが本当なら怖いと思ったりしているんだろう、そして信じたか信じていないかに関わらず、彼のことを心配しているはず。

 全てを知ると、恩田おんださんはつぶやいた。「そんな……。そんな嘘を言うなんて」その顔は真剣だった。

 嘘? 普通は馬鹿げてると思うはずだけど、そんな感じじゃない。私は不思議に思った。もしかして恩田おんださんって、全然知らない訳じゃないの? 前から知ってた?

 話しても誰かにちゃんと秘密にしてくれそうだとは思ったけど、まさかこんな反応だなんて。……まあいい、それより今は――。

「次は同じ授業だから、私のクラスに」と、恩田おんださんに言われた通り彼女の教室に行ってみた。でも、そこに藤宮ふじみやくんはいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ