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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第四章 ケズレルモノ

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33-2

 危ない! そう思った僕は歌川うたがわさんの前に盾を作った。いつもの、芯の太さを大きくした黒い盾。直径一・五メートルくらいのその盾の裏から、歌川うたがわさんは構え直す。

 相手はやはり女だ。歳は多分二十前半くらい。女の腰にはポーチがあって、女はそこから何かを取り出し、歌川うたがわさんに向けてその何かを投げ飛ばすような動きを見せた、それも瞬間的に。

 直後、「ぐっ!」と歌川うたがわさんが悲鳴を上げた。

 僕は歌川うたがわさんの方を見て確認。彼は銃を失っていた。それだけでなく、右手の人差し指を守るような体勢で盾の裏に隠れている。

 切れてる訳ではないようだった。折れてるのか、銃を飛ばされて?

 今度は僕が同じような目に――?

 焦りや恐怖を振り払って、とにかく敵を見据えた。

 僕は、目の前に芯を呼び出し、それを拳大にし、硬くしたら、それを三十個ほどに増やして女に放った。腹に当てるのは気が引けたので、脚を狙った。

 これだけやれば当たる。狙い通り、女の脚に十数個は当たった。衝撃はプロの投手が投げるソフトボールと同じくらいにはなっている。それだけの数が当たれば立っているのは辛いはず。

 計算通り、女は這いつくばった。

 それと同時に、腹部より上全体に、何かに押される感覚があった。

 なんだッ? 今何かがッ? 気付かな――。

 僕は大きく後ろに押し飛ばされ、宙を舞って背中から地面に激突した。

 腰で折れ曲がって吹っ飛んだような感触だった。そして救い上げられてしまったかのような。そのあとで背中から地面に。落下。

 何もなかったはずなのにどうして。そう思いながら僕にできたのは、息を吐いて悲鳴の代わりにすることだけ。

 痛みで声も出なかった。横向きになって呼吸を整えるのに必死になる。背中が痛い。動けないくらいに。

 くそっ、どうにかして相手のポーチを――武器を――無効化させなきゃいけないのに。



 大樹だいきくんの盾が消えてしまった。俺もここまでか? 格闘で行けるのか?

 女は立ち上がろうとしている。俺はその女に駆け寄った。

 女の腰にあるポーチに手を伸ばし、その中身を全て奪った。ガラス板のようだった。少し離れ、地面に落とし、それを踏み付けて壊す。割れる音が三、四回鳴った。

 その瞬間、女は素早く動いてきた。熟練された動き――で、女は合気道か柔道みたいに俺の左腕を取ろうとした。

 とっさに腕を引きながら退しりぞき、ける、ぞくりとしながら。

 大樹だいきくんの攻撃で下半身に力を入れ難いんじゃないのか? なのになんて奴だ。今のは肘を狙ったな。逆向きに曲げようと。

 その動きが意外と速く、こちらとしてもけるので精一杯だった。だがきちんと向き合えばどうにかなる、今のやり合いの負け感は、こちらが構えてなかったからだ。

「そういや、抵抗するなって言ってなかったな」

 俺が構えてじりじりと前に出た時、女は大樹だいきくんの方を見た。余裕のつもりか?



 僕が女の方をやっと真っ直ぐ見ることができた時、女もまた僕の方を見ていた。

 ……?

 僕の目の前に、艶と厚みのある透明っぽそうな板のような物がある、と気付いてすぐ、僕の視界に入った二人の位置からして、『彼女が対処したいのは彼女の目の前の歌川うたがわさんだ』と思った。

 やばい――!

 思うのと同時に手を前に出していた。

 そして芯を出現させ、念じた。直径約一メートルほどの円盤化。そして二枚への増加。その二枚で透明な何かを挟み込む。さっき何かが割れた音がしたが、あれが歌川うたがわさんによる武器破壊の際の音だとしたら、あの女が操ったほかの対象物はもうこれで最後なのかもしれない。

 これさえ自由にさせなければあるいは。

 そのためには――と考えて挟み込んだのだった。

 そして更に、上下左右に芯を一本ずつ増やした。それら四本全部を約一メートルの長さにして、円盤二枚の隙間を塞ぐように枠を作った。硬化も怠らない。これで円の中心に均等に向かわせようとすることで、女のサクラの込め方がどんなに強くても、すり抜けることもできないように――。



 女は、武器を操っても仕方ないとでも思ったのか、拳を構えた。

 女が素早く飛び込んできて、右拳を前に出す――のが見えた。



 相手の対象物が僕の円盤の間でピキッと音を立てた。そして相手の対象物が挟まれた状態でずれていく感覚がなくなった。諦めたのか。そう思って僕も全ての操作を停止する。

 芯がバラバラと落ちる中、カキン、と透明な物が幾つか落下。割れた板状のガラスだった。

 僕はそれに向けて拳大の芯を飛ばし、ガラスにとどめを刺した。さらに細かく割れる。

 よし。

 それ以降、女はこの現状を格闘技のみでしのごうとしている。新たなガラスによる攻撃が来ないから多分そう――というのを、そちらを見て僕が思った瞬間、女の右拳そのものを歌川うたがわさんが右拳で突いた。

 拳同士が衝突。女の顔が歪んだ。

 瞬間、女が歌川うたがわさんの腰当たりを狙って右足刀蹴りを放ったが、歌川うたがわさんはその足を取り、更に踏み込み、女の残った方の足を右足で払った。当然女は倒れた、後頭部をかばいながら。

 その後、歌川うたがわさんは女の腕を引っ張り、腕ひしぎ十字をかました。

 ガッチリ固められたように見えたが、女は、まだ足なら自由に動かせる。女の知識と能力によるが、対処されうる。

 僕は念のため、芯を円盤状にし、硬化もさせて向かわせた。それと地面とで女を挟み、更に身動きできなくする。と、歌川うたがわさんが腕ひしぎを解き、僕に。「よし、ナイス」

「ども」

 言いながら円盤をずらし、少し大きくし、女を地面に強く押し付ける。女の肩も回らない状態に。腰も向きを変えられない。つまりこれで、女は身をひねって逃げることもできない。

 この際、顔を押さえはしなかった。尋問時に目や表情から何かを読み取りたくもあったから。女はマスクをしたその口で『う、くぅ』などと呻いているが、その顔は僕と歌川うたがわさんに丸見え。

 その女に向けて、歌川うたがわさんが。「おい、協力しろ。お前の仲間の利用するほかのアジトや人数、その他諸々、情報を教えてくれれば、かなり待遇をよくしてもいい」

「話すことは何もない」

 そう言う女の耳にはイヤホンが。その耳元に、歌川うたがわさんはしゃがみ込み、尋問を続けた。「お前達の置き去り殺人でどれだけ被害が出てる? 俺達は公的組織じゃないぞ、どんな処遇になるか――」

「待て。置き去り殺人を追っている?」女は、言葉を切るように質問した。「どういう……。私達も追っている」

 歌川うたがわさんは首をひねった。「嘘じゃないだろうな」半信半疑……いや疑いの方が強いか。

 対して女が言う。「嘘じゃない。そちらこそ、どういう組織なのか……説明してくれない?」

 この女の――いや女性の――反応からして、本当に置き去り殺人の犯人グループの者ではないように思えた。

 なら、彼女はどういう者なのか。

 彼らの仲間じゃないにしろ、ここでゲート移動を歌川うたがわさん達は目撃した、それも三度も。彼女らが『使える』のは事実。

 だがもし、しらばっくれるのがうまいだけだとしたら……。

 それらを歌川うたがわさんも考えただろう。考えない訳がない。だから軽率に話せない。

 歌川うたがわさんもそう思ったのか、彼の言葉はこうだった。

「俺達のことは言えないな」

「じゃあ私達も言えない。……でも、信じてほしい、私達・・はその犯人じゃない」

 女性の声は落ち着いていた。そして真剣な眼差し。

 本当に敵じゃないんじゃないか、そう思えてくる。

「あの」僕は話したいことがあったが、敵じゃない可能性が高そうに思えるこの女性を押さえ続けるのは嫌になっていたので、先に、芯にサクラを込めるのをやめてから話すことにした。

 一秒後、女性は解放され、上半身を起こした。芯は元の大きさで彼女の腹の上。

 彼女は逃げない。攻撃も一切してこない。

 そこで僕は「あの」とまた前置きして。「あなたが敵じゃないなら、その……、悪者じゃないなら、こんな情報戦というか、聴取みたいな真似しないで、その、つまり……手を組んだらどうです?」

 僕は女に対して話した。

 が、歌川うたがわさんが僕に即反応。「そりゃそうするつもりだよ、できればね、でも、互いの情報なしにただ手を取り合うだけってのは無理だ、何を隠してるか分からないからな。どういうつもりであろうと、彼女らのバックにもし誰かがいたりして、彼女は正義のつもりだが別の者は違った、なんてことがあったら、だまされることになる。だからどんな情報でも重要で、それ次第なんだよ。だから知る必要がある、でも、こちらが先に自己紹介ってのはナシだ」そして女に向き直ると。「お前らが自警団みたいに置き去り殺人を追っているだけで他意もなく、お前の仲間が全員疑わしくないのであれば、協力はできる。……どうなんだ、なんで追ってる」

 歌川うたがわさんの目が女性に向く。僕の視線も。

 女性は、さっきより少し重々しい声で。「この力について……どのくらい知っているのか、教えてくださると嬉しいんだけど」

 歌川うたがわさんは腕を組みながら。「なんでだ、何か関係あるのか? ……まさか、手を組む条件をそちらが提示したいってことか?」

 女性は立ち上がりながら。「そういうことにはなる。ただ、必要不可欠なだけ。言ってはいけない情報かどうか怪しいから、こちらからはどれも言えなくなってしまう。教えられるかどうかを確かめる必要があるのに、私達はあなた達のことを知らない、だからさっきも何も言えなかった。それに私達も、あなた達を信じられなければ、協力できない」

 歌川うたがわさんが嘆息した。「なるほど?」その声のあとの表情からすると、どうやら納得はしたようだ。

 それから歌川うたがわさんがまた。「力のことなら全部知ってる」さあ話してくれよ、と言うかのように、歌川うたがわさんは肩をすくめた。

 女性は首を振った。横に。「その言い方では不十分」

「いや、そのはずはない。こちらの方が知ってるはずだ」

「それこそありえない。不十分なのは必然」女性は歌川うたがわさんへの態度を変えなかった。

 すると、歌川うたがわさんはほんの少しだけ肩を落とした。そして考えたようだった。だとするとどういうことだ? 僕も頭の中は疑問ばかり。

 少し経ち、やれやれ、という枕詞が聞こえてきそうな雰囲気を醸し出してから、歌川うたがわさんが。「そちらから話せることはないのか?」

 女性はしばらく考え、それから歌川うたがわさんを見つめて。「こちらから言えることはない。私達・・がそちらに合わせる必要がある」

「必要、ねぇ……」歌川うたがわさんはそう言ってまた何か考えたらしい。それから数秒後。「いや待てよ、こっちが全部知ってるってのに、お前らは『お前ら自身の方が俺達より力について知ってる』と思ってるんだな? その根拠は何だ。こっちにゃ古い資料があるが、外部にはこの情報がれちゃいないはずだ」

 正直、もし情報がれていたら? とは僕も思っていた。歌川うたがわさん思ったことだろう。でもそのせいで彼女らが知っていることに繋がるなら、彼女らの方が力についてより知っているということを確実には言えない気がする。

 なのに、彼女はなぜか確信している。どういうことなのか。

 佐倉守さくらもり家と隈射目くまいめが代々守ってきた情報は、そんなに簡単に外に出ないはず。華賀峰かがみね家がどんなに血を分けてしまったとしても、情報は広まっていなかった、全然世間が騒いでなどいないし。実際あの兄弟はマギウトという名前すら知らなかった。情報が途絶えているから、そこからだとしても、どうしてそれに関する知識量において彼女らの方がより上だということになるのか。

 そこで思い出した。石奴いしどという男とその部下。彼らによる裏切り。だが、彼らもまた情報を外に出さないようにしていた。だから……、と考えて、あの死んだ女性のことを思い出してしまった。

 ともかく、彼らは全員死んだり捕まったりしているし、彼ら自身のおかげもあり、情報は無関係の者に知られていない。そのはず。

 それに、石奴いしどの関係者だとしても、この女性の方が情報量が上っぽそうなことの説明ができる気がしない……。

 つまり、今目の前にいる女とその仲間は、もっと別の所からの、ほかからの情報を持っている? しかも情報量が上だと確信できる情報を? そんなように感じた。……もしかして、ほかにもルオセウ人から受け継がれた情報があったのか? ……別のルオセウ人から?

 歌川うたがわさんは言う。「どうやって俺達以上に知った。そもそも、こっちの情報の……程度を知ることが、どうして手を組む条件に繋がる」

 ふむ、と考え込んだのか、女性は少し沈黙した。

 その隙に、歌川うたがわさんが僕に。「犬神いぬがみを呼んでこい、もう監視の必要はない」

「分かりました」

 芯を前に出し、円盤にしてそれに乗ると、向かいの建物の屋上にいる犬神いぬがみさんの所へ。そして浮いた円盤に乗ったまま言った。「乗ってください。もう監視は必要ないらしいです」

 犬神いぬがみさんを連れて現場に戻ると、そこには既に奏多かなたさんも舞佳まいかさんも来ていた。

 ちょうどそのタイミングで女性が話し始めた。「新しい資料ではなく、古い資料……。あなたの言う古い資料とは、厳密にどういう物ですか?」

 口調が変わってる、これは前向きに捉えてよさそうだな、攻撃的ではないのだし、と僕は思った。

「お前らは何も話すなよ」

 と、歌川うたがわさんが制してから言う。「古い資料ってのは、代々保存されているある書物のことだ。それについては口伝も解読もされている、だから知っている……としか言えない、これ以上は言えないな。……で、どうなんだ? 今の情報のおかげで手を組めるとでも? まだ何か必要か?」

 歌川うたがわさんが聞こうとしたが、女性はすぐに。「いえ、結構」

 結構?

 みんなの目が女性に集中する。

 女性は、歌川うたがわさんだけじゃなく僕ら全員に向けて。「いいでしょう、あなた達の立場がある程度分かりました。嘘もなさそうですし協力します。しかしあの事件を止めるためには、まず大事な話をしなければなりません」

 女性は少し考えたようだった。それからまた。「もし、この力の使い手が味方にほかにもいるなら、その者達を集めてください。そして、その者達とあなた達とで私達の話を聞ける場を設けてください。そこでの会話は、無関係な者に絶対に聞かれないように。さきほど少々話してくださったお礼として、場所についてはお任せします、あなた達の組織内の場所で構いません」

 彼女の話を聞いていて僕はまるで機械と話しているみたいだと思った。でもなんでそんな気分になったのか。彼女は生きてる。表情もある。そう思うのに。何でだろう。口調は、淡々としているとは思うけど。

 とにかく不思議な感覚をぬぐえずにいる。さっきからずっと。

 聞くべきかは迷った。何か話してくれると言うからその時でいいか、話し難いことかもしれないし。それに、考え過ぎかもしれないし。

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