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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第四章 ケズレルモノ

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33 疑い

 日々が過ぎ去る中で、いつの日も慎重に行動した。

 学校への(ほかの人にとっては職場への)行きやそこからの帰りには、周囲にたまに目を向け、通り過ぎる人から違和感を感じ取ろうとしていた。実千夏みちかがいる時は、心配させまいとそれを気付かれないようにやろうと心掛けていた。

 たとえば、僕の近くにいる人があまり見ない顔かどうか、その人物がどういう人であれ何を見ているのか、そして行動や持ち物が自然かどうか。違和感があれば、早くその違和感がある所から逃げよう、そう思っていたが、そうすることがないまま次の土曜日がやってきた。

 僕には別の約束もあった。今日はそれを果たす日。

 実千夏みちかとのデート。最近、会えないと思わせたことが二度もあったから、今日はその残り分。思いっきり楽しませたい。


 ウィンドウショッピングは僕のインスピレーションの種にもなった。デザインに役立つのではないかと。

 気になっていたフクロウと触れ合える店なんかにもこの日に行けた。

 実千夏みちかはとても喜んだ。

 僕も面白かった。無理はしてない。実千夏みちかの自然な笑みを見るのが僕には嬉しいから。

 改めて実感した――僕が嫌な気分でいるかもだなんて思わせたくはないということを。僕も自然に笑顔を見せてやれればなと思う。だからこれから先、感情に身を委ねていい時が来たらその時も委ねる。やっぱりこういう時ってのは楽しくないとな。

 ただ、そんな思いが強くなる状況でも……護衛をされているのは分かっていた。



 更に日々が過ぎ、五月中旬――の土曜の夕方。

 夕食を終えた僕が部屋で趣味の習字をしていると、スマホが鳴った。

 画面には『歌川うたがわさん』とあった。

「もしもし」

「ああ、大樹だいきくん、分かったぞ、奴らがゲートを使う場所」

「え、あの追手の――」

「ああ。これから奏多かなたくんにも教えて、その近くまで彼に運んでもらう。多分君も知りたいだろうし、今や一番強力なマギウト使い、だと思う。できれば協力してほしい、用があるならしょうがないが――」

「いえ大丈夫です、協力します」

「ならよかった。じゃあ、奏多かなたくんが部屋に行くから待っててくれ」

「分かりました」そして通話停止。

 通話を終えて三十秒くらいで奏多かなたさんが僕の部屋に来た。もちろん四個の消しゴムを枠にしたゲートで。

 それを消して、奏多かなたさんが新たにゲートを作る。それで向かった先は、がらんとした、妙に暗い駐車場のど真ん中だった。

「ここって――」僕は、もしかして、と問おうとした。

「ん?」促される。

「調査に協力して、調査員を運んだりしてる場所、ですか?」

「ああ、うん」奏多かなたさんはうなずいた。「その一つだな。被害者が出ないように、ここに犯人を――逃げられないようにって意味でも――逮捕現場にすることもある」

 やっぱり。組織の建物内にある調査用の車なんかを外に出すのも、こういう場所を経由させてやっているんだろうな。

 そんな想像のあとは、奏多かなたさんのゲートで何度も移動した。建物の屋上から屋上へ、という感じで。当然、誰にも見られないようにと、奏多かなたさんはタイミングを何度も見計らった。

 そして。

 一緒に呼ばれたのか、『その場所』には、呼んだ歌川うたがわさんと今来た僕、奏多かなたさん以外に、犬神いぬがみさん、舞佳まいかさんもいた。これだけいればまず負けないな、そう思ってしまう。

 今いる場所はどこかの屋上のようだった。その端にしゃがみ込んで歌川うたがわさん達は下を見ている。

 振り向いた歌川うたがわさんは、僕らを確認すると、「あそこだ」と小声で言いながら前に見えるアパートの足元の辺りを指差した。そして彼はそこへと視線を戻した。

 近付いて僕も同じように見やる。

 目の前のアパートには明かりが一つもない。人気もない。そこも廃墟か――古さを感じさせない感じだけどな――と僕が思った時、歌川うたがわさんが言った。

そろったから少し説明する。あのアパートは、俺達のゲート移動の場所や外部倉庫の候補になったことがある場所だ。ま、結局そうはならず、この敷地の買い取りも改築もしなかったが……、とにかく、だからこの場所を知っていてマークすることができていた。ほかにも、新たに人がいなさそうな所を調べて隠しカメラを設置して、多くの場所を監視したが、ほかでは決定的な瞬間が全く見られなていない。ここではつい先日、二、三人が出入りしていたらしい。報告を聞いて俺は決定的瞬間、ゲート移動の瞬間をその目で見るためこの現場に直行。で、ゲートの設置を確かに見た。その場所が、あのアパートの駐車場の、壁際だ」

 なるほどと思いながら地理を把握していこうとする。

 眼下には駐車場。左にはまあまあ綺麗な道路。右に出る通路はなさそうだ、フェンスが道を塞いでいる。その奥に道路。

 問題の廃アパートの敷地内は街灯が光っていない。道路脇の街灯からくる光だけが頼り。

 向かいの廃ビルは六階建てに見える。僕らのいるこの建物は五階建てだろうか、そのくらいの高さだ。

 僕らのいる方の建物にも人気はない。窓からの光も。こちらも廃墟か。いや、何かの職場で、今が夜だから人気がないだけかもしれないが。

「というか、ここ、どこなんですか?」

 僕が聞くと舞佳まいかさんが。「井下橋いかばし区の新河葦しんがあし……二丁目、でしたっけ?」

 それを耳にした犬神いぬがみさんが。「うん、新河葦しんがあし二丁目の廃墟地帯」

新河葦しんがあし? 井下橋いかばし区? また井下橋いかばし区――」

 あいつら居座ったのか? そうでなけりゃ、なんでなんだろう。

 僕がそう思ってすぐ、歌川うたがわさんが。「多分、ここと鬼千堂きせんどうデパート付近は奴らに見張られてる、そう思った方がいいな」

 警戒されてるのか。まあそうだよな、それは思っておくべきだよな。

 潜んで観察するため、会話は当然、全部小声。それからもずっと。

「その、現れる奴って、定期的にここに?」これは僕が聞いた。

 もし、奴らが定期的に、ゲート移動に利用する場所を変えようとしていたら? いつまで待っても、もうここには来ない、なんてことも、ありえなくはない、そう思ったから聞いたことだった。

 歌川うたがわさんは「ああ、そうだ」とうなずいた。「二日置きくらいで三度は見たよ、こういう監視位置を決めるまでの間にね。見られてるのがバレてなければ、急に別の場所に変える理由もないと思うぞ」

 確かにそうかもしれない。バレてなければだが、まあ大丈夫か。

 僕がそう思ってすぐ、舞佳まいかさんが聞いた。「見たゲートって、どんな感じだったんですか?」抵抗されたり襲われたりするかもしれない、恐らくその対策のために聞いたんだろう。

「そうだな、キラキラしてたよ、そんな板を縦に広げてた」歌川うたがわさんは手で何かを拭くみたいなジェスチャーをして見せた。

 縦に拡大……。光る板を? いや、光を反射する板かもしれない。でも、もし光を発するのなら、目くらましが怖い、か。

 それにしても。

 僕は思った。燐治りんじさんもこのことを気にしてるんじゃ? と。そもそも彼が襲われた原因を……犯人に直接聞けるかもしれない場だ、一番知りたいのは彼。まあ想像できはするが――意外な理由があるかもしれないのだし。

 僕は聞いてみた。「燐治りんじさんは一緒じゃないんですか?」

 応答してくれたのは歌川うたがわさんだった。「燐治りんじくんはこのこと知らないよ、だから来ない」

 言われて思った、今あの居住階層にいるのかなと。でもそんな訳ない。時間が経ち過ぎてる。どこかに移ったんだろう、あのアパートや大学にはいられないから(調べられているかもしれないから)代わりに、ほかの、いられる場所に。そういう話だった。今どこなんだろう。

 僕の顔に疑問が浮かび上がったのを見て取ったのか、犬神いぬがみさんが。「ああ、もしかして秋田にもう移ったの、知らない?」

「あ、ああ、はい。――秋田なんですね」と僕が言うと。

「そ。決まったのは一週間とちょっと前」

「そんな前から」

 犬神いぬがみさんはうなずいた。それから。「近くの山形支部にも伝えてて、もしもの時にも対応できるようにしてる。彼が今通っているのは、秋田公立美術大。資金はこっちで出してる面もあって、そのことを気にしてるのか、忙しくやってるみたいよ、もう原因なんて、『分かったら教えてください』だって」

「そうだったんですね……。あ、じゃあ、家はどうなってるんです? アパート?」

「ううん、隈射目くまいめの協力者の家、一軒家に、養子になる形にしてる。彼のお母さんはもう全部知ってて、彼は新しい名前、苫田とまだ粋暁きよあきを名乗ってる。けど、念のためそこの家主の名前で母親とはやり取りしてる。彼のお母さんには、誰にも言わないように念押ししてる。脅すような形になっちゃったけど、それは息子のためだし、彼の母親なら……誰にも言わなそうだったから、大丈夫」

 最後は信じ切ってるみたいに冗談っぽくて、砕けた感じだった。

 僕は会ったことがないのに、燐治りんじさん(今は名前が違うけど)の母親を、僕も信じられる気がした。

「それで全部の準備がバッチリ。ただ、以前の友人とはズバッと関係を切ってもらった」犬神いぬがみさんは手を包丁に見立てたような動きを見せた。そして嫌な過去でも思い出したような顔で。「まあそこだけは悲しいけど、命はあってこそだからね」

「……ですね」

 疎遠になって、『あいつ何なんだよ急に会わなくなって』とか『もういいやあいつは』とか思われても、『ここにいるんだよ』なんて言えないんだな……。そう思うと、途端に切なくなった。

 燐治りんじさん改め……、あれ? 何だっけ、と思い出せなくて聞いた。「なんて名前になったんでしたっけ」

苫田とまだ粋暁きよあき

 歌川うたがわさんに言われて、それから僕は思った。粋暁きよあきさんは友達をこれから新たに……。それを粋暁きよあきさんなりに、取り返すように頑張っていくんだろうな。成功するといい。その頃にはあの犯人達に怯えなくていい暮らしができているといい。そうなっていれば、もしかしたら……。

「あとは母親が引っ越せば万事解決。バレる要素はどこにもなくなる」歌川うたがわさんが言った。

「そっか……」

 正直、凄いな、と思った。ここまでの手が打てるなんて。犠牲は大きいし、悲しむ人、嫌な思いをする人、色々いるだろうけど、でも、ここまで一人の人間を守る行動を取れるのは、とても……とても大きなことだ、そう思った。

 その時、歌川うたがわさんが言った。「ああ、そうそう、彼の父方の祖父がそうだったよ」

 そう、とは? と思ったが、すぐに意味が分かった。

「あ! ルオセウ人……ッ?」

 歌川うたがわさんはうなずいて。「うん」それだけ。

「ど、どうやって分かったんですか」

 すると歌川うたがわさんが。「カルテを見たんだよ。……彼は死んでた。今からほぼ二年前に。掛かり付け医が隠し持っていたカルテの中に問題のX線写真があったんだ。名前付きでね」

「そ、そうですか……」

「彼らは、変身を維持できないはずなのにな、君の祖父と同様だ」歌川うたがわさんがそう言った。

 じゃあ、やっぱり、最近のルオセウ人の血が、鉄の吸収には関わっていそうだ。

 そこに違いがあるように、ほかにも色々と遺伝子レベルの違いがあって、その掛け合わせで――佐倉守さくらもり家と血が混ざらなければ――変身が継続してしまう? ……これはやっぱり合ってるのかも。あの・・、必死に伝えて、謝って、本当によかった。

 あ、じゃあ、谷地越やちごえさんは?

「あの」僕は問い掛けた。「彼のお爺さんと、谷地越さんの……DNAは、一致率はどうだったんですか? 血筋的には?」

「ああ、それなら百パーセント繋がりなしだ。全然違った」

 ほっとした。谷地越さんは恐らく佐倉守さくらもり系列――ということは、戻れない変身をするタイプではない。

 燐治りんじさんは粋暁きよあきさんとして今や隠れている。あとは僕だけ? 心配する相手はもういない。更に安心する。

 会話の間も監視は続いていたし、まだ続ける。だが怪しい者というのは中々姿を見せない。

 ふと、一つだけ気になった。「あの……ええと……粋暁きよあきさんは、その……僕の祖父のような血も継いでいて、かつ、佐倉守さくらもり家の血も継いでいる、なんてことは? それは確かめ――」

 と、その時だ、犬神いぬがみさんが言った。「来たッ」

 ――しょうがない、あとで聞こう。

 そう思って集中して見やる。

 眼下の駐車場の左側にはアパートへの入口のほかに入口までの道と道路を隔てる『工事中』のフェンスもあった。ずらりと並ぶそれを乗り越えるように、髪の長い何者かが今、浮遊移動する何かに乗って入ってきた。

 そしてその何かから降りる。と、長髪の者は、周囲を警戒しながらスマホらしきものをいじりつつ歩いた。

 多分誰かに掛けようとしている。今がチャンス。

 と、その時歌川(うたがわ)さんが腰のホルスターから銃を抜き、サイレンサーを付けながら。「奏多かなたくんは入口、舞佳まいかちゃんは駐車場奥だ、なにがなんでも奴を逃がすなよ、マギウトを使っていいのはこの駐車場の中でのみだと思え」

「ラジャ」奏多かなたさんが言った。

 舞佳まいかさんは黙ってうなずく。

 二人はそれぞれの操作物を巨大化させて乗り、浮遊移動で持ち場に向かった。

犬神いぬがみはここだ、逃げそうなら撃て」

「了解」

大樹だいきくんは俺と下へ移動だ、円盤を使ってくれ。俺もあいつが逃げそうな時は撃つし最初に威嚇をするが、大樹だいきくんはそのあと、できれば相手の武器を壊すか相手の視界を遮るかするんだ、力を使わせるな、頼んだぞ」

「はい」了承した時には既にシャー芯のケースをポケットから出していた。

 芯を前に出し、円盤状にし、硬化させる。人が乗れる強度、厚さ、幅……になった時に、それに歌川うたがわさんが乗った。僕も。

 音もなく草地まで降りる。円盤から降りてそれへサクラを込めるのをやめると芯は元の姿に。

その芯のことはもう放って、前を向く。と、歌川うたがわさんが。「行くぞ、音を立てるな」

 静かに近付く。

 何者かは、駐車場の中腹まで来ると廃アパートの壁に向かって歩き出した。そいつに向けて、五メートルくらい離れた所から歌川うたがわさんが。「動くな! そのまま手を上げろ、こっちを向いたら撃つ!」

 その者は黙って両手を上げ、制止した。

 その手にあるスマホから声も音もしない。今は通話中ではないみたいだ。

 近付いてから気付いた、この相手は女だ。動き易そうなスキニーのズボンと茶色のマウンテンパーカー。パーカーが少しゆったりとしていたためか遠くからでは気付き難かったが……近場から見た時の肌の艶から思ったのだ、きっと女だと。長くて潤いのありそうな黒髪を縛らず垂らしたままなのも、そう見える理由の一つだ、これも遠くからでは男かどうか判別が付き難かった。

 そいつが、瞬間的に振り向いた。

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