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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第四章 ケズレルモノ

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28-2

 目の前で起こったのは、佐倉守さくらもり家の誰からも聞いたことがない現象だった。

「ど、どうしたの? 大丈夫? ふらついてたけど……」

 実千夏みちかが僕にそう言った。

 男の子を助けたことに関しては何も言わなかった。あれでいい――いや、あれが人としてすべきことだと思ったんだろう。

 とりあえず返事を考えた。だが微妙な言い方しかできない。

「ちょっといつもと違うことが……起こったから……。や、大丈夫、えっと、一気に使って疲れただけだよ、何でもない」

 気にさせないようにはしたかった、それが最低限、僕にできること。まあうまくできなかった気はするけど。

 そう思ってから立ち上がって少し進み出た。

 フェンスの柱を右手で触ってみる。そっと。

 フェンスは鉄でできている。――予感がした、目の前の柱の今触れている部分が()なる(・・)んじゃないかと。手を引いて見てみる。予感通り、触れた所とその付近の部分は手の形に削れたようになった。

 なんでこんなことが?

 だるさが随分消えたのが分かった。頭もスッキリした……。もう一度触れる。今度は削れない。つまり?

 つまり……この手で削る必要がなくなった? だるさを消す必要がなくなった……?

 僕はどうやら、鉄に触れることで、手から直接鉄分を大量に吸収することができるようになっている。そんな馬鹿な。ありえないなんて言葉でさえももうくくれない。これはもう、それくらいの事態。

 こんなの聞いてない。誰かに相談しないと。

 と、僕が考えた時、実千夏みちかは、フェンスの網のなくなった部分や柱の手形を見て首を傾げた。

「何これ、だいちゃんがやったの?」

 隠す必要は……ないな。

 そう思って答える。「うん、そうみたい。なぜか突然起こった……っていうか、吸収したみたい。摂取したってことだと思う、特別なサプリを飲むみたいに。でも、それより早く回復した……尋常じゃないペースで――」

「そうなんだ……。よかったね、そんな風になれて」

「え、ああ……、うん、そうだね」本当によかったのか? 確かにプラスのことかもしれないけど。

 僕が考え込んでしまう中、実千夏みちかは気付いたらしい。「ああ、だからさっき『いつもと違うことが』って言ったんだね」

「ああ、うん、そう」と、うなずいてから僕が最初に考えたのは、実千夏みちかはこういうことを誰にも言わないと約束してるし、実際言わないから一々注意しないでおこう、ということだった。

 だからあとは「さ、戻ろっか」と言って手を下げるだけ。それに今これ以上考えてもしょうがない。

「そうだね」実千夏みちかの返事だ。

 各自、屋上の出入口付近の壁際に置いていたサブバッグを手に持つと、屋内に戻った。




 帰宅後、「ただいま」と言ってから部屋に直行する。

 その途中で、姉が部屋に友人を連れてきていることに気付いた。これじゃあまり騒げない、まあ騒ぐ気もないけど。でも部屋に来られたら困るな、と思いながら自室に入った。

 通学鞄の側面のポケットからスマホを手に取り、その鞄を机に寄り掛からせるように置いた。そのスマホでとりあえず檀野だんのさんに掛けながら、ドアの向こうに耳を澄ませた。

 姉は自分の部屋で友人と二人くらいでしばらく駄弁だべりそうだ。

 そんな空気感だと思った時、電話口に声が。「やあ大樹だいきくん、久しぶりだね」ゆったりとした声だった。

 よかった、忙しくないのかも。「あの――」

 僕は廊下とは反対の壁際にサッと移動し、姉の部屋に声が届かないようにした。姉の友人に聞かれる訳には。念には念をだ。

 檀野だんのさんに詳しく説明しながらポケットに手を突っ込んだ。そこから取り出す。シャー芯のケース。もし行く必要があればゲートを作る、その準備はできた。

 それまでの間に説明は終わっていた。そして問う。「どうですか? こんなことを佐倉守さくらもり家から聞いたことがあったりしませんか?」

 すると檀野だんのさんは言った。

「あの人達から聞いたことはないよ。でも鉄が手形に凹んでるかもってのは、もしかしたら……思い当たる節はある」

「え、教えてください、一体何が」

「いや、何が起こってるかを知ってる訳じゃない。大樹だいきくんが言う鉄の凹み……と同じことが、もしかしたら今、別の場所でも起こってるかもしれないってだけだ」

 一瞬、そんなまさかと固まってしまう。別の場所でも……?

「え、それって、じゃあ、佐倉守さくらもりとはまた別の」

「いや……さあ、どうなんだろうな」

 それから少し間があった。

「今何も分かってないんだよ、今の今まで気にしてなかった。大樹だいきくんの話を聞いてもしかしたらと初めて思ったくらいでね。これから調査する、何か分かったらまた連絡するよ」

「お願いします」

 今日はゲートを使わずじまいだったが、また別の日に必要になる。そう思ってから僕は、手の中のケースをいつの間にか、軽く握り締めていた。

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