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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第二章 X

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25-5

 やっと完全にいつも通りの生活に戻ったのではないか。もう護衛もされていない。退院・・後、特に事件も起こっていない。

 それだけに平穏な毎日が身に染みる。

 駅の出口から少しだけ入った所にあるベンチの背もたれに体を預け、なんて日々を過ごしたんだと思いながら空を仰いだ。駅の上は曇り空だった。

 折り畳み傘を持ってきてはいるけど使わないで帰れればもっといいな――なんて思ってから少し経った頃、実千夏みちかが駅の出口から走ってくるのが分かった。

 実千夏みちかが僕の前まで来て言う。「ごめん、遅れた?」

 僕は約束の四分前くらいに来ていた。実千夏みちかは二分前だ、遅れてはいない。まあその事実があろうとなかろうと、退屈してなどいない。「全然待ってないよ」

「そっか、よか……」実千夏みちかはそこで息をすら止めたようだった。「その怪我、い、痛い……の? 今でも……」

 実千夏みちかが『どれ』のことを言ったのか。実千夏みちかの視線と僕の体を見て確かめた。足や腹、肩の包帯はまだ取れていない。見えていたのは肩の傷のための包帯。視線もそこら辺。

「痛くないよ、今はね。大丈夫。まあ無理はできないけど、それだけだよ、ホントにホント」

「そ、そっか……」

「そんなことより、大事な話をしないとね」

「そ、そうだね。じゃあ、案内するね」

 それから、実千夏みちかがよく行くカラオケ店へ――。

 腕を組んだりはしなかった。実千夏みちかからしなかったのは、僕が痛がると思ったからかもしれない。実際まだちょっと……という部分はあるっちゃある。僕の方からもそう誘ったりはしなかった。強制したくなかったからだ。



 普段ならデザインを楽しむのと夏の課題、趣味とデートの日々を過ごしているはずだった。だが。

今はカラオケ店。その一室に、店員から渡されたキーで扉を開けて入り、コの字に設置されたソファーに、まずは実千夏みちかが座った。ドカッと真ん中に。

 実千夏みちかはマイクなんかに手も触れずに。「さ、話してもらうからね。あれって……いったいなんなの?」

 どこから話すべきなんだろう。……よし、やっぱ最初からだな。そう思いながら僕は扉を閉め、実千夏みちかの右隣に座った。

 一から説明。隈射目くまいめの表立ってできない活動だけは伏せて――。

「そ、そんな……、じゃあ、最初のあれも」

 実千夏みちかが言ったのは、僕がマギウトに目覚めてからの、最初の拉致のことだ、実千夏みちかもさらわれたあの事件。

「うん。あの時、政略的に結婚したい、既成事実……っぽく相手をだましたい女性のせいってことにされてたけど、本当は、僕の力に気付いた人に利用されそうになってて……そのせいだったんだ」

「そ、そう……なんだ……」

 マギウトのために、僕の体内に存在するサクラという物質を消費することや、そのせいで多くの鉄分と、そもそも沢山の栄養が必要だということを知ると、実千夏みちかはこうつぶやいた。「そっか、だから食事量が、いつもあんなメニューで、量も――」そして僕に顔を向けた。

「うん、そういうこと」

 僕の返事のあと実千夏みちかは少し考えたようだった。何を考えたのか。

 僕が待つと、実千夏みちかは数秒ほどで。「ちょっとやってみせて」

 そう言われるかもとは思っていた。「いいよ」

 最近は常に念のためズボンのポケットに入れているシャー芯のケース。それを手に取り、自分の胸の前に持ってくる。その状態で採点画面側にある監視カメラを背にするように、実千夏みちかの左隣に座り直した。

 実千夏みちかの方をしっかり向くことで、どう操作してもカメラに映らないようにする。更に、この部屋唯一の扉にはめ込まれた擦りガラスの向こうに人がいないのを見計らう。

 人の気配がない時に、僕は念じた。

 芯は目の前で消臭スプレーの缶くらいの大きさになる。そして浮いたり、回転したり、太さを増して円盤になったり、そこから更に薄くなったり、厚みを増してこの部屋のスピーカーくらいの大きさになったり。

 もちろん大きさの限界は、僕の背中で隠せる程度。角度もそう。意識してそうさせてから、増減能力で減らすことで、フッ――と消してみた。

「変身は……」そこで僕は立ち上がり、監視カメラの前に手を置き、見られなくした。

 通行人の気配を見計らうと。「変身はこんな感じ」

 僕は意識して変身できるようになっていた。ここ数日その練習もしたのだ。変身してみる。白と黒の縞模様の猫に。それも巨大な猫。

 包帯がずれたりする可能性があったが、それをできるだけ抑えるために人間と同じ大きさの猫をイメージして――。そのおかげか、包帯や縫合ほうごう糸が千切れたり外れたりすることはなかった。

 そしてそれを解き、元の姿に戻る。縫合ほうごう跡に毛が挟まってないかと心配だったが、とりあえずは大丈夫なようだった。

 ほんの数秒のできごとだった。

 僕が座ったところで、実千夏みちかは。「す、すごいね……そんな感じなんだ……」

 僕はうなずいた。

「うん。でも、前は、八分経たないと変身が解けないと思ってたんだけど、最近になって、八分経たずに変身を解けるようになったんだ、自分の意思でね。維持もできる。九分、十分……、一時間、もっと長くも変身していられる。そういう意味では、僕だけが、今までの佐倉守さくらもりの変身可能だった人とは違う――みたいなんだよね」

「へ、へえ……」実千夏みちかはうまく飲み込めないような顔をしていた。それからまた。「じゃあ……えっと、それとは別の話だけど、あ、あの時、柱……というか、枠みたいなのを作ってたのも、その……」言葉に迷いながらのようだった。

「ああ、うん、それはこの芯を使ったマギウトだね。そうやってゲートを作った。ゲートの場合、枠状にするのに何本か同時に操らなきゃいけないんだよ」

「そ、そっか……」実千夏みちかはそう言うと黙り込んだ。

 最後に忠告。「そういう訳で、ぶっとんだ話だったと思うけど……、誰にも言わないでね。まあ言えないとは思うけど」

「そ、そうだね、誰にも言わない。言える訳ないしね」

「……ついでに歌う? 折角入ったし」

 提案されても実千夏みちかは中々返事ができないでいた。ショックが大き過ぎたか。少し間があってから。「そ、そうだね。楽しもっか」この時、今日初めて実千夏みちかがマイクを持った。

 聴いてみて分かった、実千夏みちかの歌声からは息苦しい感じが少しもしない。音程もずれることがあまりない。トロンボーンのおかげだろうか。

 声量は二人とも同じくらいかもしれないが、僕はたまに高音を出せない。

 それに息継ぎも多分僕の方が下手だ。声質もいつもながら魅力的だし。

 僕は素直に声にした。「歌うまっ、プロ並みじゃん」

「そ、そうかな。……えへへ、なんか嬉しいな」元気に照れながら笑う実千夏みちかは、とても可愛くて、急に触れたくなるほどで、この世で一番魅力的なんじゃないかと思った。

 今はそんな顔ができるが、この前までずっと不安だったはずだ。そのことを連想して僕は思った、もう不安にさせたくないなと。

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