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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第二章 X

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24-2

 ……あれから数日が経ってしまった。

 今もなお、大樹だいきは目を覚まさない。

 母はもう知っている。今回ばかりは、嘘で隠しておく訳にもいかない、それが分かっていたから檀野だんのさんに許可されて、私の知る限りのほとんど全てを話している。

 ただ、隈射目くまいめが人に言えないことをやってでも人を守っていることまでは教えてはいない。檀野だんのさんにも、「組織の実態に関しては教えたくなければ教えなくてもいい、マギウト使いをサポートしている点だけを話すのでも構わないんじゃないか」と言われている。

 その辺を気にしたのは、この力のことに組織の在り方がそれほど関係していないからで――、つまり、母が知る必要がないからで、それプラス、精神的負担に少しでもなるなら暗い情報を教える必要はない、と私自身も思ったからだった。

 なぜ帰りが遅いのかということに納得できても、今度は母の心に、本当に帰ってくるのか、術後何か起こりやしないかと、疑問が、不安が、どうしても湧いたことだろう。

 母は毎日花を買っては家に飾るようになった。きっと願掛けだ。うちのダイニングテーブルを生きた花が彩るうちは大樹だいきもきっと生きている、容態が悪くなったりなんかしない、帰ってきた大樹だいきと、この華やかさを楽しめる日が来る、きっと――そう願って飾り続けているんじゃないか――、私はそう思ってしまう。

 母は顔に出さないようにしているかもしれないが、私には分かる。最近あまり笑わないし、目の下にも隈。食事量も減っている、ちゃんと食べないとと母に言ったけど、それでもまだ……。

 母はここ数日で少しやつれた。

 だからか、息の詰まる毎日に感じた。

 私も食欲が普段のようにはないけど、生理現象には抗えない、食べる時は食べる。私も普段より肉体的にも精神的にも参るけれど、それ以上に母は食べない。

 ……早く起きて、大樹だいき。お母さんのためだけじゃない。私にだって言いたいことがあったのよ。あの時のこと。謝らせてもくれないの?

 目を覚ましてよ、こんなの気が気じゃないよ、大樹だいき





 ある日。午後二時。かなりの暑さ。母が倒れるんじゃないかと俺は思った。

 そんな晴天の日に電話が鳴った。家の固定電話。それに出る。「もしもし」

 相手の『男の』声。「ああ、近延ちかのぶくん? ……ついさっきなんだけどね、大樹だいきくんが――」

 その連絡の内容を、俺は震える指で家族全員に文字にして送った。

 そしてその夕方。

 家に帰ってきた母や父、妹と一緒に、奏多かなたって奴の操作する四個の消しゴムで作られたゲートを通る。

 まずはどこかの部屋の中に移動した。

 その後ゲート化を解いた消しゴムを操作して手に持った奏多かなたが、それをポケットに入れながら、俺達に――主に父に向けて。「こっちです」

 その部屋から出た先にある扉をも超えて、プレートを見て把握。さっきのはゲートルームという場所らしい。ゲート開通専用の場所か、多分――まあ、俺はそんな力があること自体知らなかったけど――。

 今いる場所は体育館のような場所。そこの本来の入口らしき扉から出て階段へ急いだら、上の階へと向かった。





 大樹だいきくんの寝ていたベッドを整えてから、私は、隈射目くまいめ組織内の看護師担当である入戸いりとメイさんに指示した。「その点滴も片付けて」

「分かりました。新しく出すのは同じので大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫、よろしく」

「はい」彼女はその返事のあとで、てきぱきと点滴をスタンドから外す。

 その彼女が、私に。「それより、国邑くにむら先生もお疲れでしょ? 昨日、包囲作戦の負傷者のために現場に出向いたのに、それから夜番まで。ベッドでゆっくりしていいんですよ」

「私が連絡したし、もう少しだけ」

「本当に、お疲れ様です」

「ん」

 そう返事してから数秒くらいだった。扉が勢いよく開いたのは。



 母はプレートの文字を目で追った。病室だと分かった所の扉を、母は勢いよく開けた。そして。

「だ、大樹だいき……は……」母がそう言った。

 駆け付けた私達に、国邑くにむらという女性が意味深な薄い笑顔を向けた。明らかに陰りのある感じに見えた。

 ま、まさか駆け付ける間に何かあった……? その表情は、どういう――?

 私達は説明を待った。母も兄も父も、国邑くにむらさんの言葉を待ったのかもしれない、何も言わなかった。

 少しのあいだだけ、場が無音になる。その間のあとで――どう話すか脳内で整えていたようで、それから――国邑くにむらさんが言った。「今は植物研究管理室にいると思います、すぐそこです」

 よかった、何もなかったんだ、目を覚ましたとは聞いたけど……、何もなくてよかった……。

 私がそんなことを思ったあとも国邑くにむらさんの言葉は続いた。

「ここに散歩できる場所がろくになくて……庭園なんかが下の方にありますけど、でもまだ階段は歩くなって言ってあるんで。まあ、歩くの自体、今はゆっくりしかできませんが。ああ、えっと、彼、ここの緑がどんな風に植えられたり研究されたりしてるかってことに興味があったみたいで、それで、すぐそこの植物研究管理室に――今もいるかと」

 そのあとで、国邑くにむらさんは微笑みを浮かべて。「何にしても、よかったですね、目が覚めて」

 母の顔が明るくなる。涙も滲む。それを堪えたような顔になる。そうなってから母が頭を下げた。「ありがとうございました!」

 それに対し、国邑くにむらさんが。「当然のことをしただけです」それだけでなく、また言葉を添える。「ほら、行ってやってください、面会謝絶でもないです。会いたがってますよ」

 そう言われると、母は次の瞬間には頭を持ち上げていた。「では失礼しますっ」そう言い残して母はすぐに駆け出し、この部屋を出ていった。

 それを見ていた私も、一礼し、母を追い掛けた。

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